風待山8

文字数 734文字

 松井つばきの手紙を読んで、千夏は心を痛めた。
 小学生なのにこんなにも怨念で固まった心を持たされた少女の悲しみが千夏の心を締め付け、いたたまれない気持になった。
 つばきの手紙には、人を不幸にする人を許さない、どうかこの願いがとどきますように、とあった。千夏も心を痛めながらその思いに自分の思いと触れあうところがあると感じた。

松井つばきさん
 あなたからの手紙がなぜか私のところに届きました。「副島のおじいちゃん」という方はここにはいませんが、きっと郵便屋さんもよく分からないまま届けたのだと思います。というのも、風待山のふもとには私がいるところしか届けるような場所はないんです。
 私は風待山のふもとにある住んでいる者です。ここには用事がなければだれも来ません。その用事だって余程のことだけです。
 あなたの手紙は読ませてもらいました。
 たしかに風待山にはあなたのおばあちゃんが教えてくれたような言い伝えがあって、亡くなった方が山の上から私たちを見ていると信じられています。そして、おばあちゃんがおっしゃるように、自分の幸せを願ってはいけない、というきまりがあるのも事実です。あなたはそれをきちんと守っているのですね。
 あなたが願っていること、私にも分かります。自分を不幸にした人が幸せになるなんて許せないですよね。
 私も同じ気持ちです。
 あなたが毎日願っていること、いつか叶うといいと思います。
 それは怖いことだけど、人間として許される気持の一つだと思います。
 あなたの思うこと、願うこと、もし誰かに聞いてほしいと思ったら、また手紙を書いてくださいね。
 私は山崎千夏というおばさんです。宛名は「風待山霊園」と書いてくれれば届きますよ。
山崎千夏

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