第5話 煩わしさ
文字数 1,300文字
未亜はクラスの中で自分の居場所がない子だった。
それは全く未亜自身の所為なのだが、自分に居場所がいないことについて特に本人は気にしているようではなかった。
高学年の女子はとかく扱いに難しさを感じる年ごろなのだが、何より、男の私から見ていて、女子は大変だなあ、と思うのは友だち関係のわずらわしさである。
上手に振る舞っていないと友だちがいなくなる。
男子はその点、能天気だ。自分の好きなように生きて、自然に気の合う友だちとつるむ。そして、その関係もとても緩い。お互いを束縛しない関係ができる。
未亜には特定の友だちがいない。誰かと一緒にいることもあるが、その子たちも、ただ未亜と同じように勉強が好きではなく、隙あらばサボりたい、という思いだけが共通項という関係である。
未亜が私の手を煩わせるのは、女同士の陰湿な友だち関係のトラブルではない。多くの場合、それはトラブルメーカーのあの男子とのいざこざであった。
ある時、机や棚の上を飛び回って、授業を混乱させるその男子は、未亜の机の上に画鋲をばら撒いたことがあった。
「その男子のやることだから」
と、もう騒ぎ立てる子もいなかった。精神的には周囲の子たちは成長しているのだ。私も「またか」ぐらいで済ませようと思っていた。未亜がその画鋲で怪我をしたわけでもない。
しかし、未亜はその男子のしたことを騒ぎ立てた。
「もう授業には出ない」
彼女にとっては、彼の乱行は自分にとってのチャンスなのであった。
未亜は自分の机の上に画鋲がばら撒かれたのを見て、教室から出て行った。
私は授業を止めて、未亜の行方を探さなければならなくなった。子どもたちに自習の指示を出して、学校中を探した歩き回ったが、見つからなかった。
「面倒くせえ」
授業を抜け出した子どもを放っておくわけにはいかない。こういうトラブルが教員のエネルギーを削っていくのだ。
授業ができないまま、校内を探しているうちに、学校に電話があった。
教頭がその電話を受けて私に伝えた。
「未亜が母親の勤めている店に来てるって」
未亜の母親からの電話は怒っているようであったと教頭は付け加えた。学校から外へ出ているなんて聞いたことがない。
未亜の母親は学校から近いスーパーでパートをしている。
もうすでに給食の時間になっていた。どこの教室も静かに給食を食べていた。私はそのスーパーに行って、母親に話をして未亜を連れ戻してこなければならない。
全校中が給食を食べている間、私は給食を取ることもできず、誰もいない静まり返った校庭を横切ってスーパーへと向かった。
私はいったい何してるのだろう。スーパーへと向かう足取りは重かった。
スーパーの裏口が見えた。トラックの搬入口で未亜と母親が地べたに並んで座っていた。
母親はタバコを吸って、近づいてくる私を見ていた。未亜は私の姿に気づいて、その母親の腕に自分の腕を絡ませてくっついている。
タバコの煙を吐いて、母親は近づいてくる私を見て、そのタバコを地面に押し付けた。
学校から出た昼間の世界。
本来なら、私が給食を食べている時間、わたしはその地べたに坐る親子に向きあうのだった。
それは全く未亜自身の所為なのだが、自分に居場所がいないことについて特に本人は気にしているようではなかった。
高学年の女子はとかく扱いに難しさを感じる年ごろなのだが、何より、男の私から見ていて、女子は大変だなあ、と思うのは友だち関係のわずらわしさである。
上手に振る舞っていないと友だちがいなくなる。
男子はその点、能天気だ。自分の好きなように生きて、自然に気の合う友だちとつるむ。そして、その関係もとても緩い。お互いを束縛しない関係ができる。
未亜には特定の友だちがいない。誰かと一緒にいることもあるが、その子たちも、ただ未亜と同じように勉強が好きではなく、隙あらばサボりたい、という思いだけが共通項という関係である。
未亜が私の手を煩わせるのは、女同士の陰湿な友だち関係のトラブルではない。多くの場合、それはトラブルメーカーのあの男子とのいざこざであった。
ある時、机や棚の上を飛び回って、授業を混乱させるその男子は、未亜の机の上に画鋲をばら撒いたことがあった。
「その男子のやることだから」
と、もう騒ぎ立てる子もいなかった。精神的には周囲の子たちは成長しているのだ。私も「またか」ぐらいで済ませようと思っていた。未亜がその画鋲で怪我をしたわけでもない。
しかし、未亜はその男子のしたことを騒ぎ立てた。
「もう授業には出ない」
彼女にとっては、彼の乱行は自分にとってのチャンスなのであった。
未亜は自分の机の上に画鋲がばら撒かれたのを見て、教室から出て行った。
私は授業を止めて、未亜の行方を探さなければならなくなった。子どもたちに自習の指示を出して、学校中を探した歩き回ったが、見つからなかった。
「面倒くせえ」
授業を抜け出した子どもを放っておくわけにはいかない。こういうトラブルが教員のエネルギーを削っていくのだ。
授業ができないまま、校内を探しているうちに、学校に電話があった。
教頭がその電話を受けて私に伝えた。
「未亜が母親の勤めている店に来てるって」
未亜の母親からの電話は怒っているようであったと教頭は付け加えた。学校から外へ出ているなんて聞いたことがない。
未亜の母親は学校から近いスーパーでパートをしている。
もうすでに給食の時間になっていた。どこの教室も静かに給食を食べていた。私はそのスーパーに行って、母親に話をして未亜を連れ戻してこなければならない。
全校中が給食を食べている間、私は給食を取ることもできず、誰もいない静まり返った校庭を横切ってスーパーへと向かった。
私はいったい何してるのだろう。スーパーへと向かう足取りは重かった。
スーパーの裏口が見えた。トラックの搬入口で未亜と母親が地べたに並んで座っていた。
母親はタバコを吸って、近づいてくる私を見ていた。未亜は私の姿に気づいて、その母親の腕に自分の腕を絡ませてくっついている。
タバコの煙を吐いて、母親は近づいてくる私を見て、そのタバコを地面に押し付けた。
学校から出た昼間の世界。
本来なら、私が給食を食べている時間、わたしはその地べたに坐る親子に向きあうのだった。