第3話 ボケ人間コンテスト エントリー開始

文字数 6,695文字

アリサは、会場内の入り口から5メートルくらい進んだ所にある受付に足を運ぶ。
「すいませーん」

「はい。エントリーですか? あなたかなり小さいですけど大丈夫?」

「小さいは余計。その前に質問があるの」

「何ですか?」

「これって予選だけで本戦は後日でしょ? それと、参加するのに年齢制限ってあるの? 費用は掛かる?」

「予選の次に本戦がございます。予選、本戦共々その様子はテレビで放映されます」

「へえ、録画されてるのね。緊張するなあ」

「それともう一つの質問の答えをお答えする前に、あなたはお幾つでしょうか?」

「11歳よ! 見ればわかるじゃない! 何で分からないのかしらねー」

「え???? 嘘でしょ? 4歳だとばかり……なら平気、へっちゃらです」

「そう? じゃあ行ってみるかなあ……生の修ちゃんに会いたいし」

「それと最後の質問の答えですが、エントリー代は税込みで1240円ですね。持っていますか?」

「……えっあるけど……」

「いかがいたしましょうか?」
奇跡的にちょうど持っていた。前回色々あって受け取ったお金である。これを支払えば全財産失う事になるが……

「竜牙さんとの思い出が……でも行くわ。でも大丈夫竜牙さん! 私絶対に勝つから! 約800倍の100万にして帰ってくる!!」
アリサの決意は硬い様だ。 かなりの分の悪い賭けだと思うが、元手は貰い物のお金であるしな。

「はい、ではお名前と住所、電話番号を書いて下さい」

「住所とかも書くんだ」

「ええと賞品のお米1年分は、郵送で送る事になっていまして」

「ああそういう事か、納得。えっと今日は何日だっけ?」

「本日は24日ですね」

「ありがと……終わったよ」

「確かに、では頑張って下さい!」

「はいっ!!」
結局アリサは3002番のナンバープレートを受け取り戻ってくる。

「あら? アリサ参加するの? じゃあママは客席で応援しているわね。頑張って!!」

「うん……3002番だって! 結構沢山参加するみたいね。不安になって来たかも……」

「大丈夫大丈夫! 気楽にいこう」

「……うん」

「エントリーは、10時までですので、参加希望の方は、お急ぎ下さーい。
現在3002名となっておりまーす! 参加者上限は3007名までなのでお急ぎ下さい!!」
拡声器を持った男が周りに呼びかけている。

その時

バツン



強烈な破裂音が響き、会場内が停電になる。

「わー! 予備電源まだですか?」
受付から2、3メートル先には入り口があり、そこから明りが差し込んでいる筈なのに、大げさに慌てふためく受付。

そして、30秒位待ったであろうか? 予備電源に切り替わり、明りが点く。

「あっ戻った 怖いねー」

「うん」
場内で電気を使い過ぎたのだろうか? アリサもケイトも不安そうな表情になる。
ドーム中には大きなスピーカーやスクリーンもあり、かなりの電力を使いそうだ。

「ビックリしたー」
癖なのか? 拡声器で私語まで話してしまう受付の人。かなり動揺している様だ。

「何で急に停電が起こるのよ! まあ今日は特別に暑いし冷房でも使い過ぎたのかしら?」

「そうかもしれませんね。昨日も2回位起きたんですよ。怖かったですう」

「昨日も? しかも2回も? 壊れてるのかもね。修理業者を呼んだの?」

「確か今朝のミーティングで、昨日呼んだとの事ですが、一週間は掛かるそうです」

「長いわよ! 別の業者にしたら?」

「そんな事言ったってしょうがないじょのいこ」
ぬ? これは?

「あら?」

「どうしました?」

「そのフレーズ……そうだわ! もしかして渡鬼のやつじゃない?」

「流石に気づかれちゃいますか?」

「人気ドラマだもん。始めの方はあまり面白くなかったけど、鬼嫁が嫁いできてから急に面白くなったわ」

「僕毎回応募してましたもん。ずっと見続けたせいもあり台詞が体に染みついちゃいましてw自然に出てしまいましたw」

「え? 何だっけ?」

「あーそれは、ドラマのどこかに鬼(キ)ーワードが出て来るんですよ。
いつ出るかは不定期だから、オープニングからエンディングまで全部見ないといけないですけど、それを見つけたらはがきに書いて送れば、鬼嫁Tシャツが貰えるんですよ。隠しどころが絶妙で、酷い時なんか、一瞬映る店ののれんの一番右の模様に鬼ーワードが書いてあったりして、探すのが絵本のオードリーを探せ! 以上に大変なんです。
その上先着順で当選するから、なるべく早くハガキを書いて送るんですよ! ドラマを見ながら探して、運よく見つけたらはがきに書く。
もの凄く忙しかったですねwで、全6種類のTシャツ全てコンプリートしたんですよ!」

「そうだった。そんなのあったわね忘れてたwで、今の和喜(かずき)絵梨奈(えりな)ちゃんの台詞でしょ?」

「すごいすごい正解ですw」
今までの会話を説明しよう。【渡る世間は鬼嫁ばかりじょのいこ】略して渡鬼というドラマがあり、その主人公の鬼嫁役が、かずきえりなという女優なのだ。後楽と言うラーメン屋でのいろいろな出来事を描いたドラマだ。
彼女の口癖が【そんな事言ったってしょうがないじょのいこ】であり旦那をいつも困らせている。

「僕かずきえりなちゃんの大ファンでして」

「あの人そんなに可愛いかしら?」

「何言ってるんですか! あの可愛らしいたれ目にキュートな坊主頭。はぁ……好き」

「女の子でお嫁さんなのに坊主頭ってのは斬新よねー」

「そうそうそれがいいんですよ」

「でも旦那の狩江絆(かりえ きずな)君もかずきえりなそっくりよね。
たれ目で坊主頭。その上目のたれ具合も髪の毛の長さも身長までも一致してるもの。
似た者夫婦ってレベルじゃないわよ? まるで双子よ。いいえ! コピーペーストよ! 全く同じ!
衣装もペアルックで毎回同じでさ、双子タレントの三倉魔奈禍奈よりも似ているわ。あなたはそれでも見分け着くの?」

「当然ですよ。旦那の方は余り好きじゃありません。顔がタイプでない!」

「え? どゆこと? 全く同じ顔なのに、かずきえりなは可愛くて、旦那のかりえきずなはタイプではないと」

「全くではないんです。0・2ミリ程目のたれ具合が短いです。別物です」

「不思議な人ね……それにしても夫婦なのに、名字が違うわよね? あの夫婦」

「そうですね。脚本家の橋田蘇我子さんが手がけた、日本で初めて夫婦別姓を取り入れたドラマですからね。
互いに自分の名字は譲れない。でも愛し合っている。そんなジレンマが見どころの一つですね」

「名字って自分の体の一部みたいな物だもんね。それが結婚で片方消えてしまうってなんか悲しいよね……」

「そうなんですよね」

「私は鏑木って珍しい名字で11年付き合ってるけど、まだしっくりこないんだ。見た目がジョセフィチーナとかアルスセリアとかの名字が似合いそうな女の子でしょ? 私って。だから私は結婚した時に旦那さんの名字になってもいいかもね」

「へえ、そんな未来の事まで考えてるんですか……小さいけど凄いです。
そう言えば蘇我子さんこの大会の常連なんですよ。毎回VIP席で芸人達のバトルを鑑賞していますね。
あ、見て下さいよ! これサイン付きの写真集です」
橋田蘇我子は90を超えている。そんな老婆のなまめかしい肢体がふんだんに撮影されたヌード写真集だ。

「へえー90代の魅力があふれんばかりにって……あら渋柿が2つ並んで……って気持ち悪いわ! 傷害罪で訴えるわよ! おっとかなり長話しちゃった。
私ママの所に行くね。後小さいは余計よー? あんた2回も言ったわよね? 目玉をへし折るわよ?」
そう言いつつ外にいるママの元へ戻る。

「あ、ノリ突っ込み上手ですね! 何となくですがいけそうな気がしますよ! 頑張って下さいね。
あ、後私は、目玉は体の中で一番鍛えている個所ですので、絶対に折る事は出来ませんよw」

アリサは、松谷修造とのテレビ出演という甘い響きに釣られ、とんでもない事をしたのでは? と思ったが、もう深く考えない事にした。
あれこれ考えすぎても本番では真っ白になってしまうだろうし、舞台までは上がる事は無いだろうとの考えだろう。

そして、10時になり、受付が締め切られる。
観戦客は、入り口に入ってすぐの所に左右に分かれる形でドームの外周に沿って応援席があり、そこに着席する。
そして選手も入口から会場に入り、観客の見守る中、会場の観客席に囲まれた競技場内に入る。
係員が忙しなく整列をしている。

「うわー 眩しいわ。天井のライトもの凄い光ね。それにしても周り大人ばっかりじゃない。
子供らしいのは……私だけ? なんか恥ずかしいじゃない! 他に仲間居ないのかなあ?」」
天井までの高さは60メートル程で、天井にはいくつものLEDが設置されている。そして、客席の下は空洞では無くいくつかの選手達の休める様な控室が存在する。
競技場の中央上部には、3mほどの高さの舞台と、その脇には何かの大型の機械が2基設置されており、舞台の奥には超巨大スクリーンがある。
2基の機械はスクリーンに接続されている様だ。




上面図はこんな感じであり、競技場内に大きく○と×が書かれている。一体なんだろう?
アリサ達は予選会場となる競技場内に通される。彼女は一番左の列の一番後ろに並んでいる。
恐らく、アリサが最後の参加者という事らしい。ドームの中は冷房が効いていて外とは別世界である。

「おおーかなりエアコン効いてるわね。涼しいー……てかちょっと寒いかも……もう2℃位上げて欲しいなー」

ドーム会場内は、外の気温が高かったせいもあり、元々体温が高くないアリサにとって寒いと感じる温度。
だが、次第に慣れてくる。

「ではこれより予選を行います。現在3000人位ですが、お笑いについての○×クイズを出します。1回戦で16人。2回戦で8名までに絞ります」
舞台の上に立つ司会進行の男が、説明を始める。

「えー? お笑いの知識はあまりないのよね。せいぜい仲良し本興行の2020年までの芸人のコンビ名とネタ位しか暗記してないよー……これじゃ修ちゃんに会えないじゃーん」

それだけあれば十分凄い事だと思うが……まあ、色々な事務所があるからな。仲良し本工業以外の芸人が出たらアウトという事か?
他事務所にレインミュージック、深井企画や竹梅芸能に細田プロダクションなど数えたら切りがない。

(がんばれ!)ブゥン……何かが現れた。

「え?」

(頑張れ頑張れ出来る出来る絶対に出来る頑張れもっとやれるって! やれる、気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだそこだ諦めるな積極的にポジティブに頑張る頑張る。パキンだって頑張ってるんだから!)
すうーーーーっ。何かは消えていった……

「やってやろう」
アリサにかつてない自信が漲る。

「では、ルールを説明します。これからお笑いに関係する○×クイズを出題します。
分かったら会場の床に大きく○と書いてある所が○のゾーンで、その反対側が×のゾーンになっています。
正しいと思った方に走っていって下さい。
そして、時間まで正解の場所に留まる事が出来れば正解です! 制限時間は3分とします。
もしも、制限時間ギリギリで転んでしまって反対側に居たら当然不正解です。
そして、16名以下になってしまったら敗者復活戦を行います。
後、ギリギリで押して、別の方に移動させてしまえば相手を陥れる事も可能です。
しかーし
その際、あまり強く押しすぎて大怪我をさせてしまったら正解の方に居ても押した側の選手は失格です。
お笑いに流血はNGですからね。そして余りにも答えが偏ってしまった場合は、ここに居る屈強な500人の勇者が均等に分かれる様に不正解の所まで運搬して来たりもしますので、狙われてしまった場合は、回答締め切り時間までその足で逃げ回って下さい!」
そう言って、司会者が舞台上を指差す。
ウイーン
舞台の仕掛けだろうか? 舞台中央の床の蓋の様な物が開き、沢山の男達が機械の力で少しずつ上に上がってくる。
そう、500人全員が筋肉を見せつける為に、わざとサイズの小さいTシャツを着ており腕組みをして、白い歯を輝かせて笑っている 。

「フフフフフ」

「ククククク」

「いい声で鳴いてくれよぉ? ヒャッハアーww」
一人ヤベーのがいる様な気もするが……こいつにだけは捕まったら終わりかもな。が、気にしないでおこう。

しかし、ルール上とは言え人を押してもいいらしいが、法律的には傷害罪に当たるのではないだろうか?
下手すると頭を打って脳に障害が残ってしまうかも……いや、最早この空間は、既に日本から隔離された

【一つの国】

そう、お笑いの国なのではなかろうか? 故に法律などあってない様な物。
司会者が法で、規約。それに従う他ないという事なのかもしれない。
500人もの筋肉達が、大暴れしようものなら、その地響きで地震が起きる可能性もあるし、その揺れで下手したら死者も出る危険性もある。
だが、ここで起こった死は、この国の法律により揉み消されてしまうのかもしれない……
もしそうだとすれば……とんでもない所に入ってしまったのでは?

だが、アリサもその事には一切気付いていない。よもやこの回でお話は終了してしまうのだろうか? 私の考え過ぎかもしれぬが……

「えー、それじゃもう男達の動き見てれば正解が分かるんじゃないかしら? 運んでいる方向の反対側が正解って事でしょ? しかし、体力も使うのかー。それじゃなるべく目を付けられない様にしなくっちゃいけないのかー」
暫く考える。

「あっ! 待ってよ?……ルール上では……うん! 大丈夫だよね?」
アリサは辺りを見回し何かを考え……そして閃く。

「あっ、あいつにしようっと」

アリサは、選手の中に一際目立つ大男。身長2メートルはあるであろう。
500人の筋肉男よりも遥かに大きい屈強な肉体を持っている。
顔中に傷があり、側頭部の両耳の上、2センチ位の所には、直径2センチ位の長いボルトが突き刺さっていて、まるでフフソケソシュタイソのような風貌。あまり頭は良くなさそうだ。
本当にお笑いを目指している人なのだろうか? 素人でも参加出来るから、どんな人が来てもおかしくはないがどう考えても浮いている。

「ねえあなた。私と組まない?」
大男はアリサを見る。

「フンガー?」

男はアリサに気付き返事をする。フンガーと言っているが、その声は異様に大きい。

「あなたもしかして○×クイズ苦手でしょう?」

「フンガーフンガー」
コクリ

何だと? 頷いている……? ○×クイズが苦手……とはどういう事であろう? 二者択一なのだが……この男は苦手と言っている。
世界は広いな。ならばこの男の反対を選択すれば正解という事になるのだが……

「わたし、お笑いにはちょっとうるさいのよ。私を肩車して協力してくれれば正解の方を教えてあげるけど?
あんたのパワーと私の頭脳で一緒に突破しましょう? どうする?」

そう、ルール上誰かと組んで行動してはいけないと言う事は司会者からは言われていない。
なので、屈強な男の上に乗って移動すれば男に捕われずに済むのではないかとアリサは考えたのだ。アリサは小さい。
だから最優先で狙われることは必至。ここに来た当初は、そこまで貪欲でもなく、あまり乗り気でなかった筈なのに、作戦まで立てて勝ちに行く姿勢に切り替わった。これも先程の脳内から響いた松谷ボイスの影響かも知れぬ。

しかしアリサよ、ホテルの時から見てきたが、色々な人を乗り物扱いするなあ。
植物園のお姉さんに警備員の真理、そしてロウ・ガイにもお姫様抱っこをされていたし、刑事の竜牙までも肩車してもらっていたな。
体が小さいが故に、誰でも気軽に乗せてもいいと思える幼女。
初めて小さい事が役に立った様であるな! もし80キロオーバーのデブ幼女では快諾してくれる人は少ないだろう。

すると男は、アリサを持ち上げ肩車する。彼の耳の上から飛び出たボルトが、丁度アリサが座った位置の手の前に、そう、バイクのハンドルの様に持てる様な形状で

「アリサ様! 振り落とされない様にしっかりこれを握って下さい!」

と言わんばかりに飛び出ている。これさえ握れば、たとえ男が激しく動いても振り下ろされることは無い。
……本当に良い乗り物を手に入れたなアリサよ!

「よーし問題め、いつでもこーい! あっ、私はアリサよ。よろしくね。あなたに勝利を導く者……よ!!」
ぬ! かなりかっこいい言い回しだな! アリサよ!! ならば私も!……私は語り部。おぬしらに最高の語りをする者……だ!!

「フガッ!!!」

男も、アリサのかっこ良さに感激している様だ。すると、アリサの言葉に反応するかの如く、スクリーンに一問目が映し出される。
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