第4話 松井もみじという子 

文字数 1,026文字

 今年転校して来た松井もみじという子がいつも私のことを見ているような気がする。
 未亜は松井もみじという子がどんな子かあまり知らなかったが、授業をサボって教室を出て行ったときにトイレで出くわしてから、妙に私に絡んできて、私の気に入らないことばかりする。
 うぜえ奴だ。
 この前も、何考えているんだか急に私を選挙管理委員に推薦した。
 本当にふざけた奴だ。
 私が選管なんてやるわけないだろ。

 かったるい英語の時間、若い女の先生が教科書を読んでいた。
 未亜は一年の頃から英語が大嫌いだ。
 あの妙に明るい無駄なテンションで、友だちと会話しろだなんて、やってられない。
 何が「ハロー」だ。
 馬鹿みたいに、笑って挨拶しろだと。
 そんなことアホらしくてやってられない。
 
 未亜は隙を見て、教室を抜け出そうと考えていた。

「ペアになって、お互いに自己紹介をしましょう」
と先生が言った。
 みんながペアを作り出した時、未亜にはペアがいなかった。
 当たり前だと自分でも思ってる。私となんかだれもやろうとは思わない。
 ぼんやりしていると、あの松井もみじが自分のところに来て「ハロー」と言って来た。
――なんなんだ、こいつ。
 未亜の気持ちなど関係ないというふうにもみじは未亜に話しかけてきた。どうやら好きなことを質問しているらしいが、未亜には答え方がわからない。
 無視していたら、「何が好き?」
 もみじは日本語で言ってきた。
――めんどくさいなあ。
 未亜は今夢中になっているアイドルがいる。韓国の男の子のグループだ。
 未亜はそのグループの名前をぶっきらぼうに答えた。
 もみじはおおげさなリアクションをして、
「シーユー」と違う友だちのところへ行ってしまった。
 未亜はまたひとりでぼーっとしていた。
 教室を出て行こうと、席を立って入り口の戸をそっと開けたとき、教室の向こうでひときわ大きな声が聞こえた。
「先生、未亜さんが授業をサボって出て行こうとしています」
 未亜が振り向くと、それを言ったのは松井もみじだった。もみじは笑いながら先生に叫んでいた。
「先生、未亜さんはトイレに行く振りをして授業をさぼるつもりです」
 未亜は、かーっとなったが、何も言えなかった。クラス中の子が未亜を見ていた。みんな笑っている。
 何も言えなかった。ただだまってその場に立ったまま、みんながまた英会話にもどるのを見ていた。
――いつかあいつを…
 未亜はそう思ったが、どうすればいいか頭の中には何も浮かんでは来なかった。
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