第9話 わたしは 貴方を……

文字数 9,004文字

「糖質か……思い出しちゃうな。すっかり忘れていたと思ったのになあ……悔しいけどまだ残ってたんだ……ねえ、ちょっと悪いけどこれから5~6~7~8000文字位語るね。断っても無駄よ? あなたが思い出させちゃったんだからね?」

ふむ、5~6~7~8000文字位ならサクッと読んで貰える程度の非常に短い量であるし平気であろうな。

「ねえ? ちょっと5~6~7~8000文字語るから待っててくれない?」

「え? しょうがないなあ……いいよ!」

リーダーの男が渋々承認する。



「ありがとう! アリサちゃんもいいわね?」



「……」

だがアリサはフンガーを裏切った事を悔やんでいて、何も言わず俯いている。 



ホワンホワンホワンホワーン

これはなんですか? ですって? 多分ですけど回想シーンに行く前のあれです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー13年前冬ーーーーーーーーーーーーーーーーー

ダダダダダダッ

冷たい北風が吹く中、半袖短パン姿の少女? が走っている。あどけなさの残るキラキラした瞳、だが、遠目で見てもその四肢は途轍とてつもなく太く、無駄なく鍛え上げられているのが分かる程だ。



「へへーん、ちょろいわあの爺さん。4個獲得! これで明日の夜までは大丈夫ね! ああ冷蔵庫欲しいな……まだ寒いからもつだろうけど夏はすぐ駄目になりそう……」

何かを持ったまま空き地に駆け込む少女。しかし、全力疾走している割に一切息を切らしていない。

空き地の隅には4つ位の木箱が不自然に置いてあり、それをどかすと人工的に掘った穴がある。

それに地下へのハシゴが掛かっていて、その中に躊躇わず入っていく。

中は4畳半位の空間がある。余りにも不自然な作りの部屋だ。中央に机、その隣に毛布や枕? そして壁際には本棚、その付近には4本のペットボトル。中には水が入っている。

ここはこの少女の隠れ家なのだろうか? そしてこれは彼女が掘ったのか? しかし、部屋にはスコップの様な物は一切見当たらない……まさか素手で? 相当な力が必要だと思うが……

そして何かを4つ、机の上に置く……これはパンだ。パンの真ん中に、白い何かがコーティングされている。

確かアイシングと言ったな。砂糖と洋酒を混ぜて、固めたあの甘ーい奴だ。

先程の言葉から推察するとこれらは恐らく盗品だろう。



「いただきます!」

パクパク モグモグ



「あーやっぱり甘っ! パンってこんなに甘いっけ? でも、贅沢は言ってられないわ。このお陰で生きていけるんだから! 甘いのはエネルギーの源って昔聞いたし、甘ければ甘い程沢山エネルギーが入っているんだ! 何かよく分からないけどスタミナが付いた気がするわ。力が湧いてくる……! 後は大切に保管っと」

机の引き出しにしまう。



「そうだ! そろそろ修行しないと!」

そう言うと少女は腕立て伏せを開始する。



「1 2 3 4父さん倒せ! 9 10 11 12父さん泣かせ! 17 18 19 20父さん追い出せ!」

ものすごい速さだ。1秒に5回以上やっている。しかも全く息切れする事無く、腕の曲げ方も浅くない。

更に深く顎を地面につける様なキツイやり方でやっている。



そして寒さを凌ぐ為地下に部屋を自分で作ったのか。簡素な部屋で、テレビもPCも携帯も無い。だが数冊の漫画が本棚に並んでいる。トクホのケソだろうか? 彼女にとっての娯楽はそれしか無い。お陰でわき目も振らず時間の許す限りトレーニングに専念できる環境の様だ。



☆4時間後☆



「……149999・150000! ふう。ちょっと限界かな? 腕がパンパンだ……もういいや、やーめた。

明日は腹筋の日ね。60万……回……頑張る……ぞ……zzz」



そして、トレーニングを終え疲れたら眠りに就く、学校にも行かずにそんな生活を続けている様だ。

しかし小学生位の少女が、なぜたった一人でこんな所にいるのだ? そういえば、回数を数えている間に、父に向けての恨みの言葉を挟んでいる様だ。そう、父さんを倒産させる事をモチベーションとして彼女は修行をしている様だな。

恐らく喧嘩でもして家を飛び出してきたのかもしれない。

しかし15万回か……ぬう、凄いな。私の全盛期でも10万回が限界だったのだが……この若さでこれだけの回数をこなせると言うのか……この力があれば素手で地面に穴を掘り、人一人暮らせる位の部屋を作るのも可能なのだろうな。

彼女は相当力はあるようだが、強盗などは行っていない様だな。



翌日の夜



「549999・550000……はあ、はあ。あれ? もうエネルギー無くなっちゃった。これで限界ね……zzz」

中途半端な回数で腹筋を終え、そのまま毛布も掛けずに大の字で眠る。しかし、空腹のせいか? すぐに目が覚める。



「そうだ! パンまた盗りに行かないと……もう無くなってたわ……面倒ね……早くバイトしたい……でも履歴書ってのを書かなきゃいけないのよね……頭痛くなってくるよ……どうやって書けばいいんだろ……それに漢字で書かなきゃ駄目なのよね……まずは本屋さんで辞書をゲットしないと……勉強嫌いなのに……やだなあ」

そう言いながら夜の商店街のとある店の裏に入り込む。



「やっぱりここの窓開いてる」

窓から忍び込む少女。そこはパン屋だった。邪夢おじさんのパン工房だ。彼女はそこの売れ残りのパンを盗む生活を続けている様だ。



「あまり沢山盗ったらばれちゃうかもしれないけど、今日は10個挑戦だ! 何度も来るの大変だし……! もしばれたら別のお店に変更よ!」

ガサガサ

素早く袋に詰め、去っていく。



「大漁大漁♪」

秘密基地に満面の笑みで戻る。



「今日は奮発して夕飯は3個にしちゃお! パク。うん少し甘すぎるけど美味しい! ああお腹いっぱい♡もう寝よっと! zzz」

こんな大胆な盗みを働いてもばれる事は無く、2日に10個が当たり前になって来た。そして、そんな生活が3か月経過した。



「あ、そろそろ行ってみるかな?」

ぬ? どこに行くのだろうか?

ダダダダダッ

走った先は道場? 早乙女総合格闘道場と看板に書かれている。そこに土足で入り込む。

その中央でたたずむ男に……?



「乱魔ああああああああ!」



「ウィー? おおっ我が娘よwwヒックw 会いに来てくれたのか? 嬉しいぜぇウイーヒック」



「しね!!」

ゴウッ

何が起こっているのだ? 早乙女は乱魔と呼ばれた男に突然殴りかかる。



「いきなりしねか……穏やかじゃないねぇ……ヒック」

そして、彼は彼女を娘と言っていた。

恐らく早乙女の父がこの男なのだろう。実の父を呼び捨てにし、容赦なく風を切り裂く程のパンチを連打する。



「おとととと」



酒に酔ってよろける様な動きで運よく当たらずに済む。



「急に殴り掛かってきて……おてんば娘だなあ……ヒック」



「ダアッ! ハアッ!!」

父の話を一切聞くことなく、一撃一撃が必殺の攻撃を続ける。

ブン、ブン、ブンブンブンブオン!

竜巻が巻き起こる勢いの裏拳のラッシュ。



「あらららら」

今度はのけぞるように倒れ、その全てをかわす。運の良い男だ……? いや……違う……これは全て計算づくの動きなのだ……そうか、まさか? これが酔拳? 不規則な動きで相手を油断させ、必殺の一撃を見舞う何ともトリッキーな拳。



「なんで……こんなに修行したのに……なんで……当たらないのよ!!」



「まゆみん? お仕置きの時間だぜ? 流石に父を呼び捨ては駄目だ。 お・父・様。だぞ? よし、充填かんりょっと。

やっぱこれ【溜まる】のに時間がかかるねえ……そろそろ終わりにするぜ? ウイーっと」



「まゆみんだと? 2度とその名をほざくなアアアア」



「おおw怒っても相変わらず可愛い声だなw元気いいねえwでもな?」



「声の事を……言うなアアアアアアアアアア! うおおおおおおお」

本気の右ストレートを放つ。だが……それが乱魔の顔面を捉える寸前!

キッ 

突然乱魔は鋭い眼光を娘に向ける。



「ウッ」

バタッ 

急に意識を失う早乙女。

「へへへ……今のままじゃあ俺に触れる事も出来ねえぜw……ウップ……おえーーーー」

カッコよく決めたかったが、最後に動き過ぎて戻してしまった様だ……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ハッ」

目覚めるといつもの空き地の部屋で目を覚ます。乱魔が運んでくれたのだろうか? という事は彼はここで娘が暮らしている事を知っているのだろうか?

それともここでセーブして全滅したから不思議な力で自動的にここに戻されたのだろうか? そこまでは良く分からないが……

だとしたら所持金は半額になっていないのだろうか? 少し心配である。



「早乙女乱魔は強い‥‥‥まだ‥‥‥勝てない! うっ、うえーんうえーん」

そう言いつつ泣き始める。その声は部屋の中でハウリングし、暫くしたら小さくなり消える‥‥‥

その反響音が子守唄となったか? ‥‥‥いつの間にか眠っていた。



「ん……」

グー……

目覚めたら翌日の昼を過ぎていた。

そして、やはり腹は減る。戦いに敗れ悲しい時も、嬉しい時もどんな時でも平等にやってくる空腹。

悲しいからと言って食わずにいれば、そこで力尽きる。彼女の足は再び商店街へ向かっていた。



「あいつに勝つにはエネルギーをもっともっと必要だ! よし!! 今日は20個だ」

真冬なのに相変わらず空いている窓から忍び込む。

そして袋に詰める。しっかり20個。

「よし」



「うわー来ないでくれええ、お願いじゃあ……むにゃむにゃ」



「ひいっ」

誰かの寝言で、肩をすくめる早乙女。恐らくここの店主邪夢おじさんだ。

夢を見ているのだろうか?



「怖かった……寝てるみたいね……じゃあ帰ろっと」



相変わらず盗まれているのはバレないまま早乙女の家出生活は続く。そして、その甘ーいパンを2日に20個と言う量に増やした。

全ては父に勝つために……



「やっぱり甘い! でもこれが力になる! もう一個だ!」

ムシャムシャ、モリモリ。

朝3個、昼3個、夜4個同じパンを食べ続ける生活。野菜などは摂っていない様だな。

そして、早乙女の体に小さな異変が起こったのは、家を出てから1年位経った時の事であった。



「あれ? ちょっと歯が痛い? 気のせいよね? それになんかお腹もポッコリと出て来たみたい?? 変ね……毎日トレーニングしているのにな??? しかも、しっかり寝たのに疲れが取れないし……今日はトレーニング休……みたいけどやらなきゃ……今日はスクワットね。じゃあ8万回に抑えとこっと」

早乙女は家を出てから今まで一度も筋トレを休んでいない。だが、初めて心が揺らいだ瞬間だった。

回数も控えめの8万回か……これなら私でも片足で出来る回数だ。

「1 2 3 4父さん嫌い 9 10 11 12母さん嫌い 17 18 19 20二人とも嫌い!……」

翌日



「痛い痛い痛い……何これ」

歯の激痛で目を覚ます早乙女。



「歯医者に行かなきゃ! でもお金が……でもこの痛み耐えられないどうしようどうしよう……」

取り敢えず外に出て、公園を目指す。



「痛いよ痛い痛い……お願い、治ってよ……」

キュッキュッジャー

訳も分からずに口の中を水道で洗ってみる。歯ブラシも何もない。指で、痛い部分をさすってみる。だが何も起こらない。

それでも無知な彼女ではそれ以外何も出来ないのだ。足搔く早乙女。



「駄目だ……歯医者に行くしか……でもどうしよう……お金ないよ……歯医者さんってただで治してくれるの? わかんないよ……」

痛みは引かず、その場にへたり込む。



「どうしたんだい?」



「え?」

優しそうな男性が、早乙女に声を掛ける。



「歯が……」



「歯が? 痛いの?」



「はい……」

顔を真っ赤にして俯く早乙女。



「分かった。歯医者に行こう」



「でもお金が……」



「その恰好を見れば持っていないのは分かるよ。治したくないのならそれでもいいけど」



「治したいです!」



「じゃあ行こう」



「はい……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ああ、これは虫歯ですね。まだ深い所まで到達していないので、軽く削れば治ると思いますよ」



「本当ですか? 良かったね」



「はい……ありがとうございます」

早乙女は全身真っ赤で小声でお礼を言う。それは自分が盗みをしていて、その盗品で自分の歯が悪くなった事実をいつ聞かれるのかが怖くて、恥ずかしくて、大人しい少女になっているのだ。



「ところで何か甘い物でも食べ過ぎたの? 甘い物は食べ過ぎると色々な害があるらしいよ?」



「そうなんですか……パンを……食べてました」



「へえ、菓子パンか何かかな?」



「はい。じゃあ怖いけど行ってきます」



「頑張れ!」

実はこのパン、邪夢おじさんのパン工房で作られている物なのだが、砂糖の量を通常の5倍にして作っている。ボケているとかではなく、甘いもの好きな人にも納得して貰える様にとその人達用に試作を作っているのだ。それを早乙女は盗んでいたのだ。運の悪い事にな。中々分量が分からず、絶対に妥協を許さないおじさんは何回もトライしている。

だが、彼はその名の通り邪悪な夢にうなされるという悩みもあり、なかなか進まず、同じものをずっと作り続けているのだ。

折角閃いたアイディアも夢から覚めると忘れている。だが、彼はそのまだ見ぬ最高の甘いパンを作ろうと日々努力している。

かれこれもう一年以上その研究を続けている。



 甘い物を食べ過ぎると虫歯になると言われているが、当然彼女の歯にも異変が起こり始めた……甘い物は疲れた脳に良いと言われているが、摂り過ぎれば当然体に良くはないのだ。脂質と合わせて摂ると、脂肪となり肥満の原因となるし、更には糖尿病になり、それが悪化すれば失明。他にも足先の血管が詰まり、切断、車椅子生活になる場合もある。

だが甘いものはとても美味しいのだ。甘党と言う人種も存在する程にな。だから今も糖尿病患者は増え続けているのだ。



だが、この事件をきっかけに早乙女は一切甘い物を食べる事が無くなった。運動をしていて冬でも半袖でいられる超健康体だった彼女が初めて感じたどうにもならない歯の痛みは、正に死の恐怖。歯に筋肉は無いからな。

そして、いつしか糖質は彼女にとっての敵へと変化していったのだ。



「終わりましたよ。食べたらしっかり歯を磨いてね。この歯ブラシ持って行って」



「はい! ありがとうございます! 助かります」

診察室を出るとその男性が待っていた。そして口を開く。



「君、これからどうするの? 家がないんだろ?」



「え? そうだけど……どうしてしってるの?」



「何となくさ……実は僕ね、世界中をびっくりさせたいと思っているんだよ」



「え?」



「だから僕と仕事をしないか? 君は相当体を鍛えているね? 磨けば光ると思う。一緒に来てくれないか?」



「……何を……するの?」



「体操。それも組体操だ」



「体操? 私好き! でも組体操はよく知らない」



「だよね? 何となく好きそうに見えた。子供とは思えない程に恵まれた体格をしているから……僕は世界を体操で笑顔にしたい。色々な演目を考えてね。

まだ僕一人しかいないけど、最終的にはメンバーを500人に増やして、500人でしか出来ない凄い組体操を世界に見せつける」



「そんな事が出来るの? そんな夢みたいな話……」



「やってみなければ分からない。でも君には光る物を感じた」



「私なんかに出来ないよ」



「自分には出来ないとやってもいない内から決めるのは駄目だ。僕は、親に従い大学まで行った。だけどそこにやりたい事は見つけられず3年で中退してフラフラしていたんだ。今思えば後悔している。
本当にやりたい事がずっと頭の中にあったのに、3年も遅れる事になっちゃったんだ……親も所詮人間なんだ。
自分の見て来た物、経験した事でしか測れないし喋れない」

「親……所詮人間……」

「そうさ。僕に大学まで出ろって言ったのは、彼らの意見ではなく、周りがそうしているからやっているだけで本質は分かっていないと思う。何となくそれがいいんだろうなくらいだと思うよ。でも育てて貰って恩もあるし中々逆らえるものでもないよね」

「うん」

「でも、自分の人生だし、もっと自分の考えを押していくべきだと思ったね。
そんな時、君を見つけた。君となら出来そうな気がしてね。こんな感覚は初めてかもしれない」

「私も何となくその気持ちわかる。親だからって全部正しい事を言うとは思えない。間違えている所もあると思う」

「そうだよ。でも彼らも僕の為を思って言ってくれたと思うんだ。それが子供の可能性を摘んでいるとも気付かずにね」



「可能性?」



「そうだよ。自分に近しい人。親とか友人とか先輩とかさ。そういう人達に夢を語ったら、全否定して来るんだ。

君には出来ないよってね。笑いながらさ……ドリームブレイカーって言われている。

ドリームは夢、ブレイカーは壊すみたいな意味だね。自分たちは普通に暮らしてきていて、その平穏で静かな暮らしを子供にもして欲しいと思っているんだ」



「夢を……壊す? どうして?」



「多分だけど、僕を知っている人は特にだけど、普通の人間と思い込んでいるんだ。そんな凡人が頑張って夢を追っても、叶わないと決めつけて、普通に仕事をして結婚した方が安全だという考えかな? それと、僕がもし成功して自分達から離れて行ってしまう事を良く思っていないんだ。コンフォートゾーンに入れておきたい」



「コンフォート?」



「そう、自分が安心して暮らせる行動範囲の事だよ。コンフォートは快適とか居心地のいいって意味だよ。

だから自分たちの物差しで測れる範囲の事しか許してくれない……でも、僕はせっかく人として生まれたからには普通の人とは違う事をやりたいって考えている。そうさ、コンフォートゾーンから抜け出していくんだ。

だから、こんなバカな事をしている。君も何もしない内から出来ないって決めつけちゃうのかい?」



「え? ううん。出来ると思いたい」



「じゃあやってみようよ。どうせ僕とここで分かれても、また盗みの生活に戻るだけだろう?」



「( ゜д゜)え?!!!」



「実際は、そんなの嫌だろ? 菓子パンを盗んでまた虫歯になるかもしれないよ?」



「う……ん(ばれてたんだ……はずかじいいいいいい)」

顔面クソムガソ状態の早乙女。






「私で……出来るのかな?」



「分からない。初めての事だ。でも、やってみようよ! まずは団員を少しずつ増やしてね」



「うん」

決意を表明した早乙女の体が白く光り出す!!

パアアアアア






Mayumi changes class from thief to set gymnastics leader

Mayumi forgot to steal and learned the basics of gymnastics and HP MP full recovery!

この瞬間早乙女は、盗賊から組体操のチームのリーダーにクラスチェンジを果たす。

そして、今まで覚えていた盗むを忘れ、体操の基礎知識を習得し、体力と魔力が完全回復した。

本来盗むを転職先に継承する事も可能なのだが、彼女はそれを破棄した。これがいわゆる足を洗うという事であろう。



「あ……れ? 何か全くの別人になった気分……体も凄く調子いい! でも……どんな体操するの?」



「クラスチェンジしたんだね?」



「クラスチェンジかあ♪かっこいいけど、漢字じゃないからカッコ良くない!」



「じゃあ職業変化は?」



「職業は2でしょ? で、変化も2。じゃあ4文字! いいね! とてもかっこいい! でも私これから何をするの?」



「世界文化遺産だ!」



「世界文化遺産? 世界は2、文化も2で遺産も2かな? ねえ! それって漢字六文字?」



「え? そうだよ? それを君はこれから集う仲間と一緒に形作るんだ。一人では到底できないかもしれない。

でも500人もいればどんな複雑な形でも再現出来る筈さ」」



「私よりも多い! 凄い! かっこいい!! 私頑張って覚える!」

早乙女は漢字が書けない。その為、並んでいる漢字にかっこよさを感じてしまうのだ。

早乙女が3文字の名字の人間を優先して桜花ジャパンに採用していたのはこれが理由なのかもしれない。



「え? なんか良く分からないけどやる気が出たみたいで良かった。

まずはどんな物があるのかこの写真集で、その形を頭に叩き込むんだ。そして、心も体も世界文化遺産になり切るんだよ?」

一冊の写真集を広げ早乙女に見せる。

「うん!! わあ! 何か綺麗」



「そうだ。君とこれから出会うであろうその仲間は、この世界にある全ての世界文化遺産を形作る体操選手になるんだ! ううん? それだけじゃない! これから新しく登録される物も全部だ。忙しくなると思わないか?」

ペラペラ

早乙女にページをめくって見せるリーダー。



「これは?」



「自由の女神像だ」



「これに変身するのに500人いらないよね? 一人で出来るもん」



「うん、そうかもしれない。でも、それじゃただの変装だよ。これも何人かが組み合わさってこの形を作るんだ」



「へー凄い。一番上の人怖そうよね……次のページのこれは?」



「兵馬俑だ。中国の世界遺産だね」



「人がいっぱい……馬もいるね」



「そう、今はまだ一人だから出来ないけど、500人で表現するんだよ。今から楽しみだと思わないか? みんなこれを見て、びっくりしてくれると思わないか?」



「うん! ……でも、8000点ってあるよ? 数が足りないよ……」



「どんなに広いステージでも流石に8000は入れないよ。そこはコンパクトに500人で、でもリアルに作るつもりだよ」



「わかった。でも、よく見たら首が無い人も混ざってるよ?」



「……確かに……長い年月の間に地震とかで破損でもしたのかな? でも大丈夫。それは長めのジャケットでごまかしてそう見えるようにすればいいのさ。首を取る必要は無いよ!」



「そうよね。なんかすごく楽しみー♪ あ、これも凄いね……あっこれもだ……」



「そうだよ君なら出来る! 絶対にね!」



「うん!!!」



「あのー、治療も終わってもう用はないのに出て行かずに、歯医者の中で、夢を語り続けるのはちょっと止めてくれないかなあ……聞いてる内に応援したくなっちゃうしさ……」

とは言いつつも一区切りつくまでは突っ込みを待っていてくれる優しい歯医者。

ンーワホンワホンワホンワホ



ぬ? 何だそれはですって? 知りません。
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