第46話 謀略の十問目……?

文字数 7,093文字



ほほう。これが蘇我子が提供した画像か。これは中々に激しい画像だな。だが、素人目に見ても、その迫力も勢いも凄いと感じる。これは司会も蘇我子と言う権威に負け、嫌々選んだ物ではないだろう。彼女も納得の上でのチョイスだと感じる。これは最後のお題として選ばれても間違いは無いのではないだろうか? 正にラストを飾るに相応しいお題だ。
さあ、2人はどんな答えを見せてくれるのだ?

「さあ! 今度こそ本当に最後のサイコロタイムです。はい! 4ですね。では、アリサさんから先攻です」

「うーんうーん……ハッ! そうか……そうだったのね? 思い付いてしまった。それも簡単に……ハハハ……始めの頃はあれ程生み出すのに苦悶していた筈なのに……笑いって……こんなにも簡単に作れるのね? 皆の笑い転げる顔がありありと思い描けるわw私も芸人としての熟練度が上ったのかしら? いいえ? これはただの予定調和……私は、芸人になっていなかったとしても、これを、この最適解に辿り着いていたでしょうね。私はこのネタに巡り合う為だけに生まれて来たんだもん……紆余曲折あったけど、巡り合えた……この事実に感謝よ……! おい!! 橋田蘇我子!!!」
突然蘇我子を呼びかける。

「ふぁい?」

訳「はい?」
「お前は太っていて、年老いているしわくちゃ女だけど、センス【だけ】はある様ね? 人生の最期にいい仕事をしたわ」
おいおい……

「ぬぁぬぃいい?」

訳「なにい?」
これでもアリサは蘇我子を本心から褒めているつもりだ。だが、悪口交じりで高圧的。こんな褒め方では誰だって腹を立てる。だがこれだけではなく更に続ける。

「お前の出したお題は、歴史の教科書に今から私が紡ぎ出すネタと共に刻まれるだろう! お前が託したこのお題、最高峰まで高めて見せるわ! いける!! これしかない!! ボケ人間コンテストに新たな伝説が生まれる……! そしてぇ? 白川さん! 俺がこのお題を手にした瞬間の事をRPGあるあるで上手に例えてやろう」

「どういう事だ? 言ってみろ」

「そうだな? そう、攻撃アップ防御アップ全てを掛け、準備万端でいざ攻撃しようとした瞬間に、凍てつく波動砲が来て、全てのバフが解除されてめっちゃ悔しーと言う状況だ! フフフ……どうだ? 恐ろしいだろう? 恐れおののけぇ!!!! それにしてもよぉ? お前は、素人ながらここまでよく頑張ったものだぜ。初心者とは思えない程に強かった……な」

「あのう……ぼく一応プロです……それにその例えじゃちょっと駄目じゃないっすかねえ?」
アリサのあり得ない勢いに小声の敬語で反論する白川。

「お前はな? この私が唯一認めた男だ。誇りに思え。お前は本当に強かったよ? だが、それは、間違った、強さ、だった。
間違いは……正さねば……ならぬなッッ? そうだ! 正す以外ありえないぃぃぃぃぃwwwwこれで、このネタで、白川ァ? お前は、終わりよぉぉぉぉおお!!!!!! さあ……伝説を、その目で、刮! 目! せよ!! 喰らえええええええ!」
アリサの目の輝きが今までと全く違う。しかも、息継ぎもせずに言い切りおったぞ……どんだけ肺が強いのだ……これは、期待大だ。

「クッ、なにぃいい? この俺を……呼び捨てだとおおおおお? 今までずっとさん付けしてくれてただけにぃ!? なんかすっごく寂しいいいいいいいいいい!!!!」
白川よ……突っ込む所はそこで良いのか?

「おお凄い自信です! どうぞ!」
アリサは静かに閉眼する。そして……!

『少年時代のおおおおおぉぉぉ……』
クワッ <◎><◎> 

『司会ッッ!!!』
パチパチ
な、何とした事か……やや受けている様だが……アリサ……

「ちょ? 私はそんなに勢いよくないですよ? 小さい頃も! それに少年って……私、どこから見ても女の子ですよ? 小さい頃もガリガリ少女でこんなに太った事人生で一度もありませんし……」

「クッソwwそう来たかww……( ゚д゚)ハッ!笑ってない笑ってない」
ブンブンブン
慌てて我に返って首を振るが、白川にはかなり受けている。だが…………肝心の……客達は、今一の反応。

「フッwゆぉすぅおぅどぅるぃぬぇwガクぃぐぅぁw」
ぬ? これは蘇我子? その喋り方は間違いないか……蘇我子がほくそ笑んでいるというのか?

訳「フッw予想通りねwガキがw」
まさかこれは!? いや、そんなまさか……

「あるぅええ?? (もう少し盛り上がっても良くない?)違うの、前の司会の話!」
アリサよ、やってしまったな……確かにそれは舞台上であの大惨事を見た関係者一同は全員面白いと感じると思う。
だが、肝心の客には全く通じていないのだ。アリサなら少し考えれば分かる筈だぞ? それは、お漏らしをした司会を直接見た者でなければ笑いにならないのだ。
このネタは、アリサ以外の7人の選手と、舞台上に居たスタッフ達の集まる飲み会の席で披露すればまさしく大爆笑であろう。
確かに今それを言ったら死人の悪口になってしまうがな。それを知っている人なら最悪ブーイングの嵐になる可能性も。
だがそれでもその事を一切忘れ、堪えられる人は少ない筈。
そう、これはいわゆる【身内ネタ】だ。私は、お笑い論を語った時、悪口や自虐ネタ、下ネタはやるべきではないという事を話した。
これは、鎌瀬がこういうお笑いもある。と、アリサに熱弁していた事に対して反論した訳だが、もう一つやってはいけないネタがあったのだ。
それが、前述した【身内ネタ】だ……自分と、数人の人にしか伝わらない笑い。
同じ経験を共有した者には効果が絶大だ。だが、今は大舞台で、その事情を知らない観客達の前で、そのネタだけは披露してはいけなかったのだ。
悪口や下ネタを許容している鎌瀬ですら、身内ネタの事は一切言っていなかった。
そう、悪口や下ネタを言う芸人を例を挙げて数人紹介していたのに、そんな彼でも身内ネタを言っている芸人を一例すらも挙げなかった。まあ身内ネタでブレイクする芸人は少ないと思うから、鎌瀬が例に上げようにも彼の頭の中に一人も存在しなかっただけかもしれぬが……要するに、お笑いを少しでも知っている人間なら、身内ネタは言うべきでないという事は、駆け出し芸人の鎌瀬ですら知っていたという事。
芸人の中では言うまでもない常識なのだ。
ごく一部の人間にしか通じない狭い範囲だが、知っている人からすれば堪える事は出来ない程の強烈なネタだ。アリサはそれを一番大事なこの決勝の最後の問題のネタとして放ってしまったのだ。当然アリサは芸人に転職した事はしたが、まだ数時間程度。その浅い経験でそこまでの知識は得られない。あのお漏らしをみんなが知っていると思ってしまっていたのだ。

そして、身内ネタはこういう場面では最悪である。

「は? 誰の事言うとるんや?」

と客を不快にしてしまいかねない。ここは、万人に受けるネタを放たなければならなかった。
だが、アリサはどうしてもそれを抑える事が出来なかった。
 
 それもその筈。司会のお漏らしという強烈な面白事件は、アリサの中では今日のトップニュースである。
あの、面白い☆☆☆三連星ネタで20000ポインツを獲得し、拍手喝采を浴びた記憶よりも鮮明に、お漏らし男の悲しげな表情が浮かんでくるのだ。
そんなアリサの中での大事件は、いつかどこかでどんな形であれ、誰かに言いたくて言いたくてウズウズしていたのだ。
そのタイミングで、こんなお漏らしを容易に想起出来る様な直接的なお題が出てしまったのだ……それこそ彼女の運の尽きだ。
前話の最終話に出ていた、アリサのステータスを思い出してほしい。
そう、運の値が1だったのだ。こういう一番大切な所で運に見放されてしまう……哀れなアリサ……そう言えば七瀬が、ブラックダイアには幸運を下げる効果があると言う話をしていたな。
もしかして現在それを所持している為に運が1なのかも知れない。だが、それを知っていても彼女は手放さないだろうな……女の子は宝石が大好きだからな……そして、これは私の想像であるが、恐らくこのネタの提供者の蘇我子は、お礼としてあのネタを提供したのではないと思うのだ。
どういう事なの? と仰る方も居ると思うので、その根拠を語ろう。

 彼女はVIP席で、司会がお漏らしをした様子を、何かしらの道具を使用して、はっきりと見ていたのかもしれない。
そして、そこから司会のお漏らしを目の当たりにしたアリサなら、あのお題を見れば、観客には通用しないお漏らしネタを言うのではないか? と、準決勝の時のアリサの下ネタ発言を受け、彼女のネタの傾向を推測した。
なんと蘇我子は、幾つかのアリサの答えを見ただけで、ネタの傾向を完全に把握し、彼女を陥れる為にあのお題を提供したのかもしれない。
そう、蘇我子は、休み時間に控室にTシャツをプレゼントしに来た時、アリサが自分の事をしわくちゃと馬鹿にして来た事をずっと根に持っていたのだ。
更に、偶然引き分けになり、司会の提案で観客の中からネタ提供を求めた瞬間に閃いてしまったのだ……超一流の脚本家の頭脳が……! 本来沢山の人を楽しませる為に、ドラマの脚本を手掛けている彼女が、礼節の知らないたった一人の幼女を陥れる為【だけ】にその才能をフルに使い、生み出された邪悪なシナリオ、謀略が、な……! そのシナリオとは、あの画像を見つけ出し、そこからアリサにお漏らし関係のネタを言わせ陥れるという事だ。一見喋り方はおっとりとしている蘇我子だが、頭の中は別。アリサよりも高速で物語を描き出す才能がある。そんな才能をアリサを陥れるその為だけに使用し、彼女が思考停止する様なお題を探し出す!! そう、提出までに少し間があったのは、携帯でアリサを陥れるに相応しい画像をリアルタイムで検索していたのだ。どういう画像ならお漏らしネタを言うだろうな? と、考えながらな。まあ他のお客さんが手を挙げなかったと言う偶然もあるが、それもアリサの運が低い事が原因かもしれない。それも合いまり、その短い間にアリサが見た瞬間、司会のお漏らしに関係するネタを言いそうな画像を見事検索し、撮影。
そして、司会に渡したのだ。恐らく孫の写真と言うのも大嘘だ。いかにも大喜利のネタに使われそうな面白画像であるのは誰の目からも明白であるしな。
そして、その画像を見た瞬間、アリサも理屈では分かっていようが、蘇我子に導かれるかの如くお漏らし系のネタを放つ。最早、その画像の中の少年は司会の少年時代の姿にしか見えなくなっていたのだ。そうなってしまえば、誰も止める事は出来ないだろう。
ついさっき白川に

「良く考えてからネタを言え!」

と言うアドバイスも聞いた瞬間は納得していたのに、忘れてしまい……だ!
面白いと思ったお題を見ると、それだけに意識が向いてしまい、集中力に反比例し、記憶力は著しく低下する。
思い出してほしい。アリサは竜牙の顎が外れ逆回転してくっ付き直した状況を

【逆歯刀】

と言う名前を考え出し、それを肩書にしては? と言っていた時があったが、竜牙の心の傷などお構いなしで、ただその響きがかっこいいと言う事実のみを考え、

「これこそがあなたのアイデンティティだよ!」 

と、おだて、名乗る時に使うべきだと提案。運よく竜牙も乗り気ではあったが、普通の人だったらその事を名乗る度に突然下顎の骨が勝手に顔から飛び出すと言う忌々しい想い出を甦らしてしまう事も考えると名乗りたくないのでは? と、考え自重する筈だ。だがアリサが子供過ぎる故、その人の気持ち等は全く考えられずに、自分の考えがいいのだから実行すべきと押し通してしまった。そう言った子供っぽさは、いくら勉強をしたところで子供である以上、抜ける事は無い。

確かにアリサのお笑いのレベルは、エントリーしたあの時から比べれば飛躍的に成長した。
だが、所詮彼女も小5の子供という事だ。それが敗因だった。気が早い気もするが、見なくても分かる。
最早白川がどんなネタで来ようが、確実にアリサは負ける筈。
結局子供はう〇こやおしっこが大大大大大好きだからな。仕方のない敗北。
先程も運営の思惑通りき〇たま等と言うエゲツネエ下ネタを何回も言ってしまったしな……まあ、もしも小5の若さでこの話を読んで下さっている将来有望な方が居て

「そんな事ないよ」

と仰るのであれば誠心誠意謝るが、恐らくそんな事は無い筈だ。
私もそういう時期があったから分かるのだ。この真面目が服を着て歩いている様な聖人ですらだ! 時代は変われど、いくら科学技術が進歩しようが、人間の本質的な部分は変わらない。
子供のう〇こ大好き現象は、原始時代から変わらないのだ。いや、人間がこの世に誕生した直後から変わらない。そう、自分のおしりから出た、茶色くて悪臭の放つ面白い物体。いじらずにはいられない筈なのだ。例え時と共に……頭脳や身体能力など進歩する部分もあるが、不変的な部分もあってこそ

【人間らしさ】

なのだ。
それにしても司会が画像提供を求めてからたった5分の間に、ここまで練られた計画を編み出し、成功か……恐ろしい老婆だ! 

「全く……変な言いがかりは困りますね。まあネタですから仕方ないですけど……出来れば私のイメージを下げるようなネタは止めて下さいね?」 
この女は、3回戦目の6問目のあの問題中に、口論しているアリサ達に対しマイクを使用しつつ、【き○たま談義はその辺にして下さい】と言っていた事をすっかり忘れているな。その時点で、イメージが下がり切っている事を未だに気付いていない。

「悪いな。お前のミス、有効に使わせてもらう。不本意だがな……勝ちは……頂いた!」

「うう……」

「……だが、ここでお前がこんな凡ミスするとは驚いた。こんなミスをせず、ガチのネタのぶつかり合いで勝ちたかったってのもあるがな……まあ、これが未知のお題でやり合う勝負の面白さって奴だ。筋書きの無いドラマ、肌で実感しただろォォォォ?」
白川も気付いているな。アリサの放ったネタが、身内ネタだという事をな。そしてそれは、白川には通用したが、現在笑わせなくてはいけない人は、白川ではなく客だという事もな。

「そうよね……最後の最後に……ミスっちゃった……ね。20行以上にも及ぶ長さの啖呵を切った挙句に思いっきり滑っちゃった……恥ずかしい(///照///)……でも、冷静になればあんなネタ言わなかったと思うんだけど……なんでだろうなぁ? あーあ。私らしくなかったなあ( ;∀;)」
諦めの表情のアリサ。もう彼女自身も察している様だ。そして、この敗北は蘇我子の謀略も一枚噛んでいる事には一切気付いていない様子だ。全てが自分のミスだと認めている。
それとも? 気付いてはいるが、この期に及んで人のせいにする気力も、そしてその後、それに気づかなかったお前が悪いと言われる事も見越して言わないだけなのだろうか? そこまでは分からない。

「フッ……全てが終わる前にそこに気付く事が出来りゃあまだ未来はあるぜw」
白川は、今までに見た事無い様な優しき微笑みをアリサに向ける。これは、勝者の余裕なのだろうか? それとも? 

「白川さん!! どうぞ!!!」

『うわああ( ;∀;)破動拳の練習をさぼっていて2カ月ぶり放ってみたら、手から出る筈なのに、股間から出ちゃったああああ!♡!』
ドドッ
「めっちゃ説明口調です!! とっても分かり易くて素晴らしい!! しかし、嫌な破動拳ですね。これじゃ汚いからガード出来ないですね。ジャンプで回避するか、自分のヨガファイガーで相殺するしかないですね。
あっ、名前も拳では変ですね。さしずめ【破動☆珍☆】と言ったところでしょう」
臆面もなくさらっと下ネタを挟む淫乱司会。

「白川さん? 最後の最後にこんなネタで来るの? 最低! あんた最低だよぉ! 舐めプ乙(#^ω^)この程度のクズネタでもこの私に勝てると? 舐められたもんね……ふざけるなあああ。くそ、くそ、くそおおおおお……私が本気を出せば……」

「お前が本気で来てたら俺も本気で考えていたさ。こんなネタじゃ勝てねえからな。まあ、あのネタの後じゃこうもなるわwこんなのちょちょいと考えた低レベルなネタだからなwでもそうは言うけどよお、こっちも悔しいんだぜ? そこんところ分かってるのか?」

「何がよ!」
 
「最後の最後に拍子抜けしちまった……最後だってお前とガチリたかったんだからよぉ!? 最高のネタと最強のネタがぶつかり合い、拮抗したその末に俺がギリギリで勝つ。それが俺の中での最高の終わり方だ。お前だってそうは思わないか? それがオジャンになっちまったんだ。あーあ……死ぬほど残念だぜ……確かお前と戦う前、本気でやるって言った気もするが、気が抜けちまったんよ。でも、嘘つき呼ばわりはしないでくれよな? 当然お前も分かってるだろ? これでも、こんな程度のカスネタでも、お前の負けは確定的に揺るがんのよ。もう、全てが遅いんよw」

「知ってるよ。私でもそうしてたと思うし。残りHP1の敵に対し、最強技を使う必要なんてないもんね……でも、こんな事言っても無駄だと分かっていても悔しくて、心が抑えられなかったの」

「だなw」

「うーん、アリサさんには私をいじって頂いて少し嬉しかったんですけど、これはどう考えても白川さんでしょう。
4番の白川さんの勝利です! 今回の問題はボーナスが付きます! そのボーナスは9京ポインツでしたね! なので白川さん。合計で9京4ポインツを獲得しました!」

「やった!」

「ぴ、ぴぎゃー!!」
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