第4話 再会

文字数 1,138文字

 須藤先生から帰りの会でお話があった。須藤先生は神妙な顔で話し始めた。
「明日から転校生が来ます」
 教室がざわついた。そわそわしたざわめきだ。
 みんな近くの子とおしゃべりを始めている。転入生が来るということは小学生にはちょっとした華やかなニュースになる。繰り返される毎日の中に新しい風が吹くような気がするのだ。
どんな子だろうと、つばきも考えた。
ーー優しい子かな? 勉強が得意な子かな?
 須藤先生はしばらくみんなのざわつく様子を見ていた。つばきは顔を須藤先生に向けて須藤先生を見た。先生が自分を見ていた。先生の顔はつばきたちの華やいだ空気と裏腹に、悲しそうな顔をしていた。
「つばきさん」
 さようならのあいさつの後、つばきがかばんに帰りの支度を済ませ、教室から出ようとした時、先生がつばきを呼び止めた。
「後でお母さんと学校に来てもらえないかな?」
 須藤先生の表情は固い。
「夕方お母さんに電話するから」
ーー私何かした??
 今日一日を振り返ってみたが、先生に何か言われるようなことはしていなかったはずだ。

 家に帰るとお母さんがキッチンで夕ご飯の準備をしていた。
 おばあちゃんは最近とても忙しそうで、仕事から帰ってくるのが遅い。
 難しい話はわからないが、面倒な相談の担当になったらしい。生活支援というお仕事は大抵面倒なことだろうけれど、特に今回はなかなかの相手らしく、おばあちゃんもかなりまいっているみたいだ。

「明日転校生が来るんだって」
 つばきは明るく話した。つばきにしても転入生が来ることはなんだかそわそわする出来事だったからだ。
「そうなんだ」
  お母さんは忙しそうにそう答えただけで、冷蔵庫とレンジの間をいったりきたりしている。つばきはテーブルの椅子に腰かけて、動き回っているお母さんを見ていた。
 須藤先生から言われたことを思い出した。後で電話をすると言っていた。
 と、その時、お母さんの携帯の呼び出し音が鳴り始めた。
――須藤先生からだ。
 お母さんは最初、明るい声で話していたが、すぐに静かな声になった。
 母の受け答えを見ていた。静かに下を向いて話している。
――私、何かしたかな?
 電話を切るとお母さんはさっきまで作っていた料理をやめて、つばきにこれから一緒に学校へ行くと告げた。お母さんも須藤先生みたいに悲しそうな顔をしていた。
 「話がしたい」って言ってた。
 須藤先生の話ってなんだろう?

 暗くなった学校で一つの教室だけに明かりが点いていた。
 つばきの教室だ。玄関で待っていた須藤先生がつばきたち親子を教室へと連れて行った。
 だまったまま、3人は暗い廊下を歩いた。
 --これから何を話すんだろう。
 二人の大人の後に続いて教室に入ると、片隅の席に小早川校長先生がすわっていた。



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