第11話 予選二回戦
文字数 5,767文字
選手達は筋肉からウォダーインゼリーを渡され、その場で休憩していた。
「何か体力ともう一つ何かの値が回復する気がするわ」
恐らくMPが回復しているのだろう。本当に疲れた時はその感覚が実感できる。
「そろそろスクリーンの脇の機械両方起動しといて―」
「ヒャッハーイ」
「1号機起動完了です」
「2号機もオッケーでーす」
その間にも他の筋肉達が、何かの機械を起動する作業をしている? 体操だけで呼ばれた訳ではなく雑用もやっている様だな。
そして、他の筋肉達も、ぼうっとしている訳ではなく、競技場内に縦長の何かが書いてあるプラスチックの板かを沢山置いている。
一体何なのだろうか?
そんな事をしている内に、5分の休憩時間は終わってしまい、次の戦いが始まる。
「あんまり休めなかった7あ」
「頑張るわよ!!」
「クソッ5分てこんなもんか?」
「さあ! 予選第二回戦です」
男が右手を大きく上げ、スクリーンを指す。
「怖いわ……一体何が来るのかしら? もう捨て駒は使えないのに……」
捨て駒言うなし。
「二回戦は芸能人クイズです!」
「え? お笑い芸人じゃないんだ。芸能人ね? まあテレビはちょこちょこ見てるし行けるかも? それで今回は○×ではないのね? 純粋な知識かなあ? あっもしかして走らなくて済むじゃない! やったわ!!」
しかし、そんな彼女の耳を疑う様な事が、男の口から伝えられる。
「ルールの説明を致します。この広いフィールド内には、300枚程のプレートがばらまいてあります。
その中に、正解の名前が書かれた物が含まれたネームプレートが落ちています。
そして、それをいち早く拾った人が勝ち抜くと言うルールです。
問題の芸能人の顔がスクリーンに映し出されたら、即スタートです。
その人物の【正確】な名前の書かれたネームプレートを探して持って来て下さい。
先着8名が決まった時点で終了です! 制限時間は無制限です」
ほう。○×問題で走った後も、またプレートを探す為に広大なフィールド内を走り回らないといけないと言う鬼畜ルール。
休み時間の5分の間に、そのプレートを設置していたのだろう。
歩いた先に偶然正解が落ちていれば最高だが、これだけ膨大な数である。そう上手くもいかないだろう。
だが、500人の筋肉達は妨害してこない様である。そこは運営も空気を読んだのだろう。
「ちょっ、ちょっと待ってよ! もう少し休憩したいわ」
「足が棒の様だぜええええええ? 走ってばっかりじゃねえかよおえええええええ?」
「えー? まだ体力回復してい7いのに7あ」
「くそっ! で、でも、やってやりますよ!」
「小さい頃から川辺を命がけで走り回っていたんだ。この程度でへたばらんぞ!!」
「流石に笑えないぜ……お笑いの選手権の予選だぜ? 芸能人の名前を当てる必要性があるのかよ!! ……これじゃバラエティじゃねえか! ふざけんな!」
口々に文句を言う選手達。
「えー! また走る奴じゃない!! アリサ……もうへとへとなのにぃ」
アリサも文句を言い出す。が……何を言っているのだこの娘は? 貴公は一回戦最後の問題で、数メートルしか走っていないであろう?
それまではずっとフンガーの頭の上でゆっくり休んでいただけではないか! 走ってくれたのは殆ど奴だけであるぞ!!
「では、選手の体力が回復してしまう前に第一問! 正解は2枚だけ隠れています! 迅速にスタート!!」
ここまで露骨であると逆に清々しいな。選手を物? もしくは駒としか見ていない……そしてスクリーンには、サングラスをして満面の笑みのオールバックの髪型の黒いスーツを着た男性が映し出される。
「何が選手の体力が回復してしまう前によ!! あっ、あれはタモ利ね! 笑っていいですともとか、ミュージックエアステーションの司会者だ! しかし、プレートいっぱいあるなあ。
タ利モとかタ森とかタモリとかのプレートもあるわ! これはフェイクね? 成程! その中に本物のタモ利ってプレートが2枚だけあって、それを探さないといけないんだ!」
む? 私がこれから説明しようと思っていた事を、全て彼女が代りに語ってくれた様だ。
「うおおおおおおおお」
「探せーーーーーー」
「7んて数だよ。骨が折れる7あ」
「もう走れないわよ! 全く! 足だけ筋肉ゴリラになっちゃうじゃない」
選手は文句を言いつつも一斉にあちこち走り回る。○×クイズと違い、ただ走るだけではなく、探しながら走ると言うのは相当堪えるのではないだろうか? プレートを見る為に走っては止まるの繰り返しで、膝の関節にも負担をかける危険性もあり、更にはプレートもプラスチック製の滑りやすい物だ。うっかり踏んでしまって転倒と言う危険性もあるのだ。本当に危険である。
「あったよ! タモ利!! これですよね!? 一番乗りです!!」
見つけた選手は、司会の元へプレートを届ける。
「はい、確かに! 正解です! お見事です! 1抜けです。後7名です!」
「噓でしょ? こんなに早いの?」
そんな事を言っていると……
「あったわ!! 良かったーこれで休めるー」
「早い! 確かに間違いなくタモ利ですね! 二抜けです」
正解した二人の男女は、その場にへたり込む。
「正解のプレートが終わってしまいました。では、次の問題です! ですが、その前に500人の英雄達にプレート入れ替えの作業をして頂きます。選手の体力が回復する前に迅速にプレートを入れ替えて下さいね」
一貫して選手を休ませる暇を与えぬ運営。
「やった少し休める!」
しかし……
「うおおおおおおお」
ヒュンヒュンサッポトッ
「だあああああああ」
ヒュンヒュンサッポトッ
「選手の体力が回復する前に迅速にプレートを入れ替えて? ……やるぜぇえええええ? ヒャッハアアアアァ!」
ギュンギュンサッポトッ
500人の桜花ジャパンの方々が、1分もしない内に入れ替えが終了。凄まじい速さで、正に疾風迅雷。
その作業自体がもう見世物と言える程のクオリティだ。3人目は鮒津司さんの様だな。もう腕は大丈夫なのだろうか?
何故か先程よりも生き生きしている様に見える。お昼ご飯は早乙女のおごりのたこ焼きが確約されているからだろうか? まあ元気になってくれてよかった。
「くそー全然休めん」
「早すぎるぜあいつら……300枚のプレートに対して500人だもんなー一瞬だわな……」
「今回も正解は二枚だけ隠れています」
スクリーンには、優しそうな老人が映っている。
「え? ロウ・ガイ」
そう、アリサが見間違えるのも無理もない。そこに映った人物は、ロウ・ガイにそっくりなのだ。
しかし、服装は拳法着ではなくスーツで、髪型は辮髪 ではなくごく普通の髪型で黒い髪。頭皮がМ字型に露出している。
「でも違うよねロウ・ガイは料理人で、芸能人ではない筈よ……一体誰? 分からないわ……あっ! でもプレートに似た様な名前が書いてある訳でしょ? そこから多分推理出来そうね……いや! やるしかない!」
そう言いつつ周りのプレートを見てみる。
「うーん? これは吉・害か……隣のは基地・外ね? やっぱりキチ・ガイって読みそうよね。
まさかあの人ってキチ・ガイなの? あの人って芸能人なんだ。テレビでは見た事ないけど……あの禿げ方は間違いないわ」
アリサの言う人物は、前回登場した料理人のロウ・ガイの弟で、中国のキチという女性の婿養子に行った男である。
職業までは聞いていなかったが、どうやら有名人だったらしい。髪型の話もロウ・ガイから聞いていたので何となく分かった様だ。
「あ、名前は分からないけど、テレビでよく見る人だ。確か占い師のお爺さんだった様な……」
それでは答えのプレートも見つけられない気もするが……
「探せえええええええ」
「おお! 俺様の国の誇りだあああ。だから、俺様がぜってえに見つけるぜえええええええ?」
ダダダダダダダダッ
「みんなずるいよー大人の脚力見せつけて……多分正しい漢字は……知らないわ……ロウ・ガイからは口頭でしか聞いていないから……
キチの漢字は分からないなあ……
アリサは、先程の名前は知らないけど、テレビで顔だけは見た事はあると言っていた人とは違い、ロウ・ガイから直接聞いていた為、顔と名前を一致する事は出来た。だが、プレートは全部漢字で表記されていて、肝心の正解が見つけられないのだ。
「あったぜえええええ! 俺様が一番乗りぃぃぃぃぃシェイシェイだぜえええええええw」
3番目であるが……
「くー取られた……後一個かあ。こう言う時読者さんって得よねえ……だって前話の3話の私とロウ・ガイの会話を見れば、カンニング出来ちゃうもの。
本当に読者さんって凄いわ! 過去を指一本で遡って見る事が出来る最高の人種だわ……うっとり……私、憧れの職業1位は刑事だったけど、今はそれを抜いて読者さんが1位になっているわ。あー私も読者さんになりたーい……って、あるぇえええ? 私一体何を言っているのかしら?」
まあアリサの言っている事の殆どは間違いない。故に気にするな。しかし薄っぺらい誘導だな。こんな事でわざわざ前のお話を見てくれると思って言ったのだろうが……幼いな、アリサよ……
しかし、どう頑張ってもアリサは読者になる事は出来ない。それをその頭脳でも理解出来ていないのだ。
幼いが故に大きすぎる夢を抱いてしまった様だ。夢は夢と割り切れない愚かな彼女を許してやって欲しい。
「はい! 正解です! あと5名ですよ!」
「探せ探せ!!」
「喜知・涯違う! 基地・街違う! 吉・外違う! あっ思い出した! 確かロウ・ガイのガイは、イノシシの亥で、キチ・ガイのガイは、確か害虫の害って言っていたわ! それを虐めなの? って突っ込んだっけwwだから下の名前が害の奴を集中して探すんだ! もう! どこにあるのよー。ん? 既知・害? これで行ってみよう」
ダダダダダッ
「はいっ!」
「おっと、これは不正解ですね」
「そうかーじゃあ次よ!!」
ダダダダダッ
「あった! 奇知・害これは?」
「これも違いますね」
「うえーどうしようどうしよう……」
「くそー全世界の泥鰌よ、俺に……力を……だーーーーーー居たぜえええええ」
「はいこれが正解です。喜知・害ですね」
「うわーあんな字だったのかー悔しいよー……これからは名前を聞く度にどんな漢字で書くのって? 聞いておく癖をつけなきゃ駄目ね……」
そんな事が起こるのは非常にレアなケースであるが……
§ドンドン§
罪の無いフィールドを叩く最低なアリサ。
「正解! 2人……終わった様ですね! では入れ替えお願いしまーす」
ドドドドドド
筋肉のプレートチェンジタイム。この時だけは、フィールドに震度3位の揺れが生じている。
「おお! もう終わった様ですね、では次の問題に行きます」
スクリーンには眼鏡を掛けた、ふくよかな年配の女性が映っている。
「あるぁあ? うるぇすうぃいわぬえぇえ」
ぬ? な、何だこのねっとりとした喋り方は? 恐らく「あら? 嬉しいわねえ」と言った様だが、粘着質過ぎる喋り方だ……そんな喋り方で誰かが喜ぶ様な声が。一体誰なのだ?
「あれ? 確か受付のお兄さんが持っていた写真集で見たわ! 服は着てるけど蘇我子だ! 橋田蘇我子!! ドラマのエンディングでも原作者の名前出ていたわね。確か大化の改新の蘇我海豚の蘇我だった覚えがあるわね。よし、探すぞー」
ダダダダダダ
「ないよーどうして? これは?……江成 和己 ? これは渡鬼の鬼嫁の旦那の兄だから違う! 霧頭 佳苗 ? これは旦那の兄の嫁だから違う! 中須 霧江 ? これは旦那の兄の不倫相手だから違う! 数苗 力 ? これは甥っ子だから違う! 喜恵 和成 ? これは旦那の弟だから違う! 絆歌 絵里 ? これは旦那の弟の嫁だから違う! 狩江 絆 ?これは鬼嫁の旦那だから違う! 可成 江頭樹 ? これは旦那の弟の息子さんだから違う! 奈襟 和希 ? 嫁の弟の息子さんだから違う! 絵霧 数菜 ? 嫁の弟の嫁だから違う! 樹豆花 里奈江 ? 嫁の弟の不倫相手だから違う! 樹豆花菜 江利 ? 嫁の弟のもう一人の不倫相手だから違う! 霧苗 数 ? 嫁の不倫相手だから違う! 和喜 絵梨奈 ? 鬼嫁だから違う! 蘇我子よ! 紛らわしいなあ! どこよー! しかし、これ全部かずきえりなのアナグラムでしょ?! しかも関係者の殆どをそのアナグラムで構成してるわ……蘇我子やるじゃん♪ そんな才能があるんだから、90超えてヌードになっても許すしかないわねー。
全部探したら……恐らく後150個位は出てきそうだけど、疲れたから別を探そっと! 角野卓三違う! 橋田寿賀子全く違う!! 橋田管子うーん惜しいけど違う……消え去れこのゴミ! 何で蘇我子だけ蘇我子ファミリーも一緒に紛れ込んでるのよ!! 邪魔すぎよ! 本物の蘇我子はどこにあるのよー?……あっあったw」
紛らわしいネームプレートを罵倒しつつ、ようやく本物の橋田蘇我子プレートを発見する! だがよくアリサも登場人物の関係を把握してるな……しかし、この登場人物達、かなりドロッドロの人間関係の様な気もするが、気のせいか? まあよい。それを全て把握している記憶力は凄まじい しかし!!
「へへへっ! 頂きだぜぃ!」
「え? ちょwwおまwwバロスwwwww」
「正解です!」
「くそーあと一歩なのに……」
タッチの差で取られてしまう。いつも語ってはいるが、アリサは背が極端に低い。故に足も極端に短いが、腕も極端に短いのだ。
11歳女子の平均位の身長であれば、余裕で届いていたのだ。故に取れなかったのは完全にアリサが悪い。
「お! あったぜえ!」
そして、6人目も決定してしまう。
「正解です! 決勝進出出来る方は後たったの2人です! 最後の問題になります。では、入れ替え迅速にお願いしまーす」
3問の間、殆ど休憩も無く走り続けてフラフラになる選手達。
そして、プレート回収速度は回を重ねるごとに早くなり、物の30秒で入れ替えが完了。
この大会の運営は、徹底的に選手を疲弊させる事に重点に置いている。観客を楽しませる為なのだろうか?
そして、あっという間に最後の問題になってしまった。
アリサは勝ち抜く事が出来るのだろうか? それとも敗退し、選手ではなく1傍観者としてこの大会に参加する事となってしまうのか?
「何か体力ともう一つ何かの値が回復する気がするわ」
恐らくMPが回復しているのだろう。本当に疲れた時はその感覚が実感できる。
「そろそろスクリーンの脇の機械両方起動しといて―」
「ヒャッハーイ」
「1号機起動完了です」
「2号機もオッケーでーす」
その間にも他の筋肉達が、何かの機械を起動する作業をしている? 体操だけで呼ばれた訳ではなく雑用もやっている様だな。
そして、他の筋肉達も、ぼうっとしている訳ではなく、競技場内に縦長の何かが書いてあるプラスチックの板かを沢山置いている。
一体何なのだろうか?
そんな事をしている内に、5分の休憩時間は終わってしまい、次の戦いが始まる。
「あんまり休めなかった7あ」
「頑張るわよ!!」
「クソッ5分てこんなもんか?」
「さあ! 予選第二回戦です」
男が右手を大きく上げ、スクリーンを指す。
「怖いわ……一体何が来るのかしら? もう捨て駒は使えないのに……」
捨て駒言うなし。
「二回戦は芸能人クイズです!」
「え? お笑い芸人じゃないんだ。芸能人ね? まあテレビはちょこちょこ見てるし行けるかも? それで今回は○×ではないのね? 純粋な知識かなあ? あっもしかして走らなくて済むじゃない! やったわ!!」
しかし、そんな彼女の耳を疑う様な事が、男の口から伝えられる。
「ルールの説明を致します。この広いフィールド内には、300枚程のプレートがばらまいてあります。
その中に、正解の名前が書かれた物が含まれたネームプレートが落ちています。
そして、それをいち早く拾った人が勝ち抜くと言うルールです。
問題の芸能人の顔がスクリーンに映し出されたら、即スタートです。
その人物の【正確】な名前の書かれたネームプレートを探して持って来て下さい。
先着8名が決まった時点で終了です! 制限時間は無制限です」
ほう。○×問題で走った後も、またプレートを探す為に広大なフィールド内を走り回らないといけないと言う鬼畜ルール。
休み時間の5分の間に、そのプレートを設置していたのだろう。
歩いた先に偶然正解が落ちていれば最高だが、これだけ膨大な数である。そう上手くもいかないだろう。
だが、500人の筋肉達は妨害してこない様である。そこは運営も空気を読んだのだろう。
「ちょっ、ちょっと待ってよ! もう少し休憩したいわ」
「足が棒の様だぜええええええ? 走ってばっかりじゃねえかよおえええええええ?」
「えー? まだ体力回復してい7いのに7あ」
「くそっ! で、でも、やってやりますよ!」
「小さい頃から川辺を命がけで走り回っていたんだ。この程度でへたばらんぞ!!」
「流石に笑えないぜ……お笑いの選手権の予選だぜ? 芸能人の名前を当てる必要性があるのかよ!! ……これじゃバラエティじゃねえか! ふざけんな!」
口々に文句を言う選手達。
「えー! また走る奴じゃない!! アリサ……もうへとへとなのにぃ」
アリサも文句を言い出す。が……何を言っているのだこの娘は? 貴公は一回戦最後の問題で、数メートルしか走っていないであろう?
それまではずっとフンガーの頭の上でゆっくり休んでいただけではないか! 走ってくれたのは殆ど奴だけであるぞ!!
「では、選手の体力が回復してしまう前に第一問! 正解は2枚だけ隠れています! 迅速にスタート!!」
ここまで露骨であると逆に清々しいな。選手を物? もしくは駒としか見ていない……そしてスクリーンには、サングラスをして満面の笑みのオールバックの髪型の黒いスーツを着た男性が映し出される。
「何が選手の体力が回復してしまう前によ!! あっ、あれはタモ利ね! 笑っていいですともとか、ミュージックエアステーションの司会者だ! しかし、プレートいっぱいあるなあ。
タ利モとかタ森とかタモリとかのプレートもあるわ! これはフェイクね? 成程! その中に本物のタモ利ってプレートが2枚だけあって、それを探さないといけないんだ!」
む? 私がこれから説明しようと思っていた事を、全て彼女が代りに語ってくれた様だ。
「うおおおおおおおお」
「探せーーーーーー」
「7んて数だよ。骨が折れる7あ」
「もう走れないわよ! 全く! 足だけ筋肉ゴリラになっちゃうじゃない」
選手は文句を言いつつも一斉にあちこち走り回る。○×クイズと違い、ただ走るだけではなく、探しながら走ると言うのは相当堪えるのではないだろうか? プレートを見る為に走っては止まるの繰り返しで、膝の関節にも負担をかける危険性もあり、更にはプレートもプラスチック製の滑りやすい物だ。うっかり踏んでしまって転倒と言う危険性もあるのだ。本当に危険である。
「あったよ! タモ利!! これですよね!? 一番乗りです!!」
見つけた選手は、司会の元へプレートを届ける。
「はい、確かに! 正解です! お見事です! 1抜けです。後7名です!」
「噓でしょ? こんなに早いの?」
そんな事を言っていると……
「あったわ!! 良かったーこれで休めるー」
「早い! 確かに間違いなくタモ利ですね! 二抜けです」
正解した二人の男女は、その場にへたり込む。
「正解のプレートが終わってしまいました。では、次の問題です! ですが、その前に500人の英雄達にプレート入れ替えの作業をして頂きます。選手の体力が回復する前に迅速にプレートを入れ替えて下さいね」
一貫して選手を休ませる暇を与えぬ運営。
「やった少し休める!」
しかし……
「うおおおおおおお」
ヒュンヒュンサッポトッ
「だあああああああ」
ヒュンヒュンサッポトッ
「選手の体力が回復する前に迅速にプレートを入れ替えて? ……やるぜぇえええええ? ヒャッハアアアアァ!」
ギュンギュンサッポトッ
500人の桜花ジャパンの方々が、1分もしない内に入れ替えが終了。凄まじい速さで、正に疾風迅雷。
その作業自体がもう見世物と言える程のクオリティだ。3人目は鮒津司さんの様だな。もう腕は大丈夫なのだろうか?
何故か先程よりも生き生きしている様に見える。お昼ご飯は早乙女のおごりのたこ焼きが確約されているからだろうか? まあ元気になってくれてよかった。
「くそー全然休めん」
「早すぎるぜあいつら……300枚のプレートに対して500人だもんなー一瞬だわな……」
「今回も正解は二枚だけ隠れています」
スクリーンには、優しそうな老人が映っている。
「え? ロウ・ガイ」
そう、アリサが見間違えるのも無理もない。そこに映った人物は、ロウ・ガイにそっくりなのだ。
しかし、服装は拳法着ではなくスーツで、髪型は
「でも違うよねロウ・ガイは料理人で、芸能人ではない筈よ……一体誰? 分からないわ……あっ! でもプレートに似た様な名前が書いてある訳でしょ? そこから多分推理出来そうね……いや! やるしかない!」
そう言いつつ周りのプレートを見てみる。
「うーん? これは吉・害か……隣のは基地・外ね? やっぱりキチ・ガイって読みそうよね。
まさかあの人ってキチ・ガイなの? あの人って芸能人なんだ。テレビでは見た事ないけど……あの禿げ方は間違いないわ」
アリサの言う人物は、前回登場した料理人のロウ・ガイの弟で、中国のキチという女性の婿養子に行った男である。
職業までは聞いていなかったが、どうやら有名人だったらしい。髪型の話もロウ・ガイから聞いていたので何となく分かった様だ。
「あ、名前は分からないけど、テレビでよく見る人だ。確か占い師のお爺さんだった様な……」
それでは答えのプレートも見つけられない気もするが……
「探せえええええええ」
「おお! 俺様の国の誇りだあああ。だから、俺様がぜってえに見つけるぜえええええええ?」
ダダダダダダダダッ
「みんなずるいよー大人の脚力見せつけて……多分正しい漢字は……知らないわ……ロウ・ガイからは口頭でしか聞いていないから……
キチの漢字は分からないなあ……
アリサは、先程の名前は知らないけど、テレビで顔だけは見た事はあると言っていた人とは違い、ロウ・ガイから直接聞いていた為、顔と名前を一致する事は出来た。だが、プレートは全部漢字で表記されていて、肝心の正解が見つけられないのだ。
「あったぜえええええ! 俺様が一番乗りぃぃぃぃぃシェイシェイだぜえええええええw」
3番目であるが……
「くー取られた……後一個かあ。こう言う時読者さんって得よねえ……だって前話の3話の私とロウ・ガイの会話を見れば、カンニング出来ちゃうもの。
本当に読者さんって凄いわ! 過去を指一本で遡って見る事が出来る最高の人種だわ……うっとり……私、憧れの職業1位は刑事だったけど、今はそれを抜いて読者さんが1位になっているわ。あー私も読者さんになりたーい……って、あるぇえええ? 私一体何を言っているのかしら?」
まあアリサの言っている事の殆どは間違いない。故に気にするな。しかし薄っぺらい誘導だな。こんな事でわざわざ前のお話を見てくれると思って言ったのだろうが……幼いな、アリサよ……
しかし、どう頑張ってもアリサは読者になる事は出来ない。それをその頭脳でも理解出来ていないのだ。
幼いが故に大きすぎる夢を抱いてしまった様だ。夢は夢と割り切れない愚かな彼女を許してやって欲しい。
「はい! 正解です! あと5名ですよ!」
「探せ探せ!!」
「喜知・涯違う! 基地・街違う! 吉・外違う! あっ思い出した! 確かロウ・ガイのガイは、イノシシの亥で、キチ・ガイのガイは、確か害虫の害って言っていたわ! それを虐めなの? って突っ込んだっけwwだから下の名前が害の奴を集中して探すんだ! もう! どこにあるのよー。ん? 既知・害? これで行ってみよう」
ダダダダダッ
「はいっ!」
「おっと、これは不正解ですね」
「そうかーじゃあ次よ!!」
ダダダダダッ
「あった! 奇知・害これは?」
「これも違いますね」
「うえーどうしようどうしよう……」
「くそー全世界の泥鰌よ、俺に……力を……だーーーーーー居たぜえええええ」
「はいこれが正解です。喜知・害ですね」
「うわーあんな字だったのかー悔しいよー……これからは名前を聞く度にどんな漢字で書くのって? 聞いておく癖をつけなきゃ駄目ね……」
そんな事が起こるのは非常にレアなケースであるが……
§ドンドン§
罪の無いフィールドを叩く最低なアリサ。
「正解! 2人……終わった様ですね! では入れ替えお願いしまーす」
ドドドドドド
筋肉のプレートチェンジタイム。この時だけは、フィールドに震度3位の揺れが生じている。
「おお! もう終わった様ですね、では次の問題に行きます」
スクリーンには眼鏡を掛けた、ふくよかな年配の女性が映っている。
「あるぁあ? うるぇすうぃいわぬえぇえ」
ぬ? な、何だこのねっとりとした喋り方は? 恐らく「あら? 嬉しいわねえ」と言った様だが、粘着質過ぎる喋り方だ……そんな喋り方で誰かが喜ぶ様な声が。一体誰なのだ?
「あれ? 確か受付のお兄さんが持っていた写真集で見たわ! 服は着てるけど蘇我子だ! 橋田蘇我子!! ドラマのエンディングでも原作者の名前出ていたわね。確か大化の改新の蘇我海豚の蘇我だった覚えがあるわね。よし、探すぞー」
ダダダダダダ
「ないよーどうして? これは?……
全部探したら……恐らく後150個位は出てきそうだけど、疲れたから別を探そっと! 角野卓三違う! 橋田寿賀子全く違う!! 橋田管子うーん惜しいけど違う……消え去れこのゴミ! 何で蘇我子だけ蘇我子ファミリーも一緒に紛れ込んでるのよ!! 邪魔すぎよ! 本物の蘇我子はどこにあるのよー?……あっあったw」
紛らわしいネームプレートを罵倒しつつ、ようやく本物の橋田蘇我子プレートを発見する! だがよくアリサも登場人物の関係を把握してるな……しかし、この登場人物達、かなりドロッドロの人間関係の様な気もするが、気のせいか? まあよい。それを全て把握している記憶力は凄まじい しかし!!
「へへへっ! 頂きだぜぃ!」
「え? ちょwwおまwwバロスwwwww」
「正解です!」
「くそーあと一歩なのに……」
タッチの差で取られてしまう。いつも語ってはいるが、アリサは背が極端に低い。故に足も極端に短いが、腕も極端に短いのだ。
11歳女子の平均位の身長であれば、余裕で届いていたのだ。故に取れなかったのは完全にアリサが悪い。
「お! あったぜえ!」
そして、6人目も決定してしまう。
「正解です! 決勝進出出来る方は後たったの2人です! 最後の問題になります。では、入れ替え迅速にお願いしまーす」
3問の間、殆ど休憩も無く走り続けてフラフラになる選手達。
そして、プレート回収速度は回を重ねるごとに早くなり、物の30秒で入れ替えが完了。
この大会の運営は、徹底的に選手を疲弊させる事に重点に置いている。観客を楽しませる為なのだろうか?
そして、あっという間に最後の問題になってしまった。
アリサは勝ち抜く事が出来るのだろうか? それとも敗退し、選手ではなく1傍観者としてこの大会に参加する事となってしまうのか?