第24話 決勝一回戦

文字数 6,969文字



「さあこれをどう面白くしてくれるんだぁ? ゲホゲホペッペッ、あれえ? 喉に大量の埃が詰まっている?? どうなってんだこれはあああああ? そう言えば2週間位時が止まっていた様な気がするなああああああ?」

「ペッペッうう……なんて辛い写真なんだ……見ていられない……」

「ゴホゴホ君たちはかつての仲間なんだよ! 目を覚まして!」

「怒虎……にゃんて悲しい定めを背負いし種族にゃんだ……」
むう、またも時を止めてしまった様だ。そして観客全員にも私の語ったこの写真の真実が伝わってしまった様だ……これが原因で偏見を持ってしまい、ネタを純粋に楽しめなくなってしまわぬか心配だな。うむ……自重せねばならぬな……しかし、今回は説明を求めた方々が悪い。私はそのリクエストに応えただけだからな。

「ゲホゲホッペッペッ……ふう……この会場埃多いわねえ……確かに悲しい話だわ。だけど私は芸人よ? 猫だか怒虎だか知らないけど芸に私情は挟まない!」

「僕達またあの不思議な力で停止してしまったんですね? 梓さん喉に埃が詰まっちゃったんですか? 口を開けた状態で運悪く止まっちゃったんですね? でも僕は口を閉じていたので平気でした。そして、一瞬で閃きましたよ! お先に失礼!」

「え? 早っ!」

「はい」
3番の腕章の鎌瀬が挙手。

「一番手ですね。どうぞ!」
ステージ中央のマイクの前にゆっくりと進む。そして口を開く。

『最初はグー。ニャンケンポン!』
パチパチパチ。まばらな拍手。
スクリーン下に少し余白があり、そこに6000と言う数字が表示される。両脇の機械に付いているランプもそれぞれ6つ点いている。
1000点で電球が一つ点く仕組みか?

「おお3番の選手。緊張するであろう一番手だがァかなりの好反応だぁぁあぁ! そしてェすんばらしいポインツゥゥゥ。
なーんだ彼等はじゃんけんしてるんだね? 安心したぜえええええ? でもぉ? 必要以上に激しいじゃんけんだぁぁぁ。勝敗は?」
スクルィィィィィンを見る司会

「……両方パーを出してる。だからあいこだね? だから、あいこでしょ! ってなる筈だがァ? 一体この後どうするんだろうなあぁぁぁぁ?
一旦着地して、もう一度元の位置に戻ってジャンプし直すのかなあぁ? 面倒臭いぜええええええ? まあ深く考えたら負けだねぇ。では次の方いるよね?」

「はい!」

「おお1番のどうぞ!」
ガンバレギャグの使い手であり、語尾伸ばしの達人である1番の腕章の周・虻羅儀瑠が手を挙げる。

「いいか? これから伝説が始まる……! 日本史に残るお笑いの伝説が……震えろ! そして(ひさまず)け!! お前達は伝説の瞬間を目の当たりにする! その奇跡を、喜びを全身で感じ、脳に焼き付けろ! 未来永劫子々孫々へと語り継げ!! 歴史の生き証人となれ! これが……俺様の……至高のネタだぜえええええええええ!!
うむ、心地良い伸ばしっぷりである。

「おっとおぉ? 前置きはそれ位にしといてくれええええええええ!! これ以上長かったらNGだぜぇえええ!? じゃあ、ネタ披露お願いするぜぇぇぇ!!」
なんと! 周様と同等の性質を有していながら司会は稼ぐことをあまり良しとしていない様だ。彼自身文字数稼ぎをして、この小説を助けてくれているという実感はないのだろうか? もしくは周様をライバルとして見ている為、自分以外の【ノバシスト】が語尾を伸ばしていると、不愉快な気分になってしまう物なのだろうか? 全く……本質的には同じ目的を持っているのだから、互いに手を取り合い高めあって欲しい物だが…… 

『かにゃしいけどこれ、戦争にゃにょよね』
ドッ そこそこ受けた様だ。

「お、昨日戦死ガンバレに出て来るスレッカーさんの名台詞ぅ。哀愁が漂っているねぇ。
ポインツはどうだ?」 

6500と出た。

「あれ? 意外とうけてるじゃない。なめてたかも……あんな大げさな前振りして、更に笑いを取ってる……そうよね……一応本職の芸人だもんね……」
焦り始めるアリサ。

しかし、お笑いのプロ達は容赦なく手を挙げる。

「はい!」
8番が挙手。

「お! 知ってるよレッドドラゴン火村君でしょ? 君達の漫才は、今の嫁が大好きなんだ。
さあどんなストールゥィィィイを紡ぐんだ?」
ぬ? 今の嫁とな? この司会一度離婚しているのだろうか?

『こんにゃちは! 薬草を下さい』

『お前知っているにゃ? 武器や防具は持っているだけじゃ駄目にゃんだ! にゃんと装備しにゃいと効果にゃいぜ?』

『しまった! にゃにを聞いても装備の事しか言わにゃい隣のおっさんに話してたにゃん』
パチパチ

「RPGあるあるだね! ポインツは?」

6300と表示された。 

「6300!! 現在最高の6500に1歩届かずぅぅだがぁ! いいポインツだぁ」

「はい!」

「7番の方の……確か芸人ではなかったよね? どうぞ!」

「じゃあいきます……緊張する7あ……だー……良し……!」
両手で頬をパチパチ叩く七瀬。

『最近ついてにゃいんですよねー。ちょっと手相をうらにゃってくれませんか?』

『うーん……生命線がって……猫に手相はにゃいよ!』

『すいません……では猫用で肉球でうらにゃいって出来にゃすか?』

『いやいや、やった事にゃいよ。これから暇にゃ時に開拓していくから、それまで頑張って生きてくれ』

『にゃんて事だ……そうですか……にょんぼり』
パチパチパチ

「結構長めのストールィィィーだったね? いいね。さあポインツは?」

7777とスクリーンに出る

「おお。見てくれぇ6500ポインツを抜いて、芸人ではない一般人が最高得点だー……って? あるぇぇぇ?? 
あのスクルィィィィン100点刻みでしか表示されない筈なのに?? おかしいんだぜぇぇぇぇぇぇ?
77なんて中途半端な数字は出ない筈なのになあ、なんでなんだああああああ? まあいいか! 高得点ナイスゥゥゥゥゥ!」

ムム? 七瀬と言う男。一体どんな手を使ったのだ?

「七瀬さんもやるわね……どうしようどうしよう……考えるんだアリサ」
焦り始めるアリサ。こういうのは、早めに出ないと、言おうと思った事を先に言われてしまい、更に窮地に立たされてしまう。
どうするべきか? 悩むアリサ。そして、スクリーンに表示された7777ポイントがアリサにのしかかる。

「うー……はいっ!」
アリサがついに手を挙げる。芸人駆け出しで素人同然のアリサ。本当にいけるのか?

「6番の? おお。小さい女の子が遊びに来てくれましたぁぁぁぁ。頑張れよォォォォォォ!」
パチパチパチ 

「頑張れー」

「負けるなー」

「え? あんな小さい子がどうしてあそこにいるの?」

「頑張れー泣くなよー」
アリサはまるで休み時間に校庭に乱入した犬を見るのと同じ様な感覚で迎えられているな。
当然選手としての期待はされていない様だ。まあそれも仕方のない事。大抵の人は見かけで判断してしまう。だが、アリサも松谷修造と会うと心に誓い、自分のクラスを変えてまでこの戦いに向き合う決意を見せた筈。
さあ、そのセンスで期待していない観客を黙らせてやるのだ!

「あの、ちょっと、ほんっっのちょっとなんですけど、マイクが届かないんですけど」
 するとアリサは、マイクの高さの事で文句を言い始める。先程の選手達は丁度いい高さだったのだがな。その高さであると全く届かないのだ。全く……我儘な娘だな。

「全然届いてねえだろw」
嬉しそうな白川。

「おおおおおお! そう言えば全く届いていないいいいいい人体の神秘いいいいいい」

「ねえねえ? おじさん? 私達って初対面よね? それなのに何でそんな酷い事言うの? 最低! もう怒ったわ! あんたのカツラを引き剝がしてスタジアムの中央に投げ捨てるって決めたわ!」
初対面で酷い事を言われたからと言ってカツラを引き剥がしてスタジアムに捨てるのもどうかと思うが……あっ! おいおい……それは言ってはいけない言葉だぞ……それをそんなに早く言ってしまっては司会が自信喪失し、稼いでくれなくなるではないか……それは最後の辺りで言うべき言葉だ……全くアリサは……怒りに身を任せちゃって……このせいで司会のカツラではなく、これから受け取れる筈だった多大なる恩恵を投げ捨ててしまった……

「な、何故それを……? やめてくれええい高かったんだぜええ?」
ほら見た事か! 彼の語尾伸ばし力が大幅に下がってしまった……もう……頼れるのは周様しかいない……

「すぐ分かったわw嫌だったら二度と私に逆らわない事ね!」

「はい……」
落ち込んでいる様だが、よく考えれば分かるが、司会の頭にアリサの手は絶対に届かない。直立不動を保っていさえすれば究極に安心なのだ。だがこの落ち込み様……まさかとは思うが大丈夫であろうな?

「えっ? 彼カツラだったんだww」

「言われてみれば! そうだったんですね! 納得しました!」
司会がカツラという事に気付き大喜びする梓と鎌瀬。

「あるあぁ? あぬぉのくぉ……むおんつぅあっちぃぬぅおふぃむぃつぃぬぅをあんぬぁぬぃふぁゆぁくあヴぁいつゃっつぁぬぉ? ふぅうん、ぬぁくぁぬぁくぁぬぅぉいつぅずぁいぬぇえ」

 な、何だ? 客席からアリサについて話している様だ。むう、このねっとりとした喋り方は……蘇我子? 橋田蘇我子か? 約束通り訳さなくてはいけないな。
訳「あらあ? あの子……もんたっちの秘密をあんなに早く暴いちゃったの? ふうん、中々の逸材ねえ……」
ふう、これだけのセリフでも訳すのは中々骨が折るぅえるな……ハッ伝染ってしまった……そして、もんたっちとはまさか司会の事か?

「スタッフの方、この選手用の低めのマイクスタンドを用意してくれるかい?」
ああ、全く伸ばしていない……もう司会は、ただの一般人になってしまった……い、いやこのセリフ一言で決めつけるのはまだ早い……次のセリフこそきっと……! 私は信じる。彼の【ノバシスト】としての誇りは、カツラがバレた程度の些末な事で消える程脆くはない筈なのだから!

「分かりました!」
タタタタタタ

「これで届きますね? ではどうぞ!」
ああ、ここもだ……絶望的だあああああああああああ……

『はいっ! またたびだよッ! ありがとう!!』 
ドッ

「ん? この状況? 成程ォ? そう来たか……戦っている様に見えるがァ? 右が郵便屋のオヤジで、左が受け取っている奥さんと言う状況か! これはただのジャンピング配達だったぁぁダイナミックな郵便屋さんだァ! ポインツはいかに?」
スクリーンには6200と表示。

「中々の高得点だ。だがぁ7777には及ばず……次の人いるかい?」

「はいっ!!」

「おおまたも6番!? 元気が良いね。よしいけぇぇ!!」

『あっ! 今ぶとうとしたね? しているよね? しかも2回も!! 親父にもぶとうとされた事ないのに!』
ドドッ 会場が沸く。

「おお、ガンバレのアム口(あむくち)レイのモノマネだね? 
ポインツは?」

スクリーンには、8500ポイントと表示されている。

「おおお! 7番の最高得点を抜いたぁーーーー!」

「やる7あ……短い1位だった7」

「くそっ。俺様のガンバレネタで俺様のネタのポインツを追い越すなんて……何てガキンチョだ。
こんな事なら控室で見せなければよかったぜ……見事に使われちまった」
悔しそうにアリサを見る周様。

「ふふん。ガンバレネタはこう使うのよ!!」
アリサは周様がやっていたモノマネをアレンジし、高ポインツを獲得する。しかし、周様の言う通りだった事は否定出来ない。
控え室であのモノマネを見ていなかったら、思い付けなかったであろう。だが中々のアレンジではないだろうか?

「まあいい次だ次!!」

「アリサちゃーんすごーい!!」
応援席のケイトも叫ぶ。美しき声である……(*´Д`)ハァ耳が幸せー。
しかし、プロの観点から言わせて頂くと、余り大きい声を出すのはお勧めできない。これだけの大声を出すと喉を痛める危険性がある。そんな事があってはならない。その美しい声が出せなくなる危険性がある。
出来る事なら無理をしないでほしい物である。

「よーし会場もヒーツアップゥ!! 次の人急げェ!」
2番が挙手。

「おお! いいねえ! さあ見せてくれ2番の女性! 梓さんですね。あなたはあの女の子のポインツを抜けるのかぁぁぁぁ?」

『おじょうさーん! 白い貝殻の小さなイヤリング落としましたよー!』 

『ありがとう探していたんです!』
パチパチ。

「おお! これはァ? 森の九魔さんの歌詞になぞらえたボケだァ。会場もいい感じだぁポインツは? どうなっている?」

スクリーンには7000ポイントが表示される。
「ああ、惜しいい。次は居るかい?」

「はいっ!」
何とアリサがまた挙手したのだ!

「なにいい? まだ出てくるのかァ? この子の頭の中は一体どうなっているんだァァ? では6番ゴォー!」

『喰らえ! 究極奥義。飛び出し位置を早まってしまって、どう考えても後一歩届かないチョーーーーップ』
ドドッ。更に会場が沸く。

「おおお? 過去最高の盛り上がりだァァァ」

スクリーンには11000ポイントが表示されていた。ランプは11個、それぞれの機械で点灯している。アリサはこれまでに、25700ポイントを稼いだ。

「おいおいまだ手も挙げていない選手ゥ! 一緒に盛り上げて行こうぜェェェェ!
みんなで作り上げる芸術ゥ! それがこのボケ人間コンテスツなんだぜェ!!」

「くそっ負けてらねえ! はい」
5番の金賀が挙手する。

「よーし。皆が紡ぎ出すコンテスツ。5番どうぞォ」

『すいません、その切り株すごい良いですね。これ位分けてくれませんか?(右怒虎の真似をして両腕を肩幅位まで広げる)』

『いやあちょっと多いね。これ位までが限度だねえ(左怒虎の真似をして、両腕幅を肩幅より少し狭くする)』
身振り手振りでを交えてのパフォーマンス。
ドッ。

「あんなバランスの悪い所での株の取引ィ。いいヨ5番、さあポインツはどうなんだい?」

8000ポイントと表示。
「うーん。 空中に浮いている間に長台詞は流石に厳しかったという事かァ? 6番を追い越すまでにはいかないィ。だがだがそれでも高ポインツだぁ。ポインツのインフレが止まらないいい!
だけど、ルール上はいくら長かろうが関係ないんだぜぇ! むしろ長ければ長い程選手の実力は高いといえる! 
何せ一瞬で写真から自分の世界を作り上げていかなくてはいけない。プロでも難しい事だああ! だから気にせずリトライしてく……! ん? ……ちょっと喋り過ぎたかな。そして、制限時間の10分も経過してしまった様だアア。神様はどうして意地悪なんだああ? 楽しかった10分は本当にあっと言う間だああ。でも仕方ない。次の問題頼むぜええぇ……? ゲホゲホ……す、すいませんちょっと喉がカラカラで疲れてきた。よし、10分休憩としよう」
自分勝手な司会である。

「え? もう休憩?」

「ごめんごめん、なんか嫌な気分なんだ。何かね……おかしいなあ……寒気が……」
(変だなあ……こんな事今まで一度も無かったんだが……)
辺りを見回しながら頭を下げる司会。

「えー?」
客も不満そうである。

「突然ですが皆さんも休憩時間です」

「はーい」
選手達は不満そうな顔で控室に戻る。そして、水分補給したり仮眠したり休んでいる。そして、アリサは……

「何よ!! 丁度すんごいアイディアが沸いたところなのにさ!」
強がっていた。

「何だあ? これからって時によおおおお? 我儘な奴だぜえええええええええ?」
周様もやる気満々で文句を言う。

「むしろ助かるわ。はあー緊張したー」
梓は胸を撫で下ろしている。

「その気持ちわかる7あ。僕も緊張したー。でも7んとかお客さんに笑って貰えたからよかったよ」

「私もー! なんか舞台で大声で叫んでみんなの笑い声を聞いていたら、普段の小学生ライフがしょぼーく感じちゃったw」

「貴重な体験だよね」

「俺様、マインドフルネス瞑想するぜ。うおおおおおおおおお」
周様が騒ぎながらも瞑想を始める。

「私もしようかな」

「お前よお、ガンバレネタもパクっただけでなく、しまいにゃ俺様の行動までもパクるのかよ? そこまで尊敬されちゃあ困るぜええええええええ?」

「五月蠅いわよ! そんな怒鳴らなくても十分聞こえるわ! 瞑想はあんただけの物ではない! みんなの物だ!」
語気が荒いアリサ。

「クッそうだな、まあいい勝手にしろ」

アリサは、瞑想しつつ、一つ気になる事を思っていた。
それは、選手の中で一人、挙手もせずにいた4番の白川の事である。
(何も思い付かなかったの? あのお題結構難しかったのかしら? 一度使ったネタはもう使わないと話してた。って事は相当色々なネタを作ってきた筈よ。それ位引き出しが多いなら、あのお題で何も答えられないなんてありえない筈よ。
それなのにまだ何も発言してない……はったりなのかしら? 一番のライバルになる相手だと思っていたんだけどな。
なんか肩透かし喰らっちゃった気分……それにしても何で私にこの帽子をくれたのかしら? 不自然よね。白川さんにメリットは一つも無い筈なのにな……)
そんな事を考えていると、休み時間が終わり、係が呼びに来る。

「時間です。門太さんの水分補給も終わった様です。ステージへお戻り下さい」

「はいっ!」

「よし! 続き頑張るぞ!」
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