第22話 第一のお題

文字数 5,515文字

 


これは? 二頭の猛獣が争っているシーンであろうか? 確か……彼らは怒虎(ぬこ)と言う伝説上の生き物だった筈。
はっ失礼した。猛獣は間違いであった……彼等は、神の獣と書いて神獣である。
故に数え方も頭ではなく柱であった……申し訳ない。
古い書物にしかその姿は記されておらず、ここまではっきりとした姿を見る事は今回が初めてである。
一見猫に似ているが、私だけは気付いてしまった。この些細な違い。素人では到底気付かないであろう。ヒントはあの切り株だ。

「え? 怒虎? 気になるワードだな……どうせそんなの嘘なんだろう? あれはどう見ても猫だ」

「嘘なんでしょ? この嘘吐き男!」

「切り株がヒントか……気になるなあ……ちょっと解説してくれよ!」

「知りたいしりたいシリタイ知りたいしりたいシリタイ知りたいしりたいシリタイ知りたいしりたいシリタイ知りたいしりたいシリタイ知りたいしりたいシリタイ知りたいしりたいシリタイ知りたいしりたいシリタイ」

「まあ無理にとは言いませんが……僕達が新たな知識を身に着ける事が怖いんですか? この臆病者!」

「ねえ無理なの? 教えてくれないの? 私を裏切るの?」

「教えてくれないならそれでもいい。だけど無能なお前さんの代わりに俺が語る事にするけどな。それでもいいのか?」

な? 皆も興味を持ってしまったのか? そう、怒虎とは一体何であるかという事にな……ふむ。少々面倒なので、説明は割愛しては駄目だろうか? 
「……」

「……」 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

ぬう、皆さんの視線が私に集中する……こ……これは駄目そうであるな……やはり聞きたいのか? 欲しがり屋さんなのだな……まあ、仕方ないな……全く、頼まれたら決して断れないこのお人よしの性格が恨めしいな……分かった! 少々面倒ではあるが語るとしよう!

 彼等は神が生み出した2柱のペットである。神からの寵愛を受けていたが、当人達は、その不自由で退屈な生活に次第に飽き、夜に檻を抜け出し、下界を目指した。そして、とある山奥に山怒虎軒と言う城を建てさせた。後に彼らの力で生み出された従者達に。
この神獣に似た種族に(ぬえ)や獅子、虎等が居るが、そんな物とは比べ物にならない程の強力な魔力があり、手で招く様な動作をすれば、フラフラと人が寄ってくる程なのだ。それは

怒虎魔寝奇(ぬこまねき)

と言う催眠妙技である。そして、招かれた者は、その虜となり一生付き従う【怒虎従者(ぬこじゅうしゃ)】となり、家に帰る事なく四六時中怒虎達の世話をする奴隷となる。
山怒虎軒は常に増築していて、その行動範囲が広くなれば当然従者が足りなくなる。すると、人里に現れ、無差別で怒虎魔寝奇を使用してくるのだ。
だが、招かれたら意識がある内に、すぐ傍の木や岩などに20秒間以上しっかりとしがみ付き抗えば、高確率で助かるので頑張って欲しい。
ぬ? 何故20秒なのかだと? 確かなエヴィデンスがある。後でしっかり説明しよう。
 
 そして、一見可愛らしい外見をしているが、それとは裏腹に、かなり凶暴で俊敏。動く物に反応し、じゃれつく性質がある。
漢字では邪裂苦と書き、それにうっかり絡まれてしまったら、常人の肉体などバラバラになるであろう。それは怒虎従者とて例外ではない。
その為、彼等も怒虎に見られている間は、ゆっくり行動する事にしている。うっかり素早く動くと餌食になるのだ!
幸い良く眠る種族なので、起きている間は、外での農作業や狩りを済ませ、寝ている間に山怒虎軒内の料理や掃除などの雑務をこなすのが賢い怒虎従者と言える。

 そして、彼らの鳴き声は、意外にも【にゃーん】という可愛らしい声。だが、騙されてはいけない。
その声に釣られ、フラフラと近づけば、シャー! と威嚇の声を出し、その声を人間がまともに聞いたら迅速に鼓膜が吹き飛ぶ。
この声には幾つかバリエーションがあり、例えば構って欲しい時や、イライラしている時に放つ、

【グルグルニャン?】 

なら鼓膜が吹き飛び、山怒虎軒の窓の外に羽を休めているムクバアドなどの鳥を見た時に威嚇の意味もある鳴き方の、

【ニャカカカッ】

と言う声なら、鼓膜が吹き飛ぶ効果がある。
他には、気持ちよくなると喉が雷が轟いている時に鳴る音の様に、ゴロゴロと鳴る特長もあるが、その音は、

獅子王音(らいおん)

と呼ばれる物で、これは即効性こそないが、長い時間聞き続けるとその振動により鼓膜が緩やかに吹き飛ぶので、怒虎達の機嫌の良い獅子王音が鳴り響いている間従者達は耳をしっかり押さえながら作業しなくてはならない。これは相当大変な作業だ。
ここに一般の奴隷達と違いがある。そう、怒虎従者は、両手で耳を塞ぎつつ足で仕事をしなければならない場合もある。
故に、初めて怒虎従者として招かれた人は、しっかり先輩怒虎従者に彼らの習性を叩きこまれる。とにかく癖の多い神獣であるから、マニュアルも分厚い電話帳程になる。
まあ命に関わる事なので、怒虎取扱説明書編集者も事細かに記したのだな。
その上夜になっても瞳孔を変化させ、暗闇の中でも容易に移動出来る。故に夜になれば脱走しても大丈夫だべ? と催眠の魔力が薄まり抜け出そうと考える者が居ようものなら容赦なく邪裂かれるので、注意が必要。
彼等の妙技は催眠だけではない。防御特化妙技のニャストロンと言う呪文は、全身をアダマンタイトに変化させ、如何なる攻撃も通さない。しかも動けないと思いきや、素早さは5分の1になるが移動も可能で、その硬い爪が更に硬くなり攻撃も可能と言う攻防一体の妙技なのだ。
更に尻尾はアンテナの効果があり、危険察知の他、今求めている物が存在する場所を指し示してくれる。
そして、何よりの特長は、食べる事が大好きな種族で、とってもグルメだという事である。

 食事は、怒虎従者が狩りや稲作で作られた供物を運んできてくれたが、次第に飽きてきた。それでも楽だからと続けていた。
そんな堕落した日々を過ごしていた為、下腹がポッコリと出てきてしまった。
それから悩んだ末、運動不足解消や見聞を広める為に自ら出歩く事が多くなる。

 彼等は常に二柱で行動し、色々な場所を見て回る。そうしていく内にスリムな体を取り戻した。
だが、その道中でレストランと言う物を見つけてしまう。それからというもの、食べ歩きと言う趣味が出来てしまった。
ミショロンガイドの五つ星店の人気メニューや、ご当地グルメを尻尾の向く方向を頼りに食してきた。
そして、いつの間にかそれだけでは飽き足らず、自分で珍しい食べ物を見つけ始めた。正にゲーム感覚で。
片方が珍しい鉱物のサファイアを見つけ出し食べれば、負けじとルビーを探してきては食べる。
片方が珍しい動物の龍を丸のみしようものなら、もう片方は巨大蛸を喰らう。
片方が珍しい植物のフシギバナを喰らうなら、もう片方はキレイハナを、と言った感じで狩りを楽しむ様になっていった。
彼等は生まれながらにして互いをライバルと認め合う様な関係であったのかもしれない。
 
 ぬ? フシギバナやキレイハナはポケ〇ンにいるではないかだと? ほほう、そんな名のモンスターがポケ〇ンというゲームには居るのか。
だがそういう物が居ると言う事は私は全く知らなかった。私はただ、不思議な花と綺麗な花の事を言っただけである。
私も勉強しなくてはいけないと思っているのだが、全世界の花の事を知っている程博識ではないのだ。私は語り部であり、世界中の花を知り尽くしたお花さんの学者さんでもないのだしな。
故に、私の主観で、なんや不思議な花やなあ……と思った植物は、フシギバナ。
ああっ!! これはスッゲェ綺麗な花だ! と思ったらキレイハナと呼ぶ様にしているのだ。
何しろ怒虎は物凄い速さで食べてしまうから、何かの植物を凄い速さで食ったな。としか見えないのだ。
だがその瞬間にフシギかキレイ位なら見分けがつくという事で、かなりの動体視力を持っていないと出来ない芸当である。
 
 宝石も青い宝石だったので青い宝石と言ったらサファイアだろうと言う先入観からそう言ったが、もしかしたらタンザナイトかも知れぬし、同様にルビーと言っていたが、それも実はガーネットかも知れない。
だが食した物が、青い宝石かどうかだけはこの有耶無耶な言葉からでも伝わった筈である。
そう、私が伝えたかったのは、怒虎が何色の宝石を食べたかを伝えたかった訳だ。
例え分からないからと言って、

「何かの宝石を食べた」

と、語ったとしたらどうだろう? そうなれば皆さんに、

「お前本当に語り部か?」 

と総突っ込みを喰らいそうである。
そして、竜を丸飲みと言ったが、これも見間違いでタツノオトシゴかも知れぬし、巨大蛸も巨大烏賊の見間違いかも知れないのだ。
適当な事を言ってしまった事は反省する。だが宝石の様な物を、だけではあまりにも語り部としての仕事が出来ていない。
故にせめてニュアンスだけでも掴んで頂ければ良いと思った為、こういう語法を用いた。故に嘘付き呼ばわりだけは止めて欲しい……お願いだ。お……話が大分脱線しているな……修正修正!
  
 そして、彼らが最終的に定めた目標は……何と自分を生み出した創造主の神であった。神を喰えば伝説ににゃれると息巻いて天へ駆ける。
そう、最後の帰郷。
だが、それが彼らの唯一の過ちだったのだ。大人しく地上で暮らしていれば神もそういう性格だから仕方ないと諦めていた物を、彼らは躊躇いという物が無く、思い付いたら即実行の行動派だ。
これは、初めからそういう性格だった訳ではなく、城の中でゴロゴロしながらテレビをよく見ている彼等だが、松谷修造の番組を好んで見ている為、その熱さに怒虎達は触発されてしまったと言う噂がある。松谷修造は人間界だけでなく神獣にすら影響を与えてしまう男なのだ。

 この世界には二柱の神が居て、成野と石出と言われる神だった。怒猫達は夜のとばりが下りた頃を見計らい2柱の居る神殿に足音無く忍び込み一斉に飛び掛かる!!
片方は成野を、そしてもう片方は石出を狙い飛び掛かった瞬間、空間が歪む……!
それは、神の秘術。神は自分を守る為に急遽召喚を行った。呼び寄せられたのは、異世界の中でモケポンマスターと言われる電気鼠を自在に操る少年だった。
その上少年にも究極反射の力があり、更には気合の狸という神器を装備しているのでとっても頼もしい。
少年は呼ばれた直後に自分の使命を悟り、彼らを倒す決意を見せた。神の神殿での決戦。

【鼠と少年VS二柱の怒虎】

は深夜の丑三つ時に起こったのだ。

神は、召喚で殆どの力を使い果し、防御障壁を張り、見ている事しか出来なかった。結果的に自分で蒔いた種を異世界の少年と鼠が背負う事となった。
だが、神の判断は正しかった様で、激しい戦いの末に怒虎は少年と鼠の協力アタックによって倒された。正確には瀕死状態だが。
だが、少年も鼠も疲弊しての勝利だった為、完全に仕留める事は出来ず、彼の持つ門星球という珠に封じ込める事にした。
ゲートスターボールと読み、ゲボちゃんと親しまれている珠で、彼の世界ではどこのフレンドリーショップにも1個108円で売っている。
10個まとめて買うとおまけで、プレミア珠が貰えるのだ!!
この珠を怒虎に投げれば閉じ込められる可能性があるが、大抵嫌がって飛び出してきてしまう。
だが、体力の弱った今ならいけそうなのだ。更に

「ねむりやまひやどく、やけど状態にしておけば、捕まえやすくなるよ!」 

と、鼠が言っていたので、神はそれに相応しい(よん)神器を少年に託した。

壱つ目は【怒虎邪螺死(ぬこじゃらし)】。じゃらしている間に疲れて眠らせてしまう力のある神器。
弐つ目は【麻汰多痺(またたび)】。これをかがせると麻痺状態になってしまう神酒。
参つ目は【門斧血(モンプチ)】。匂いは最高に美味しそうなのだが、食べれば毒状態になる神食。
肆つ目は【虎竜(こたつ)】。4本足の台の中央にある熱波発生器により、やけど状態にする事の出来る神電化製品。
それらを駆使し、一柱を捕える事に成功した。
そしてもう一柱は、少年の持つとっておきの魔星球で一発で捕らえる事に成功。
魔星球は門星球の上位互換にあたる物で、デーモンスターボールと読み、デスちゃんと呼ばれ親しまれている。
王木土博士から一回の冒険でたった一つしか貰えない貴重な珠だ。
投げれば、必ず狙った獲物を捕える事が出来るのだ。
断っておくが読もうと思えば読めるが、魔(マ)星(スター)ボール→マスターボールとは読んではいけないぞ? 
ぬ? 何故かだと? おしえてあーげない。
そして、その2種類の珠を封印の祠を司る祠守りに託し、その力を封印したと言う伝説があった筈。
 
……? あ、あ、声がかすれて来たか? ぬう……少し疲れた様だな。年には勝てぬ。仕方ない、ここで休憩だ。

「おいちょっと待てよ! またかよ! こんな中途半端な所で切るなよ。この意気地なし!」

「え? 何言ってるの? この意気地なし! もうちょっと聞きたいわ」

「ま、意気地なしのバ語り部ならこれ位が限界っしょ」

「そんなに待てないわ。逃がさないニガサナイ逃がさないにがさないニガサナイ逃がさないにがさないニガサナイ逃がさないにがさないニガサナイ逃がさないにがさないニガサナイ逃がさないにがさないニガサナイ逃がさないにがさない」

「そんな……酷い……語り部さん、私、絶対待てないわ……この意気地なし!」

「そうだぜ? もうちょっと我慢して語れねえのかよ! この意気地なし!」

「そうか……意気地ないから語るのを辞めたって事か? 仕方ねえ……じゃあ俺が代りに語るよ」

おお、みんな……名残惜しそうにしてくれている……! 私は嬉しいぞ! ……しかし、私は休むと決めた。では、さらばだ!
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