第30話 奇想天外、空前絶後、驚天動地、戦後最大、前代未聞、天地震撼、の……?

文字数 7,065文字

「凄いネタだったねー。しかし、プンスカスカプンチュッキンプリプリィ♪って一体何だったんだろうな? ま、まあいいやポ、ポインツを見せてくれ」
サイアが放ったあの奇声の由来は、アリサが先程控室で調べたサイトにはこう記されている。

【サイアは普段、厳格な男なのだが、特別な行動してしまうと特殊な癖が発動する。
それは、【言葉を言い間違える】という事だ。そうすると一時的に女の子言葉になってしまうのだ。
更に何回か間違えると自分が嫌になり、彼の中での最高の怒りの表現である

【プンスカスカプンチュッキンプリプリィ♪】

という言葉を使用し、怒り出してしまうのだ。
だが、その癖を声優さんに説明し「ぜひとも再現してくれないか?」とお願いして見た所、

「何が何でも無理っす」

と言われた為に没にした】と書かれている。

 そう、アリサはその、アニメでは没になったサイアの癖をネタ中で使用したのだ。一度見たその奇怪な癖をアリサは面白いと感じ、ネタに使えると判断した訳だ。
確かにその響きは憂鬱な気分の時に聞けば完全回復する程(語り部調べ)に楽しく、愉快な響きではある。
だが、当然没になった物だから、その事実を知るにはアリサの見たサイトを見る様なマニアしかいない訳で、ほとんどの客は全く分からない筈だ。だがアリサの感性がそれを使っても支障はないと思ったのだろう。……いや、むしろ何も知らない方が、その新鮮な響きにクスッと来てしまうかもしれない。
果たしてアリサのこの判断は正しかったのだろうか? そして、客の評価は? 一体どうなってしまうのだろうか?
司会も観客も皆、スクリーンに注目する。
ピピピピピピ……機械がポインツを測定する。
          
                      20000

「に? 20000ポインツ? キ、キター!! これは確か、第一回になかむらぜいにくんが優勝を決めた時に出した16700ポインツを軽々と上回ってしまったああ! 凄い、凄すぎる!! 奇想天外、空前絶後、驚天動地、戦後最大、前代未聞、天地震撼のポインツです!」
アリサがこれだけの偉業を成し遂げた後だと言うのに、もう、彼は、伸ばさない。語尾を全く伸ばさない……何がどうなっても伸ばさない……恐らく死ぬまで伸ばさない……

「すげえ……過去10年間、16700は伝説のポイントで、決して破られる筈無い物だと思っていたのに……マジですげえよ……」

「歴史的瞬間に立ち会えた!!」

「やったあああああ」

そのアナウンスに更に拍手が巻き起こる!! そして? 

ダダダダダダッ

感極まった司会は、ステージ上を駆け回る! 年の割に、そしてさっきお漏らしをした後とは思えない程にすばしっこいな。

ダダダダダダッ!

「アリサー凄いわー」

「フンガーーーーー」
観客席で見ているママやフンガーも興奮状態。

「おいおい……この俺様がガンバレを生み出し、そしてガンバレネタを育てたんだぜ? なのにその俺様よりもガンバレネタを上手く操縦出来る奴が居たなんて……畜生!!」

                   ζドンζ 

 何の罪も無い神聖なステージを叩く最低な周様。
そして、ガンバレを作ったのは彼では無く日本人である。

「な、何なのよこの子……こんなの魅せられた後に、一体どんなネタをやればいいのよ……誰か教えてよ! 私……もう芸人辞めちゃおうかな……」
見せられた。ではなく、魅せられた。これは誤字ではなく、彼女の気持ちの表れであろう。
アリサのネタに魅せられプロの芸人が、辞任表明の様な物さえもほのめかしてしまっている。恐るべし!

「ふ、ふふふ……っざ、ふざ……けるなァああああ!! こっ、こんな事……こんな……こんな……バカな……一瞬で……こんな馬鹿みたいなネタを思い付ける訳……ないだろォオ?!? ある筈がない! あり得ない! 絶対にだよおぉぉ! だってさ、だってだって……こんなの、こんなの奇跡じゃないか!! いい加減にしろぉ!! あれだ! 事前に打合せして、問題を教えて貰っていたんだろ? それで一週間位前から一生懸命おうちで考えていたんだ! ずるいチビだ。ずるすぎる……だってどう考えてもそうとしか考えられないよ……」
ドン! ドン!! ドン!!! 鎌瀬も半狂乱で床を拳で打ち付けつつ言いがかりを付けてくる。

「鎌瀬だっけか? 気持ちは分かるが落ち着け……お前の言う通り事前に作っておいたとしても、あれだけの内容を頭の中に入れておけるだけでもヤバいぜ? 記憶力が尋常じゃねえ。だが……それ以上に恐ろしいのは……」

「な、なんですぅぅぅぅ?」
鎌瀬がその先を既に予想している様なのか? 目を見開き白川の次の言葉を待っている。

「それ以上にこれが、もし、この場で全くの白紙の状態から咄嗟に思いついただけの、台本無しの【アドリブ】ならもっとヤバいが……」
白川も今起こった現実を受け止め切れていない。

「え? そうです、それですよ! 白川さん! ありがとうございます。今の言葉が僕を覚醒させました! 安心して下さい! 彼女の巧妙なトリックが分かりましたよ!」

「トリックゥ?」
アリサが鎌瀬のふざけた推理に、間抜けな声で反応する。

「それだろ? その、スケッチブックだぁああああ! そこの中にカンペが書いてあるんだ! 台本がさ! 予め考えたネタがね! おいっ! 見せろォ!」
何だこの男は? アリサが既に予め問題を見ている事前提で話を進めている。そもそもケイトに連れられ偶然この会場に来たばかりのアリサに、そんな事は出来る筈もない。
それ以前に、スケッチブックをネタ披露中に見る隙などは一秒たりとも無い事も鎌瀬自身分かっている筈。
おまけに舞台上はカメラで撮影されている事も分かっている。それを確認すれば、アリサがそんな事をしていない事はすぐ分かる。だが、それでもこの男はそう思わなくてはやっていられなかったのだろう。それらをすっ飛ばし直情径行に詰め寄る。

「えっ? 別にいいよ?」
アリサも当然それは分かっている。だが、この男は暴走中。下手に刺激するのはまずいと本能的に察知し、快諾する。

「これだな? 卑怯者め!!」
鎌瀬はスケッチブックをアリサから奪い取り、必死にカンペらしき文字列を探す。しかし、当然。

「ハッ! な、無い? 無いよ? どこにも無い! 嘘だ! そんな筈は……(。´・ω・)ん? 何だ? 誰だろう? とても逞しい……この方は男性だな。他にも同じ絵が沢山ある……よ……え?」
ほほう、どうやら鎌瀬は、早乙女のクロスアイ現象を説明していた時、彼女の描いたスケッチ部分を見ている様だ。
彼は、ただの絵なのに、それを見て、【方】と呼んでいる。それ程に姿形だけでも威厳のある女。早乙女。
ペラペラ

「それ、女の子よ。早乙女さんっていうの。あの○×クイズで襲って来た、筋肉500人集団のリーダーの人よ!」

「へえ、道理で逞しいと思ったら……?」 



「え? お目目が飛び……出してる!? 何で?」

「さあ? そのお目目も瞼出(まぶたで)でもしたい年頃だったんじゃない? 時には誰だって旅立ちたいって気持ちは起きる筈よ?」
咄嗟に新語を作成するクリエイテヴなアリサ。

「な、何だよ瞼出ってさ! 家出みたいに言うなよ! つ、次のページは?」
ペラペラ
憑りつかれた様にスケッチブックをめくっていく。そして……


「あーーーーーーーーっ! お目目が喋ったあああぁあああぁあ!!!!」
ほほう、中々の伸ばしだ。更にはエクスクラメーションマークを4つも使用すると言う技術点の高さも目を見張るものがある……まあ、突発的で一時的な物だろうがな……いや、そうだとしても一文字でも多く伸ばして下さった鎌瀬様に感謝しよう。

「ふふふw」

「!? 何を……笑っているのさ!? 一大事じゃないか!!」

「だってw早乙女さんの言う通り、初目てそれを見た時のリアクションが私と全く同じなんだものw」

「そうなんだ……ご冥福をお祈り致します」
深く頭を下げ合掌する鎌瀬。

「まだ生きてるよ!」

「え? 何だ良かったーって? え? 目が飛び出したのに生きてるのか? このお方、化け物か?」

「うんそうよ。彼はそれ位では死なない。鍛え方が違うからな。で、何かあった?」
彼は女の子であるぞ!

「そして最後に君が描いた3人の棒人間でラストか……クッ……見つからなかった……不正は……無かった……!!」
一応白紙の部分も入念にチェックした後、訝しげな顔をしつつアリサに返す。

「うん」

「おい、お前1ネタでどんだけ喋ったんだよ!!」
白川が、自分が育ててしまった怪物に、後悔と畏怖の混ざった眼差しを送る。

「約200行よ。でも、急いで数えたから、もしかしたら数え間違えてるかも……そうだったらごめんね!」
しっかり読者に謝る礼儀正しきアリサ。

「即答すんなよ! ……え? ぎ、行って? どゆこと? それに急いで数えた? 数えたって何だ? 見える物なのか? その、行って物は? それにごめんって? 一体何を誰に謝ってんだよ!? おめえが今行った事の全てが分からねえんだが?」

「当然私も分からないわ」
誰も何も分からない。

「そうか。なんかまあいいや……なんか俺疲れちゃった……それにしてもよ! カンペが書いていないにしてもネタ中にスケッチブックを使うのはどうなんだ? ……あんなの反則じゃねえか?」
ネタに関しては何一つ文句が言えないせいか、スケッチブックと言う小道具を使った事に関して攻撃して来る白川。

「そ、そうですよ……あれはれっきとした小道具ですよ。みんな体一つで頑張ってるんです! それなのに!  あんな事されちゃ……僕達だけが不利じゃないですか!」
光よりも速く便乗する便乗厨鎌瀬。

「あースケッチブックに関しては今回限り許可します。上層部も、あれ程のネタは記録として残して置きたいとの事で、カットは出来ないとの判断です。
ですが、次からは使わないで下さいね」
司会がフォローを入れる。

「はいっ!」

「チッ、ルールに救われたなクソッ!」

「……しっかし、これだけ喋ったのに2万? 割に合わないわ! もっと頂戴♪」

「おいおい2万も貰えりゃ十分だろ? それにしてもこんな長いネタばかり出てきたら俺達の出る幕が無くなるだろ」
5番の金賀も文句を言いつつも、先程とは全く違った目でアリサを見る。

「アリサちゃん! 7がい様で短く感じたネタだったよ。だけどこれだけは分かったよ。
こん7子には逆立ちしても勝て7いや」

「こりゃもう笑うしかねえわwwとんでもねえ奴が紛れ込んでるぜ……汗が止まらねえ」
七瀬や火村もアリサのネタに驚く。

「すごいぞお嬢ちゃん。私は小さな外見で君を馬鹿にしていた所があった。
しかし、君は本物のお笑いを愛する者だった。申し訳ない。これからは、君を真の芸人として見る事にする」
神妙な面持ちで深々と頭を下げる司会。

「ちょ、神妙にならないでよ。それに小さいは余計よ。ここはお笑いの大会でしょ? スマイルスマイル! 修ちゃんが私を動かしてる。
絶対にテレビに出て握手するんだから!」

「松谷さんのファンなんだね? もうすぐそこまで来てるぜぇ! しかし、他の選手もまだチャンスはある。気持ちを切り替えてくぞぉぉ! 次のネタいける奴出てこーい」

「はい」
すると、今まで沈黙を保っていた白川がついに手を挙げる。

「お? 4番の君!! 確か初だよね? やっと挙げてくれた! さあどんなボケを見せてくれるんだぁ?」

「さっきの画像の○で囲まれている人の間にいる、マスクをした男と、6番の女の子を使います」
 そう言った後、彼は両眼を閉じ始める。意識を集中しているのだろう。

(あれ目を閉じた? で、何で私?)



「6番の子! リクエスト来てるぜえ? 斬新だねえ! 出演者を使うなんて……! いいぜ! そのフロンティアスプィリッツゥ」

「何か怖いわ……白川さん私を小道具にする気? 確かにスケッチブックを使った引け目もあるから断りずらいけど……」
と言いつつ、アリサは白川の隣に行く。

『お、お嬢ちゃん……僕のおうちで一緒にお菓子を食べないか?』








そして、画像担当のスタッフも空気を読み男の画像を徐々に拡大し、更なる恐怖を引き立てる。

「ひえっ!!」
ぺたん

「ひいいいいいっ!」
アリサはその恐ろしさに悲鳴を上げ尻餅を付く。それと同時に司会ものけぞり悲鳴を上げる。

「ちょっと怖いネタだったねえ。僕、ちょっとチビっちゃったよ。
ホラーは苦手なんだよねーそれに、先週あんな物見た後だしさー……おっといけない……これからは司会進行もおむつしてやらなきゃ駄目だね。
まあ今回も出たのはちょっとだし、そのまま進行するよー」

 またである……全く悪びれずに言う所が狂っているな……そして、完全に出し切ったと思ったのだが、まだ残尿があったのか……恐ろしい膀胱である……だが悔しいが今の言葉、私も理解できてしまう。男にはそんな時があるのだ。
終わったと思って、お外に出ようとチャックを上げたら、又出たくなるのだ。
それを何回か繰り返す事で本当にスッキリ出来るのだが……あれは一体どういう現象なのだろうな……
司会もそれと同じ事が起こった訳か……だが、今それも完全に出し切ったと言う事の様だ。
これでもう怖いネタが出ても漏らす事は無いであろう。安心であるな!

 それにしても一回分の尿を、完全に舞台上のみで出し切るとは大した男であるな。
しかし、年を取ると大変であるな。悲しくなってくる……だが、ちょっと位大丈夫と妥協せずにしっかり着替えてきてほしい物である。
大舞台の進行を、尿がちょっと付いたパンツをはいた司会に進行して欲しくないのは常識であるからな。

「怖いわよ! ちょっとリボンでも付けて緩和して」

「わかりました!!!」
アリサの急な提案にも迅速に対応する、優秀で元気な画像班。

「出来ました!!!!」
元気いっぱいだ。しかし!!



仕事は早い、瞬く間に手描きのリボンを描き上げる……が。
「ひいいいいいい」

「こわいいいいい」

「むりいいいいい」

「……ごめん……こんなもんじゃ駄目だったね……くっ!! 負けるかぁぁあああああ!!」

ぬぐっ!!!! ハァッッ!!!!!! ……ふう……危ない……おっと失礼。
そしてアリサも気を失いかけるが、何とか持ち味のガッツでそれを凌ぐ。
リボンも全く効果は無い。むき出しにされたマスク男の隠しきれぬ殺意は1ミリたりとも消し去れない。
それどころか、リボンは逆効果で、会場からも笑いというより沢山の悲鳴が。
まあ夏なので笑い以外にもホラー要素を盛り込んだブラックなネタも良いのかもしれない。
 
 この会場にあるポイント測定装置は、笑い声や歓声拍手喝采等だけでなく、悲鳴、怒号、等の大きさでもポイントは上昇してしまう様だ。
先程もそのせいで、笑いが余り起きていない幽霊ネタでもポイントは付いた。
今回も、悲鳴の大きさのお陰で9000ポイントとかなりの高ポイントになった。

「またちょっと漏れちゃったか? でもちょっとだしまあいいや♪次居るかい?」
ふむ、奴のおしっこ、既に出し切ったと思っていたのだが、まだ残っていたのか……奴の膀胱は無尽蔵なのか? 
フッまさかな。まあこの恐怖ならば仕方がない。恐らく奴の体内のまだ尿化していない体内を巡っている純粋な水分が、恐怖により強制的に股間から放出されてしまったのかもな。
もしこの仮説が正しければ、お漏らし癖のある人間に恐怖を与え続ければ、際限なく放出し、恐らくミイラになってしまうだろうな。
舞台上で体内の水分を全て失い、ミイラとして永遠に舞台上に設置されるのだ。胸が熱くなるな。
司会として舞台上で、ミイラではあるがその雄姿を残せるのは誇らしい事ではないか?
ぬ? 掃除の邪魔であるか? 確かにそうであるが……ロマンのない事をいう物だ……
実は、今回は私もほんの少し、危ない所であった。リボンとマスク男のミスマッチは恐ろしさを強調し、それと目の合った瞬間……

【コロス】

と言われた様な気持になり、股間がビックリした瞬間があった。
だが安心して欲しい、私は決して漏らしてはいない。あの司会とは違うんです。
安心して欲しい、大丈夫だ。ぬ? 念を押す所が怪しいだと? だが嫌ではないか? 物語を語っている男が漏らしたままで仕事を続けていれば! 故に必死に主張しただけである。勘違いしないで欲しい!

「はいっ」

3番の腕章の鎌瀬が手を挙げる。
「画面右下の眼鏡をかけた男」

「これかい? ではどうぞ!」



『うわっ! フラッシュあるなんて聞いてないから、うっかり目を瞑っちゃったよー』
ぱちぱち。拍手が起こる。

「ポインツを見てみよう。お、7200ポインツか。いいぞ! 次は誰だい?」

「はいっ」
何と、またも白川が手を挙げた。アリサの猛進撃で火が付いたのか?
相変わらず目を閉じている。問題は見えているのだろうか? ネタを考える瞬間だけちょっと目を開けているのか? それとも一度見ただけでカメラの様に全てを頭に入れ、脳内で考えているのか? そこまでは分からない。
だが、
「俺も画面右下のめがねをかけた男で!」

「オッケー」


『私のキッス顔です(///照///)ちょっと 恥ずかしいので10分したら消しますね(///照///)』
ドドドッ
「みんながいる中でのキッス顔紹介かぁ!! かなりの勇気だねええ! ポインツは?」

8700と表示される。

「8700か、高ポインツが続くねぇ。まだあるかい?」

「……」

「……」

「……もうないかぁ? よぅし、では次のお題はァこちらぁ!」
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