第44話

文字数 584文字

どうしたら良いか、わからなかった。
初めて僕との子供を産んでくれる女性。
初めて娘の相手として迎えてくれるご両親。
初めて、二階建ての家。
あきの両親は日光への旅行のついでに立ち寄ってくれて、僕の母親とも一度顔を合わせてるし、アパートにも来て僕らの暮らしぶりも見ていた。
劣等感。
いや、そんな事は言ってられない。
実際僕の借金は減ってないし、あきが働けなくなってからどうなる事か。
世話になりながら、役にも立てるかもしれない。
何よりあきは初めての出産。
そこまでの無事と、産後の安心が第一だ。
こっちに居たら心細いだろう。
不安になってる場合じゃないんだ。
また都会へ。
バンドだって出来るだろう。

新婚旅行の大室山。
リフトで上がる、カルデラ。
富士山に東京、360度のパノラマのそのずっと向こうに、僕の故郷は霞んでいた。
強風、記念写真の歪んだ顔、車の故障。
その先を暗示するみたいな不吉さも、晴れて一望出来た景色、宿の美味しい晩飯に貸し切り露天からの冬の花火、良いお湯の朝風呂。
楽しいん事ばかり考えた。
けど、僕らが行った天城いのしし村は、数年後には潰れてしまった。
知らない世界。
壊れてない家族。
僕はそこで、うまく振る舞えるのだろうか?
僕は彼らの中に「本当じゃない何か」がとても重要になってる雰囲気を感じていて、それが何なのかわからなかった。
それでもあき。
あきと僕からは僕らの家族。
そう思っていた。
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