第23話 第一のお題後編

文字数 6,456文字

☆前回のあらすじ☆
お題の写真を見た瞬間とんでもない神獣が映っていたためうっかり怒虎と言う名を漏らしてしまった私。
それをスルーしてくれる程、この

【私の行く先々で事件が起こる件について】

の読者、略して【私読】達は愚鈍では無かった。
怒虎とは一体どんな物なのか是非教えてくれ! 何でもしますから!! と、全員に号泣&懇願され、渋々語る事に……
しかし、仕事の鬼! 悪魔! 人でなし! の私は、前半で飛ばしてしまい、体力を残せず力尽きてしまう。だが、暫し休憩を取って回復して戻ってきたという事だ。

「これだけ待たせたんだ。つまらなかったら許さねえからな!!」

「一週間ってこんなに長かったっけ……このバ語り部!!」

「べ、別に待ってなんかいなかったんだからね……お、お帰り(///照///)」

「もう会えないかと思った。モウ……逃がさないニガサナイにがさない逃がさないニガサナイにがさない逃がさないニガサナイにがさない逃がさないニガサナイにがさない逃がさないニガサナイにがさない逃がさないニガサナイにがさない逃がさないニガサナイにがさない」

「喉の調子はどうだ? のど飴いるか?」

「やっと続きが聞ける! 嬉しいわ!」

「疲れは本当に取れたのか? まだ疲れてるなら俺が代りに語るってのもアリだぜ?」
 
皆さんお待たせした。心配かけてしまった様で申し訳ない、だが、もう大丈夫だ。
続きを語らせていただく。前回は怒虎の特長を語り、彼らが封印されたところまで語ったな? 覚えているだろうか? 覚えていないなら前話を見て欲しい。

 怒虎は激しい戦いの末、封印された。だが、長きに渡る封印も、時間の流れ、そして封印者の血も薄れ、次第にそれは弱まり、ある時破られた。
封印は破られたが、怒虎達も無事では済まず、殆どの魔力を使い果たし、自我を失った上での復活。
そして、それは同時期に起こり、二柱の怒虎達は、それぞれの封印されていた祠から旅立った。
そして、本能的にまずは

「失った魔力を取り戻すにゃん」

と考え、この世界の魔力の源泉であるミスヴォラシルを目指した。
封印されている地が違う為に別々の場所からの旅立ちであるが、彼らの尻尾には、今一番求めている物、そう、魔力を求める能力が辛うじて残っていた故に、ミスヴォラシルを同時に目指す事になった。そう、二柱同時に、決戦の地であるそこへとな……因みにミスヴォラシルは、雲よりも高く伸びた樹で、世界の中心で皆を見守っている。
その付近は、そこで気を抜くと空中浮遊してしまう程に強力な魔力で満ち溢れていて、そこに住んでいるみすぼらしい妖精達も見る事が出来る。
そこに住む妖精は種種雑多で、例えば【ホンオフェアリー】に【アイタタイタニア】、【イツモゴハンヲスコシノコスプライト】や【フルエルエルフ】【レンタイホショウニンフ】【ミスヴォラシルフ】等が居て、彼女達はボロボロの衣装で、余り美しくない花で作られた花冠を好んで装備している為、美しいとはお世辞にも言えないが、彼女達のダンスは、振り付けも単純で不自然にプルプル震えながらみすぼらしく踊っているが、不思議と仕事を終えて帰る村人達の疲れを吹き飛ばす力があった。

 ぬ? 早く本題に入れであるだと? だが待って欲しい。諸君が、怒虎って何? と質問して来たから一つ一つ丁寧に答えていただけであろう! 私は中途半端な事が一番嫌いなのだ! まだ説明は終わっていないのだ! もう数十行だけ我慢して欲しい!!

 そんな生命の源があった地で、二柱はその罪深き尻尾に導かれ、再会してしまった。
そう、あった。過去形なのだ。
巨木であったその姿と魔力はとうに薄れ、みすヴォらしい切り株に成り下がっている。
若かりし頃の私も修学旅行でここに行った事があるのだが、その当時は天辺が見えない程の巨木で、そこで深呼吸をする度に、魔力の最大値が上がる様な気がしたし、近くに居るだけで魔力が少しずつ回復している様な感覚になったものだ。懐かしい……
今はこの様な切り株だ。だが、それでも残った魔力は二柱を引き寄せるには十分であったのだ。

「切り株でもミスヴォラシル】 

と言う諺もこの世界には残っている位である。皆さんの世界では【腐っても鯛】と同義であるな。
ぬ? 何故切り株になってしまったのだだと? ほほう良い質問であるな! これも重要な事なので説明せねばなるまいな。
まあ、あまり長くなるとだれてしまうので要所をかいつまんで説明しよう。

 怒虎との戦いで少年と鼠が使用した肆番目の【虎竜】という神器を覚えているだろうか? これは、大量の木材を材料として作られる物なのだ。それも神聖な木でないといけない。それを作る為にミスヴォラシルはうってつけの材料だった。
だが、切り株になってしまう程の材料が使われたのは、その職人さんがとっても頑固者で、とにかく自分に厳しい男で、1ミリのずれを発見しては焼却処分の繰り返しで、中々目当ての作品が出来上がらず、そのせいで大半のミスヴォラシルが使われたのだ。
だが……こうなる事はもしかしたら必然だったのかも知れない。
そう、その名の通り、みすぼらしくなってしまうという事である。
もしこんな名前でなくユグドラシルと言う立派な名前であれば、こんな悲劇は起こらなかったのかもしれないな……
そんな悲しい過去のある切り株で、出会った彼等は目覚めたばかり。朦朧とした意識の中、かつての仲間とは認識出来ず、本能の赴くままに戦いを開始する。そう、この写真は、二柱の怒虎達の悲しい再会のシーンなのだ。

 右側の怒虎は、自分の身長の6倍以上の高さまで飛び上がり、かつての仲間をその振りかぶった爪で倒し、彼の縄張りであろう変わり果てたミスヴォラシルの切り株の所有権を得ようとしているのだろうか? ミスヴォラシルは先程も言ったが、かなりの巨木で、直径2キロはある。
従って、姿こそ愛くるしいが、怒虎の大きさも相当な筈である。
良く見れば、周りの植物もミスヴォラシルの魔力で巨大化しているな。
そこを新しい住処。力を蓄える為の拠点にする為に起こった、かつては共に高めあっていた者同士の悲しき戦い。 
そして、この写真にもしも相応しいタイトルを付けるとすれば、

【キャット♡ファイト!】

だろうな。
 
 両者の眼光は鋭く、一切の隙が見当たらない。封印を破ったばかりで弱体化していてもこの覇気だ。
決して彼らを封印前の完全体に戻してはいけない……! 
ここからは私の妄想を多く含むだろう。だが、この写真の行く末をこの私に語らせてくれ……! では行くぞ!!
攻撃側の豪腕の先に輝く凶爪の一振りから巻き起こる猛烈な真空波は、そこにある存在全てを容易に切り裂き、紙一重で回避した所で、皮膚に治療不可能の【死魔傷】を残し、それだけでは留まらず、800m先の山にさえ深い爪痕を残すであろう。故に中途半端に立ち向かっては確実に死ぬ。完全回避か、完全防御の二択しかない。

 それだけではない! 防御側も、その強烈な攻撃を防御特化の構えである天地魔塔の構えで被害を最小に押さえようとしている! 
変に立ち向かうのではなく完全防御で凌いで反撃に出る算段だ。戦いのセンスも尋常ではなかったのか……
どちらも戦力的には拮抗しているのであろう。
例えどちらが勝っても残った方はこの地で力を蓄え、いずれ本来の目的。そう、神への復讐を思い出し、実行に移す筈。
あの世界を救ってくれた少年と鼠はもう居ない。自分の世界に帰り、どういういきさつか分からぬが、それぞれ電気会社の社長とその社員になり、業務を日々こなしている。
そんな戦いから離れ、30代の中年になってしまい、だらけ切った彼らを今更呼び寄せたところで最早太刀打ちできぬであろう。
これが、年老いていく一方の脆弱な【人】と、これから無尽蔵に成長し、膨大な魔力を蓄え続けてゆく【怒虎】との圧倒的差なのだからな……
そしてこのファイト! の結末度はどうなってしまうのだ? 片方が残り、神を滅ぼすのか? それとも両者ともに自我を取り戻し、共に神を滅ぼすのか? それとも相打ちになってしまうのか? ぬう、分からぬ。
私の妄想の限界はここまでだ……予想だに出来ぬ……
 しかし、この写真の撮影者も只者ではない。かなり遠くからの撮影で、恐らく望遠レンズを使用しているだろうが
それだけ離れていても二柱の放つ覇気に気圧されて手がブレる筈。
そもそも彼らの放つ淀んだオーラが邪魔をして、ここまで鮮明に映ろう筈もないのだが……一体何故だ? 
それを克服し、ありえない程鮮明に捉えた謎の技術。素直に感心せざるを得ない。
当然特別な金属のアダマンタイト製のパワードスーツを装備しての撮影と思われるが、命知らずにも程がある。
もしも私がその場に生身でいたならば、二柱の覇気に皮膚は焼け爛れ、骨以外を失い死んでいるであろう。
そんなリスクを背負ってまで撮影された奇跡の一枚。一般人には到底立ち入る事すら出来ない神の領域での決戦。それを克明に収めた歴史的記録。

 ぬ? それにしても伝説の神獣の事に関して何故そこまで詳しいかであるだと? それは簡単な事だ。
怒虎従者は、少年と鼠のお陰で2柱を封印した直後に我に返り、呪縛から解放され自由の身となったのだ。それは既に見て頂けている筈である。
そして、彼らは怒虎に使役していた時の記憶が残っており、その体験談をふれて回ったり、書物に書き起こし、皆に販売したのだ。
その貴重な体験談や書物はとても不思議な内容で、自分がその世界の住人になった気分になり、読め終えた後すっごく爽快だった為、爆発的に広がり、皆怒虎を知るきっかけとなった。そして、その習性を恐れた。
その時書かれた書物の一部のタイトルを紹介しよう。

 幼い猫の命と引き換えに交通事故に遭い、異世界転生し、御屋苦素苦(おやくそく)の女神に、色々自分に身に付いたチート☆スキルの説明を受け、さあ冒険の旅に出発だ! と、意気揚々と新世界のフィールドに立った瞬間にうっかり招かれ、折角得た超絶チート無双スキルを使わずじまいで従者となった哀れな転生者の話の

☆転生したら怒虎従者だった件について。

これは、皮肉にも助けた猫に似た種族の怒虎に招かれた悲劇を目の当たりにし、多くのファンが涙した。

 次に紹介するのは、恋愛物語だ。怒虎従者の♂と♀とが、日々の従者生活の中で次第に惹かれ合い、怒虎の超強力な魔力に操られていて、本来生まれる筈のない小さな感情が、【恋愛感情】までに成長してしまったと言う、一つの小さな奇跡の恋愛ストーリーである

☆怒虎従者でも恋がしたい! 

これは、呪縛を解く術は何一つないと思われていた中で、男女間の恋愛にそれを破るヒントあるのだ! と言う事実を読者達に与えた。

次に紹介するのは、怒虎従者に理不尽に任命された憤りを自由闊達に書き綴った、

☆私が怒虎従者になったのはどう考えても怒虎が悪い! 

で、これは、一人の少女が愚痴を書き綴った言文一致体の物語で、よく最後に【畜生めがぁ!】 と言う一文が入る。

次は怒虎従者になってしまった。だが、なってしまったからにはしょうがない。
その中で最高の怒虎従者になってやろう! と、頑張っている途中で怒虎が封印され、呪縛から解放されて嬉しい様な、はたまたちょっとだけ悲しい……そんな不完全燃焼で終わった漢の物語である、

☆怒虎の従者の成り上がり

は、読む者全てに何かを頑張ろうと思い立っても必ずしも成功するとは限らないんだなあ……と言う嫌な思いを植え付けた。
この作者はその本を書き記した後、どうせ何をやっても中途半端で終わってしまうのなら、人生に期待せず、目標が10であれば、9まで行けば十分だ。と、思う様になったと言う。
そして、今は仲間と洋館でお化け屋敷を経営しているらしい。

 最後に紹介するのは、怒虎に招かれそうになった時に周りを見ていたら、木にしがみついて逃げのびていた奴が居たので、そこからヒントを得て、いつ招かれてもいい様にこっそり修行を開始に至る所から、それを終えるまでの記録。

☆怒虎に招かれましたが、自由を奪われるのが嫌なので、しがみつく力に極振りしました! 

などが有名で、☆怒虎に招かれましたが、自由を奪われるのが嫌なので、しがみつく力に極振りしました! の中で、20秒しがみ付けば招くのを諦めてくれる!! と記されていたのだ。
前回、20秒しがみ付けば助かると語ったエヴィデンスは、この本に全て書いてある。
私もこの作者の作品は特に面白いと感じた。他にも色々な回避方法が記されていて、この本さえ読めば100%怒虎従者にならずに済む。興味があったら尼損でポチッてみてくれ。
そして、これらの本を見た読者達は、どの怒虎従者も行き当たりばったりで猪突猛進な性格からそうなってしまったのではないか? そう、だろう運転ばかりしているからこうなるんだ。
と、考えるようになる。
だから、かもしれない運転に切り替えなくては、また第二第三の怒虎従者が生まれてしまうよ? という戒めから、いつからかこの本の作者達の事を、【だろう作家】と呼ぶようになり、危機管理を身に着けたいと言うファンからの支持を得て、だろう作家の書いた【だろう小説】と言う書物は、ベストセラーとなったのだ。
そして、風の便りでその噂は私の耳にも届いた。そして瞬時に尼損プレミアムで購入し、情報収集に努めた。と、いう事だ。
それらの書物を読みふけった私は、一つの感想を持つに至った。
その感想とは、

「怒虎従者になったら超面倒臭そうだしぃ、怒虎従者だけはなりたくないからぁ、少しは気を付けないといけないなあ……」

と、な。この様に、私のアンテナは常に鋭敏である。旬な情報は逃さないのだ。
因みに現在の元怒虎従者のほとんどが、だろう作家として活躍し高収入を得ているが、そうではなく普通のサラリーマンとして暮らしている人もいる。そういう方々は人生で機会損失をしていると言わざるを得ない。
何故かと言えば、作家達のお陰かも知れないが、広く怒虎の事が知れ渡った影響か、未成年でこれから就職活動をする元怒虎従者が履歴書に元怒虎従者と書いておくと、一流企業の採用率が格段に上がるよ! と言う噂が流れたのだ。
確かに耳を師子王音から守る為、両手を封印した状態でも働く事を出来るという技能も持っているからな。
そういう器用な人材は、企業側からも喉から手が出る程欲しいだろうし即採用される筈だ。
もし今が就職氷河期なら、一度怒虎魔寝奇を受けていない状態。そう、だろう小説で特性をしっかり学習した後、理性のある状態で従者入りし、3か月程山怒虎軒に入り、そのノウハウを習得した上で上手い事抜け出してから面接を受けるのが、賢い人生の歩み方だろうな。

 勿論元怒虎従者で、サラリーマンに復帰したと言う方も、その事実を上司に報告すれば、一気に部長や専務までにランクアップできてしまう程の効果がある。器用な上に実際に神の獣を見たと言う経験者の話を直に聞く事が出来ると言う強みを持っているからだろうな。だがその恩恵を受けられるのは今だけなのだ。何故なら元怒虎従者と言う肩書が、いつまでも付加価値のある肩書で留まってくれるとは限らないからな。
例えば、だろう小説の人気が落ち着いてしまえば、その価値は下がるのは必然。人生一度切り! そのビッグチャンスを逃してはいけない。まあテレワーク等に慣れてしまい、今更現場には行きたくないよ! と言う風潮もあるが、もしあなたが元怒虎従者だったらこのチャンスを生かし、今の内に一流企業の門を叩き、面接に行くべきである。人生の難易度が大幅に下がる筈であるからな。

 しかし、この悲しくもシリアスな写真に、



言葉なり台詞やストーリーを足して笑いに変えろと言うのか? 運営の意図は一体?
一枚目からこんなハードルを高くして良いのだろうか? 果たして、一応はお笑い芸人だが、まだ転職したばかりの駆け出し芸人のアリサにそんな難しい事が出来るのであろうか?
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