第七幕!悪の巣
文字数 8,159文字
皆、昨晩はぐっすり寝れたのだろうか。仮眠をとってる者は1人もいない。きっと危険極まりないプロジェクトに緊張して、眠気すら来ないのだろう。
それにしてもカネスケの運転は上手いうえに早く、今後は彼1人に任せても良いくらいだ。たまにふざけて危ないことをするので紗宙がそれに対してキレる。その様子を先生が微笑ましく見守っていた。港に着くまで15分あるかないかの間ではあったが、凄くほのぼのした時を過ごせた気がする。
典一は、ずっと外を睨みつけている。いつ拳銃で撃ち殺されてもおかしくない俺達だ。どんな時でも襲撃に備えているその姿はとても心強い。
◇
朱鷺メッセ付近のパーキングにSUVを止め、歩いて待ち合わせ場所へ向かった。 ふと思えば、カネスケ以外の4人は、第一部隊の面々とは初対面である。特に緊張している訳ではないけどそわそわする。
所定の場所に到着すると、向こうから男がやってきて、カネスケに手を振った。おそらく彼が糸木であろう。
軽い挨拶を済ませてから、彼の紹介で第一部隊との顔合わせを行なった。メンバー8人は精鋭と聞いていたので、厳つい面々が集まっていると思いきや、意外にもそんなことはなかった。
それから、カネスケの言っていた4つの部隊に分かれる。この作戦において、アジトに潜入する部隊が先行して島に入り、次の便で残りが渡航するそうだ。
各々の説明が終わると、カネスケと紗宙が俺のところにきた。カネスケは、意気揚々と声をかけてくる。
「絶対成功させて、打ち上げで美味い日本酒でも飲もうぜ。」
「映画でよくある死亡フラグ立たせるような発言するな。」
俺が冷たい目で見つめると、彼は慌てて気持ちを切り替える。
「おお悪い、とっとと奴を引っ捕らえるから安心しな。」
続いて紗宙も話に加わる。
「私も頑張るから。それに、直江くんは死なせない。」
彼女の強い思いも伝わってくる。俺は、心配することすら申し訳なく感じ、2人に期待を寄せることにシフトチェンジする。
「みんなで生きて帰ろう。約束だ。」
多分戦い慣れしている奴らからしてみれば、こんな作戦など序ノ口なのかもしれない。でも俺達は、訓練すら受けたことのない普通の人間だ。一戦一戦が背水の陣に感じる。
話しが終わると、カネスケと紗宙、それから第一部隊の隊員2人は、フェリー乗り場へ去って行った。
俺は、彼らに一言も別れの挨拶をしていない。どうせまた生きて会える。そう信じているから。
◇
カネスケ一行が佐渡へ上陸した頃、ようやく俺たちもフェリーに乗り込んだ。
この日の日本海は、快晴だけど風が強い。しかし、思っていたよりも船が揺れることもなく、酔いに苦しめられることは無さそうだ。
船がゆっくりと海原を超えていく。俺は、飲み干したコーヒー牛乳のパックをゴミ箱へ投げ入れてから、気晴らしに船の最上階へ登った。
甲板に出ると、先生が空を眺めている。彼の長くサラサラな髪の毛が、風に靡かれていてカッコ良い。
「なんか鬼ヶ島へ行く気分だな。」
「そうですね。鮮やかに鬼を駆逐しましょう。」
「それにしても先生は、この国が今後どうなると思うか?」
「荒れ果てるでしょうね。既に動乱の火種は全国に散り始めております。いつ日本という国が消えてしまっても不思議ではない。」
彼は、死地に向かうというのにも関わらず、平常心を一切崩さない。それはある意味で才能だ。そして彼の声を聞くと、荒れ始めていた感情が少しばかり和らぐのである。
俺は、想いが不意に喉から溢れかえった。
「先生。俺さ。政治も軍事も経済も、何もかも人並み以下、何もできないし何も知らない。なんかリーダーになってしまったけど、分からないことだらけ。だからその、これからもっといろんな事教えて欲しい。」
先生は、いきなり何を言い出すのかといった顔をしながらも、微笑したうえで答えた。
「もちろんです。私が持てる知識、技術、全て伝授させて頂きますのでご安心ください。リーダーの役をお願いしておいて、途中で見放すような愚かな真似は絶対にいたしません。」
見放すような真似はしませんか...。見放されたことしかない俺は、その言葉をどこまで信じて良いのかまだわからないでいた。
顔を海の向こうへ向けると灯台が見える。上陸の時が刻々と迫っていた。
◇
まだ少し時間がある。外は風が強いので、船内の雑魚寝スペースへ足を運んだ。周りを見渡すと、ふと違和感を覚える。女性客が1人もいない。どおりでむさ苦しいわけだ。
気になったので、隣にいた糸木の部下の宇佐美に聞いてみた。すると彼は、小声で囁くように言う。
「官取井のいるところから女は消える。なんたって奴は女マニアだからな。美人は捕らえられるか夜逃げして、ブスは利用されて消される。だから男ばかり残るわけよ。島にもまだ女性はいるが、教団に逆らわないように細々と息を潜めて暮らしているらしいぞ。」
俺は、官取井という男を知らない。ただ、最悪な野郎だということはよく理解できた。 宇佐美はおしゃべりが好きなのか、詳しい話を聞かせてくれる。
「周りの奴らは、よくそんなゴミ野郎に付いていくなと思わないかい?」
俺が頷くと、彼は知識を披露した。
「答えは簡単よ。奴は、両腕と呼ばれる切れ者を2人従えている。その2人を使い、自分に異を唱える者や逆らうものを追放、暗殺、洗脳をしてイエスマンで身を固めているのよ。」
「その2人とは、どのような人物なんですか?」
「1人は、情報商材と詐欺で多額の富を築いた経営者の岩井智也。もう1人は、教団の暗部と言われる特殊武装集団の1つ「NINJA」で経験を積んだ殺人忍者の酒又小太郎。」
どちらも聞いたことの無い名前だ。どうせ小者なんだろが油断は禁物である。俺は、その2人に関する情報を入念にメモすることにした。
「切れ者がいる、なんて話したら困惑するだろうが安心しな。能力あっても弱点がない訳じゃない。まず、岩井は何か格闘技をやってもいなければ、軍事訓練を受けていた訳でもない。いたって普通の人間だ。それに頭はキレるが、奴はすぐに人を馬鹿にするので、配下からの人望が極めて薄い。付け入る隙はいくらでもあるのだ。お宅の諸葛先生が謀略の1つでも用いれば、すぐに潰すことはできるのではないかな。」
どうやら、官取井の恐怖によって支配された組織の結束は、諸刃の剣のようである。俺が少し息をつく。すると、宇佐美が少し難しそうな顔で言う。
「問題は酒又よ。奴は術も使いこなすと言われるエリート忍者。身体能力も計り知れない。この越の国で、教団を批判した者が、奴の手により何人も消されている。あれと遭遇して時、食い止められるかどうかが一番気がかりだ。」
俺の中で不安が渦巻いた。そんな強い奴に勝てる自信なんて一切持ち合わせていない。それに気持ちで勝ったとしても、力量の差がとてつもない。どうすれば良いのだろう。
「奴には弱点とかないのか?」
「分からん。だが、忍術を使える人間がこの世にいるなんて常識的にありえない。仮に使えたとしても、何かトリックがあるに違いはない。まずはそこを見極めることだろう。
しかし、身体能力に関しては、紛れもない事実だ。弱点を敷いて言うなら、奴も生身の人間ということだな。彼に勝てるくらい強い人間がいればなんとかなる。」
思い当たる節があった。そう、格闘家である典一だ。しかし彼はまだ傷を負っている。期待はしないほうが良いだろう。
宇佐美は、忍者部隊に盗み聞きされることを危惧して、その場を離れていった。もう降船の直近である。島に入れば迂闊に人は信用できない。ここからは、動揺を隠しつつ慎重に動く事に決める。
◇
カネスケ一行は、レンタカーを借りて島の反対側にある佐渡金山へ向かった。糸木の部下である樋口と色部が案内してくれる。一面に広がる田園と、転々としている住宅街。でっかい病院や24時間営業のネカフェもあるこの離れ島のいたるところに、ヒドゥラ教のポスターが張り巡らされている。住宅のポストには奴らが発行した「世直しの報」、という気味の悪い新聞が無理くり詰め込まれていた。
金山へ近づくにつれて、白装束に謎の紋章、ヒドゥラ教の出家僧どもが目につくようになっていた。途中コンビニで休憩した時に奴らと目があったが、特に警戒されているそぶりも感じない。
沼田で大暴れしたとは言え、全国的に教団内で指名手配された訳ではないようだ。しかし、奴らの紗宙さんに対する目線は、明らかに他の3人へのものとは違っていた。
色部から聞いていたが、どうやら官取井に美人を献上すれば目にかけられ、教団新潟支部での地位が上がるそうだ。幹部になると、甘い汁を吸わせてもらえる。だから末端は、目の色を変えて若い娘を物色しているのだとか。
カネスケからしてみれば、気持ち悪いの一言に尽きる。
タバコを吸っていると用を足し終えた樋口がやってきた。カネスケは、さっそく作戦を提案してみる。
「あいつらに官取井の元まで案内させた方が、手っ取り早く行きそうじゃないですか?」
「確かに。でも、自ら女を差し出す観光客なんて怪しまれはしませんか?」
「あまりいないから珍しがられる。そして奴に謁見できる可能性も高まります。」
「なるほど。では、やってみますか。」
奴らが車の中にいる紗宙を舐め回すように見ていた。カネスケは、樋口と2人で教団関係者の元へ歩み寄る。
「あの、すみません。実は俺たち、ヒドゥラ教に入信したいと考えているのですが。」
奴らの1人が迷惑そうな顔で見てくる。
「なんですか、あなたたちは。入信なら礼拝所へ行けば良いではありませんか。」
彼らは、入信志願者に対して意外と冷たいようだ。本当に入りたいわけねーだろと思いつつも、カネスケが苦笑いする。
「いやー、なかなか勇気が出なくて。それに風の噂で、この辺では官取井様に教えを説いて頂いた方が良いとのことを聞きつけました。ですから、佐渡に観光という名目で渡り、入信しようということにしたのです。」
樋口が間髪入れずに付け加える。
「そ、そうなんです。俺たち親が厳しくて、なかなか官取井様が直々に説法しているこの佐渡へ渡らせてくれなかったんです。」
奴らがまだ疑い深そうな目で見てくる。そこでカネスケは、例の一か八かの交渉へと乗り出した。
「ちなみにあの車に乗ってる男と、その隣に座っている女も、俺たちと同じ入信希望者です。」
すると、男達の目つきが宗教家から野獣へと変わった。その目つきは、出世欲と性欲を嫌でも醸し出している。
「女もか???」
カネスケが頷く。すると奴らは、人が変わったように付いてくるよう指示を出した。
ついに潜入する時が来たのだ。カネスケと樋口は、車に戻ると色部の運転で奴らの車の後へ続いた。
車内では緊張が続いている。ついに敵の懐へ潜り込むのである。奴らは、修行を理由に何人もの人の命を奪ってきた極悪集団だ。いつ殺されてもおかしくはない。それに女を餌に釣っただけで用件を許諾された。あまりにも簡単すぎて、罠なのかと疑ってしまう。カネスケはそんなことを考えていた。
すると色別が小声で話しかけてくる。
「官取井は切れ者。俺たちの謀略に気付き、基地の入り口で紗宙と引き離して俺たちだけ殺害するかもしれん。その辺はどうするおつもりか?」
カネスケは、目の前を走る教団の車を見ながら、あらかじめ考えていた策を打ち出す。
「考えはあります。ですが、色部殿に1つ芝居をしてもらわねければならない。」
「どんな芝居だ?」
カネスケは、間を空けてから、意を決して言葉を吐いた。
「新潟官軍を奴らに売ってもらいたいのです。官軍の内通者という設定で奴らに情報というメリットをプレゼントする。もちろん8割は嘘の情報を。」
「なるほど。官取井にとって紗宙さんと俺は殺すのに惜しい人間となり、カネスケと樋口は2人をつれてきた人間ということで、無様な扱いを受ける確率が低くなるということか。」
「いかにも。それに俺と樋口が牢にぶち込まれても、外にいる人間が1人でも増えれば策の成功率が極めて高まる。」
色部と樋口が納得してくれたようだ。
この話が終わり、少し間を空けてから紗宙が尋ねてきた。
「直江くん。官取井に献上された女性ってどうなるのかな。奴と一緒にいる期間が短かったとしても、何してくるかわからないんだよね?」
「すみません、そこは俺を信じてくださいとしか答えられません。ただ糸木殿から聞いた情報によると、奴は相当多忙な日々を送っています。故に、毎週木曜日だけ、施設の一角の館で酒池肉林を繰り広げているらしい。今日は日曜日。それまでに事を済ませてしまえば、酷いことをされる可能性は低いです。」
カネスケは、申し訳なくて彼女の顔を中々直視できず、恐る恐る目を合わせた。当然ではあるが、彼女の顔色が悪い。
「そうであってくれればまだ良いんだけど...。」
不安そうな表情が緩まない。それもそうだろう。まるで、エロ漫画に出てくるオークのような奴らの元へ、囮として行くのだから。
「命に代えてでもお守りしますよ。そうしないと、蒼や先生に殺されちゃいますしね。」
彼女は、彼の冗談に作り笑いをしてから、ただ静かに頷いていた。
◇
島の奥地へどんどん進んでいく。深い森を抜けると、そこには工場の遺跡みたいな建造物、それに付随して建てられた教団の施設が立ち並んでいた。
どデカイ駐車場に車を止め、先行していた信者2人とともに教団施設へ案内される。どうやら官取井がここに滞在しているそうだ。
施設の内部は、いくつもの部屋に分かれていて、信者達がまるで感情を失ったような顔で修行にのめり込んでいた。なかには疲労でぶっ倒れている者もいる。そういう人間は、上級信者達に別の部屋へ連れて行かれる。そしてその部屋からは、人のものとは思えないうめき声が度々上がっていた。
カネスケが後ろを振り返る。紗宙は微かながら顔がこわばらせ、手が震えているようにも見えた。だがそれでも、周りに悟られないように必死で堪えている。カネスケは、必ず助け出すという思いを強く固め、応接室へ足を踏み入れた。
応接室に入ると、その光景に一瞬足をすくわれた。部屋の真ん中にガタイの良い強面が座っている。おそらく官取井だろう。
だがそんな事はどうでもいい。部屋の隅にある四角い檻の中でうごめく、女の姿をした何かに目がいってしまう。目が死んでいる。そして瞳孔を見開きながら、官取井の名前をずっと連呼している。何かを求めるように。
それに気を取られていると、官取井が声をかけてきた。
「こいつヤバいだろ。ポンコツ過ぎたから薬物の沼に沈めてやったわ。」
憎たらしい営業スマイルを見せつけつつ、ゲハゲハ笑っている。その隣で、気持ち悪い笑顔をした官取井の弟子みたいな男もムフムフ笑っていた。
「すまんな。自己紹介が遅れたが、俺が官取井容。こいつは岩井だ。」
カネスケらも自己紹介をして、簡単な会話が終わる。すると官取井は、カネスケら3人を端に押し退け、紗宙を口説き始める。岩井は、直属の信者を数人呼び、それを観察しながらヘラヘラ笑っていた。
カネスケは、胸糞悪い光景に不快感を覚えながらも、冷静な口調で話を切り出す。
「その女は、官取井様のセフレにでもなさってください。それからもう1つ、お土産を持ってまいりました。」
官取井は、紗宙の顔を撫で回すのを一旦辞め、カネスケの方を向いた。
「そこにいる色部という男は、新潟官軍の元隊員です。ヒドゥラ教の教えの素晴らしさに気付き、官軍を見限って入信したいとのこと。官軍の機密情報を熟知しているので何かと役に立つでしょう。」
官取井の目は、女を見る目から策謀家の鋭い目つきに変わる。その瞳は、薄汚く輝きを放つ。
「本当か!でかしたぞ直江くん。そして色部くん。よく我々の元へ来てくれた。感謝しよう。後で君達が知っている限り、あのバカどもの情報を履いてもらうぞ。」
カネスケは、軽蔑した目線でこの山賊のような宗教信者達を見ていた。すると奥から、忍者のような出で立ちの男が現れる。
官取井は、まるで彼に媚びるように男へ声をかけた。
「おお酒又さん、戻られましたか。今日もいい女手に入ったから酒のつまみにでもしませんか?」
すると酒又は、カネスケらを睨みつけた。
「官取井どの、こいつら全員官軍の放った罠です。今すぐ皆殺しにさせてください。」
官取井は、急に表情を変え、殺気を纏った目でカネスケを見た。
「内通者だって?そんなはずないよなー。直江!?」
官取井の目からは、何人もの人生を台無しにしてきた血の気配が漂っている。カネスケは、背筋が凍るのを悟られないように冷静を演じた。
「ええ。官軍側の人間ではありません。信じてください。」
官取井が目を閉じて考えこんでいる。そんな時、岩井がある提案を出した。
「いいこと思いついた。直江、紗宙、色部の3人で、そこにいる樋口を殺害できたら入信を認めるというのはどうですか?」
官取井は、ゴリラみたいに手を叩いてニヤついた。
「それ、いいね!酒又さんもそれなら納得致しますよね!?」
酒又も笑いながら頷く。
「それなら、早速この刀でやってもらいますか。」
カネスケは呆然と立ち尽くした。出会ったばかりで、特に恨んでるわけでもない。むしろ協力してもらってる身であるのに、その仲間を殺さなければならないのか。
それに、人殺しになるかもしれないという覚悟は、この旅に出た時点でもう決めていたが、こんなことになるなんて思いもよらなかった。
どうすればこの危機を脱せるのか。冷静になって考える。しかし、策が思い浮かばないくらい気持ちが動揺していた。奴らは、紗宙に殺させようと画策しだしたがそれだけはさせたくない。
一方の樋口も冷静で、刀を手にしたカネスケを見ても動揺しない。同じく色部もだ。
もうやるしかないか。カネスケは、腹を括って交渉に乗り出す。
「2人を代表して私が樋口を殺害しましょう。ですが、こちらにも疑念が生じました。官取井様、まずそれに答えてください。」
官取井は怒り気味だ。
「なんだよ。早く言えよ。」
「私が噂で聞いていた官取井様は、もっと器の大きい人物だ。こんな猜疑心丸出しで、部下の一言で判断をコロコロ変える人物ではなはず。あなた本当に官取井様ですか?
もし違うのでしたら、1信者の妄言で友を殺すような真似はしたくない。本物の官取井様だと証明していただけたら、私がこの男を抹殺致します。」
酒又が会話に割り込む。
「まあ、そんなことどうでもいいから早く殺せよ。」
岩井も同じようなことをニヤニヤしながら言う。すると官取井は、意外にも部下の発言を振り払う。
「わかった。証明してみせよう。」
カネスケは、考える隙を与えないように間髪入れずに言う。
「でしたら。そこにいる岩井様を殺害してください。私も親友の樋口を殺害するのですから、そのくらいやって頂けないと、器が大きいとは思えませぬ。」
岩井が少しビビっているようだ。
「そうやって僕を殺させようとしているのかい?
バカだな、僕は官取井様の右腕だぞ。どれだけ信頼厚いと思ってるんだ!」
彼は、檻の中から手を伸ばす女の顔面を蹴っ飛ばしながらヘラヘラ笑っている。
官取井は、ムッとした表情を浮かべていた。
「むむむ、わかった。考えておくから、今日の所は宿舎で休むが良い。」
カネスケは思った。人にデカいこと言いながら何もできない小物だなと。この話題がなあなあになった所で色部が口を開く。
「官取井様。官軍は明日の夜に佐渡攻略の為、少数精鋭を両津へ上陸させる予定です。奴らは、少数とは言え東日本屈指の武闘派集団。教団側も精鋭部隊を送り込むべきでしょう。」
官取井がこちらへ殺意を向けた。
「貴様らを信用したわけではない!!だが、検討はしよう。」
こうして岩井に連れられたカネスケ一行は、教団の宿舎で夜を明かすこととなった。薄汚い月の光が教団の施設を照らしていた。
(第七幕.完)