第十一幕!公国の闇
文字数 9,348文字
「電話しても繋がらなくて。それで一度ここまで来て、インターホン押したけど返事がなくて...。」
確かにインターホンを押したが誰もいないようだ。人のいる気配が感じられない。
「警察に事情を話して捜査してもらいますか?」
「それは駄目。灯恵のことバレちゃうから。」
結夏は苦し紛れに答える。警察にこの件を届ければ、結夏と灯恵の関係も警察に知られることとなる。それこそ、2人は離ればなれとなってしまうのだ。
落ち着きを隠せない結夏に紗宙が尋ねる。
「2人が行きそうな場所で思い当たるところはないですか?」
「行きそうな場所は大体探した。その他で考えられそうな場所は思いつかない。」
3人で考えていると先生が案を出した。
「そもそも、2人一緒にいなくなったとは限りません。とりあえず、流姫乃さんの件は捜査願いを出して、私達で灯恵さんを探すというのはいかがでしょうか?」
「そうですね。それなら良いと思います。」
俺が電話で警察に事情を話したところ、捜査をしてくれることになった。警察が来るまでの間、俺たちは何か手がかりがないか考える。
紗宙は、落ち着きを取り戻せない結夏の力になろうと積極的に話を聞いた。
「流姫乃さんのご家族とは、連絡取れないんですか?」
「流姫乃のご両親はいないわ。だから、一緒に暮らしている弟が唯一の親族なの。」
その瞬間、結夏は何かに気が付いた。
「そうだ、気流斗君のことすっかり忘れてた!」
気流斗は流姫乃の弟で、この間俺たちが髪を切りに行った時、灯恵と一緒にくっちゃべってた少年のことらしい。彼と灯恵は、夜遊びを頻繁にしていたらしく、友達以上恋人未満的な関係性でもあったそうだ。
結夏は、すぐに気流斗の通う中学校に電話をした。だが、返事は予想通りであった。気流斗も学校に来ておらず、彼も含めて3人が失踪した事となる。一体どこへ消えたというのか。3人のことをよく知っている結夏ですら、場所が思い当たらない。
そんな中、先生が何かを思いついたようだ。
「結夏さん。山形では、謎の美人狩りが相次いでいると新聞に書かれていましたね。」
「そうね。ここのところ物騒だから。」
「その可能性も無視できないのではないでしょうか?」
結夏が重い表情を浮かべる。
「1番あって欲しくない可能性ね。考えたくないけど、流姫乃は美人だから0とは言えないかも。」
俺が美人狩りについて尋ねると、彼女はどんよりとした顔をしながら教えてくれた。
「詳しいことはわからないけど、拉致した女性を秋田公国や暴走神使に売って金儲けをしている奴らよ。」
「卑劣なゴミどもだな。もし仮に奴らが関わっているとしたら、バックにそれらの組織が付いている可能性が高い。探すのが困難になるな。」
先生も眉間にシワを寄せて考えていた。何が起こっても余裕な顔をしている彼も人である。こういう時は、流石に深刻そうにしていた。
「美人狩り以外にも、そういった輩はたくさんいます。何か手がかりがあれば良いのですが...。」
その時、カネスケが見知らぬお婆さんと一緒にこちらへ来た。
「そこでタバコ吸ってたら、たまたまお婆さんと仲良くなってさ。」
こんな時に、なんて呑気なことしてるんだ。俺がそう思っていると彼は言う。
「こちらのお婆さん、昨晩に町外れで灯恵ちゃん達を目撃したらしいぜ。」
全員の顔色が変わる。結夏がお婆さんにそれについて聞くと、お婆さんは昨晩のことをゆっくりと語る。
「こんな夜中に出歩いちゃ危ないよって言ったのさ。すると男の子が、『姉さんを助けに行くんだよ。』って言っててね。女の子は、それについて行ってる感じでいくら引き止めても無駄だった。警察に連絡はしてみたのだけど、内容が詳しくわからなかったもんだから流されちまったんだよ。」
内容から考えるに気流斗は、姉が誰かに誘拐される場面を目撃して、彼女を助ける為に誘拐犯を追いかけている。その彼に灯恵も同行して姿を消した、ということになるだろう。その内容が事実なのであれば、美人狩りの被害にあった可能性は非常に濃厚だ。そしてそうであるのなら、彼女たちが今頃どこぞの団体に売り飛ばされている最悪の結末も想定できる。
結夏は深く傷つき、責任感に押しつぶされるように俯いた。
「私がもっとしっかりしていれば、こんなことにならなかったのに...。」
警察が来るまでの数分間、結夏は車の裏で泣いていた。紗宙が彼女につきっきりで話を聞いてあげている。身近の大切な人が突然失踪したショックは大きく、昨日まで元気だった彼女を想像できないほどやつれていて、見ているだけでも辛い気持ちになる。俺は、今すぐ何かをしてあげられない未熟さにやるせない気持ちでいっぱいであった。
警察が来ると、俺と先生、そしてお婆さんが事情を説明して、ようやく捜査してくれることとなる。ただ、秋田公国が絡んできたら手に負えない。その場合は、官軍に協力を要請しなくてはならないとのことだった。
お婆さん曰く、山形県警は優秀で、凶悪な山賊や浮浪者を幾度となく逮捕に追い込んでいるそうだ。だが例の美人狩りに関する捜査情報の更新が未だになされていない。これを見るとこの件には、どうやら秋田公国かそれに近い何かが関わっている可能性が高いと先生は推測した。
すると、カネスケが俺に言う。
「まだ決まったわけじゃないけどさ、仮に公国相手にすんなら官軍に頼んだ方が良いよな。」
「いや、官軍はマッドクラウンや暴走神使との抗争で手一杯で、頼ったところで手を回してくれないだろう。」
「じゃあどうすんだよ?」
「時間がない。俺たちだけでなんとかしよう。」
正気かよと言いたげなカネスケと相反して、先生は俺の意見に賛成のようだ。
「確かにリーダーの言う通りですね。早く見つけなければ、事態が困難になる可能性が極めて高い。」
「ですが流石に危なくないですか?」
尚も不安そう意見を垂れるカネスケを見て、先生は余裕の顔を浮かべる。
「教団のアジトに潜入できたのだから、今回も乗り越えられるでしょう。」
「規模が違いますよ。」
すると彼は、鋭い目つきでカネスケを睨む。
「怖いなら...、来なくても良いのですよ?」
カネスケが黙る。先生は、表情を戻すと話を続けた。
「先ほどお婆さんは、2人が北へ向かったと言っていましたね。流姫乃さんを追っかけたとして、何処へ行き着くのでしょうか。」
「新庄という街が秋田公国の植民地最前線都市となっているそうだ。おそらくそこではないかな。」
俺が警察から聞いたことを思い出すと、先生も同じことを考えていたようだ。
「では、とりあえず山形市周辺のことは警察に任せて新庄へ向かいましょう。そこで情報収拾しながら、3人を探すのが良いと思います。」
カネスケは、まだ少し公国を敵に回すことを躊躇しているようにも見えるが、俺が決めたからには従わざるを得ない。
「まあ、向かう途中で追いつくかもしれないしな。」
こうして俺たちは、新庄へ向かうことを決めた。
その後、家宅調査を終えた警察が戻ってきて報告を受けると、どうやら室内に異常はなかったらしい。流姫乃は帰宅途中に誘拐され、それを夜遊びで外出していた2人が目撃して後を追ったという流れが推測できる。
カネスケがタバコを一本吸い終えた頃。紗宙と、落ち着きを取り戻した結夏が戻ってくる。もう大丈夫かと尋ねると結夏は頷き、紗宙は自分がいるから安心してと言ってくれた。
6人はバンに乗り込み、今度は典一の運転で北上を開始する。
◇
山形市から新庄までは、検問等は無く進むことができた。秋田公国は、勢力範囲をこれ以上拡大する気はないと公言している。その為、山形市が公国から侵略される恐れはないと思われている。逆に公国は、新庄に構えた砦に駐屯軍を置いているので、何かあれば軍が動く。その上、山形市ないし仙台官軍に、そのような力はないとわかっている。故に、検問を置いていないのだという。
通常では1時間ほどかかるところを、この改造バンでぶっ飛ばしたところ、30分足らずで到着することができた。
新庄は、秋田公国の勢力下とはいえ、特に変わり映えのない日本の地方都市だ。唯一違和感があるとすれば、市の中央に立つ砦に掲げられている旗が、公国の物であるということくらいである。
街に到着して、バンをパーキングに停めた。敵組織の領土とはいえ、様変わりしない風景のせいで仲間たちの緊張感が今ひとつ低い。俺は、気を引き締める為にも、余計な雑談を挟むことなく作戦の話を始める。
「早速だけど、事件に秋田公国が関わっている可能性が高いから、迂闊な聞き込み捜査をすることはできない。どうしようか?」
俺の口調を聞いて、気を引き締めねばと思ったのだろう。典一が真っ先に手をあげる。
「まずは収容施設を探すってのはどうでしょう?それに、ガキ2人はバーガーショップとかで休息とってる可能性も捨てきれないっすね。」
「そうだな。まずは手分けしてできそうなことから進めるか。」
こうして2人ずつで手分けして捜索することに決める。俺と先生、紗宙と典一、結夏とカネスケの組み合わせだ。俺と先生は、公国の闇に迫る為に、支配の中心である政庁会館および領主の砦近辺へ向かう。そして残りの2ペアは、灯恵たちの行きそうな場所を探すことになった。
◇
政庁会館へ向かう道は、昼間ということもあり歩行者がちらほら見受けられる。特に何か異様な雰囲気を感じるわけでもないけど、この公国の公用語が秋田弁ということもあり、同じ日本人なのに聞きなれない単語を使っている場面が多々見受けられた。車のナンバーも全て秋田ナンバーに統一されており、公国の新庄市植民地化の強い意気込みを感じられた。
「流姫乃さんが秋田公国に拉致されていたとして、奴らの動機は一体なんなんだろうか。」
「ちょっと前に聞いたことがある話です。公国は、国の風俗やキャバクラで自国の秋田美人ではなく、植民地である山形から庄内美人を無理やり連れてきて、売女や遊女として働かせているとのことです。噂なので真相はわかりませんが。」
「そんな卑劣なことをしているのか。」
「あの国は、秋田さえ繁栄させることができれば、周りのことはどうでも良いのでしょう。建国者の千秋義清がそう言っておりました。聞いた話によると、秋田県内と県外の植民地では、待遇や経済、その他様々な格差があるとのことです。」
「本物の独立国家だな。いつか討伐しなければ。」
「ええ。ですが今の我々では、太刀打ちできる相手ではございません。ですので今回の奪還計画は難易度が高いのです。」
「もう少し公国のことを知りたい。教えてくれないか?」
先生は、頷くと語り出す。
秋田公国は約8年前、青の革命党の幹事長であった千秋義清が建国。義清は、元々青の革命党の幹事長を勤めていたが、党首暗殺事件により青の革命党が解党してから地元秋田へ帰郷。そんな彼が故郷の荒廃ぶりに心を痛め、秋田を守るために打ち立てた、戦後日本初の独立国家である。
もちろん、日本政府から認められてはいない。しかし政府は、政変やクーデター、ヒドゥラ教の台頭、宇宙交易問題なんかで振り回されて手一杯であった為、義清達を抑え込む余裕がなかった。
義清は加速していく少子高齢化、人口減少、経済の衰退、中央政治の腐敗から故郷を守るため、国を鎖国して独自の経済圏を作り上げた。そのお陰で県から人が出ていくことがなくなった。推定データによると、人口減少は改善の方向に進み出しているそうだ。
経済の面でも、荒れ果てた他の東北地域と比べれば、断トツで豊かになりつつある。また、近隣地域を植民地として支配しているが、あくまで自国の領土を守るための侵略行為であったという。事実、それ以上の対外的軍事作戦は行われていない。建国者である義清は、今から3年前にこの世を去る。現在は、その次男である雪火羅が国家経営をしている。
◇
先生が語り終えたあたりで政庁会館に到着。公国の山形支配の拠点であるだけに、そこそこ大きい建物である。例えるのであれば、国会議事堂の規模を少し小さくしたようだと言えば伝わるだろう。
中に入ると窓口がいくつも並んでおり、様々な手続きが行える造りとなっている。一般向けに開放している資料室があったので、公国の内情や美人狩りについて何か手がかりがないか調べることにした。資料室は、市立図書館のようになっていて、長い本棚に地域から搾取してきたであろう大量の本が所狭しと詰め込まれている。
2人で30分くらい本を読み漁っていたら、役人達が入って来る。そして彼らは、雑談に花を咲かせ始めた。部屋が静かなので、嫌でも彼らの話が耳に入ってくる。初めは、どうでも良い話ばかりでうんざりしていたが、耳に吸い込まれてきた話題が急展開を始めた。美人狩りについて意見を言い合い始めたのだ。これを聞くところによると、本当にそのような計画は行われていたようだ。
そして俺たちは運が良い。彼らは、昨晩の美人狩りについて語り始める。本に集中しているふりをしながら聞き取ろうと必死に耳を傾け、ついにトカゲの尻尾を掴む。彼らが言うには、昨晩山形市内で一人の女性を捕縛したらしい。連れて帰って新庄の砦に監禁していたところ、それを追って子供が二人が砦内に侵入してきたのでそれらも捕縛。女は公国へ輸送して、子供達はヒドゥラ教へ売り飛ばす予定となっているという。
俺は、その話を詳しく知りたいので彼らに話しかけようとした。ところが、先生に待ったをかけられた。なぜなら奴らが話をまだ続けようとしていたからである。
奴らは、俺たちがいるのにも関わらずお喋りを続ける。その役人が言うには、今夜あたり流姫乃を酒田にある酒田監獄へ輸送するのだそうだ。酒田監獄とは、秋田公国の中でも比較的大きな監獄で、山形の網走と称されるほど脱獄不可能な場所である。俺は、すぐにでもこの2人をとっ捕まえ、正確な情報を引き出したいと考えていた。しかし、相手がおバカだったので、それをしなくてもなんとかなりそうな気もしてきた。
一先ず流姫乃は砦にいる。恐らく灯恵たちもそこにいる。そして流姫乃は、今夜に酒田監獄へ輸送されてしまう。この情報から、夕方までには救出しないと手遅れになる可能性が極めて高いと言うことがわかった。
役人達は話を終えると、仕事の愚痴を吐きながら資料室から出て行った。静寂を取り戻した資料室で先生は言う。
「時間がないですね。3人を救出する策があるのですがリーダーは何かお考えですか?」
「いや、思いつかない。」
「わかりました。そうしましたらまずは早急に車に全員集めましょう。そこでお話し致します。」
先生が先に資料室を出る。俺は、いくつか興味深い本を見つけたので、持ち出すことに決めた。もちろん日本の法律では窃盗である。だがここは日本ではなく秋田公国の領内である。人身拉致を隠密に行う姑息な領主の治める土地だ。本の1冊や2冊盗んだことでどうってことないだろう。むしろ、俺がこの知識を公国以上に有効活用させる予定だ。そう自分に言い訳をして、リュックに本を忍ばせた。
それから、政庁会館を後にした俺たちは、砦の周辺調査を行なった上で車へ引き返した。
◇
車に戻るとすでに紗宙と典一が戻っていた。2人は、玉蒟蒻を頬張りながらたわいもない話をしている。危機感のない奴らめ。そう思いながら一応捜査の進捗を確認すると、どうやら彼らもやる気がないわけではないことがわかる。なんと目撃情報を手に入れたらしい。
その情報とは、灯恵たちが昨晩コンビニに立ち寄った際、アルバイトの男性に砦の出入り口や特徴を聞いてきたと言うものである。一般人でも砦の入り口くらいは見たことあるので、そのアルバイトは3つ入り口があることを教えたそうだ。そしてそれ以上のことはわからないと伝えると、灯恵と気流斗はタピオカを買って出て行ったそうだ。
2人がここまできて砦に向かったという内容は、役人が話していた2人が砦に侵入して捕まった事実と辻褄が合う。これで砦の中に3人がいる可能性が極めて高いことが証明できた。
捜査の進展に気持ちが湧き始めたタイミングでカネスケと結夏も合流。2人は、タバコ仲間として親交を深めたようでいつの間にか親しくなっていた。紗宙たちが入手した情報と、役人から盗み聞きした情報を共有した上で、カネスケ達にも成果を聞いた。
すると彼らも大事な情報を入手していた。それは、砦近くの公園で灯恵の携帯電話を見つけたのである。確証として、今朝の結夏からの着信通知が残っていた。灯恵は恐らく、その公園で携帯を落として、それに気づかないまま砦へ入ったのだろう。このことで確実に彼女達がこの街に来たことがわかった。
俺は、十分な確証をまとめ上げてから先生に言う。
「早く助けださないと大変なことになる。先ほど言っていた案を聞かせてもらおう。」
「その前に、私が知り合いの旅人やジャーナリストから集めた情報をお伝えしましょう。」
先生は、そう言い終えると咳払いをした。それからタブレットのマップを開き、衛星写真を見せながら説明を始めた。
「まず新庄の砦には、湯門、酒門、天門の3つの出口があり、監獄のある酒田へ向かう役人達の多くは酒門から出る。砦内部は特に堅牢な作りにはなっておらず、城主の桧町亜唯菜(ひのきまち あいな)の思うがままに生活感溢れる造りだと言われている。基本的に公国関係者しか立ち入ることが出来ない為、一般にはあまり知られてはいない。しかし、城主に気に入られる、もしくは仕事絡みの特別な事情がある場合は入場が許可される。知り合いのジャーナリストも、取材の為内部を見ることが出来た。」
典一が口を挟む。
「堅牢じゃないってことは忍び込みやすいってことっすか?」
「比較的には。しかし砦ですので簡単にはいかないでしょう。それに忍び込んでからがこの砦の厄介なところ。あらゆる場所に監視カメラとセンサーが張り巡らされていて、迂闊に動き回れないのだそうです。相当頭を使わなければ、その目をくぐり抜けられないでしょう。」
忍び混みやすそうに見せかけて反逆者を誘い、強固なセキュリティで晒しあげて捕らえる。まるで匂いで誘い出して獲物を捕縛するラフレシアのような砦だ。
俺たちは、怪盗でもなければ軍の特殊部隊でもない。そんな厳重な警備をくぐり抜ける策などあるのだろうか。考えても思い当たらないが、きっと先生なら既に策を練りおえているのだろう。
「なるほどな。では素人である俺たちに、その目をかいくぐる方法があると言うのか?」
俺の期待とは裏腹に先生は断言する。
「いえ、無いでしょうね。」
どんな解決策でも叩き出す彼がそう言うのだ。俺を中心にメンバー全員が不安に陥った。特に結夏は、追い詰められている当の本人でもある為、投げやりになりかける。
「それじゃあ3人を助けだせないじゃない。」
でも先生は、彼女の目を見ると清々しく微笑んで見せた。
「かいくぐるだけが全てではありません。他に突破する方法はいくらでもあります。」
5人が先生の方に注目する。
「まず毎週決まった曜日に酒田監獄へ向けて囚人を乗せた護送車が出ています。そう、それが今日なのです。時刻は21時頃。この情報は、秋田公国を建国時から見てきたジャーナリストから聞いたもの。間違いは無いでしょう。本日出発する護送車、これこそ流姫乃さんを酒田まで運ぶ車両なのです。何が言いたいかわかりますか?」
俺は、目を見開いて答えた。
「この車を襲撃して、彼女を助けだすってことか。」
「その通りでございます。それから秋田公国は、ネットでもリアルでもあまり闇の部分が明るみには出ていなかった。それは、今までこうした悪事を隠し続けていたからなのです。つまり、バレないように上手く拉致して輸送、洗脳まで行っていたのです。でも、失敗して明るみに出てしまえば、この計画を遂行している新庄城主の立場はないでしょう。それからここは、公国の法律が適用される。つまり、即死刑になる可能性もあると言うことになるのです。」
「公国の悪事を立証できる証拠。つまり、実際拉致された流姫乃の証言や体験を突きつけて揺さぶり、灯恵達を取り返そうってことだな。」
先生が頷くと、紗宙は彼に質問する。
「でも、そう簡単に乗ってくれるんですか?」
「ええ恐らくは。砦の主の桧町亜唯菜は、高飛車な性格だそうです。それに負けず嫌いでプライドが高い。領主として成り上がる上で、この致命的な失態は何としても揉み消したいと考えることでしょう。」
俺は、彼の考案した策に満足して、つい笑みを浮かべる。
「性格を利用しようってことか。有りだと思う。先生も知っているだろうけど、さっき政庁会館の資料室で公国の法律に関する本を見つけたんだ。そこには、情報漏洩は重罪であると書かれている。つまり、俺たちが美人狩りについて立証して世に公表してしまえば、桧町亜唯菜は重罪に課せられることは目に見えている。釣れる可能性は極めて高い。俺はこの作戦に賛成だ。」
すると、少々不安がりつつも皆が作戦に賛同してくれた。希望の光が見え始めたことで、各々の目つきにも自信が満ちてきたことがわかる。
「では、護送車襲撃の作戦の詳細を話します。まず公国の護送車は、ここから西へ16㎞程行った所にある古口港まで囚人を運ぶそうです。そこから彼らを船に乗せ、川を下って酒田へ向かいます。古口は交通の要所で、酒田へ向かう際は必ず通過するスポット。そこで待ち伏せて囚人を下ろしている所を狙います。」
「それは妙案だが、なんでその車に流姫乃さんが乗るってわかるんだ?もしかしたら、他の車両や別のルートで送られるかもしれないのに。」
「酒田に知り合いの旅人が住んでいます。その者曰く、毎回護送船から降りてくる囚人の多くは、美しい女性ばかりだそうです。こっそり取れた写真を送ってくれたのですが、この通りでございます。」
彼がタブレットに保存していた証拠写真を見ると、まさに美人ばかりが船から降りてきている場面が映っている。
「この可能性にかけて護送車を襲うとして、奴らもそういったことに備えて用心棒など武闘派に警備させていることだろう。そこはどうしようか?」
すると、典一が声を上げた。
「大丈夫です!俺がなんとかしますぜ!!」
俺は、典一が格闘家であることをすっかり忘れていた。彼がいれば大抵の相手はなんとかしてくれるだろう。
「決まったな。3人を必ず助け出すべく、まずは古口港へ向かうぞ!!」
5人は頷くと各々準備を始めた。俺は、今回の件で秋田公国の闇を知ったことにより、この日本の腐敗をまたもや目の当たりにした。もう二度と俺たちも含め、人々が争いに関与しなくて良い世界を作りたい。そんなことを考えながら運転席に腰を下ろす。古口までの運転担当は俺である。
(第十一幕.完)