第42話 茶碗の中の宇宙

文字数 702文字

 死ぬまでに実際この眼で観たいと思っていた曜変天目茶碗。世界に三つしかない世にも類いまれなる美しい茶碗。全部日本にあり、京都の大徳寺龍光院、大阪の藤田美術館、東京の静嘉堂文庫美術館が所有している。
 本当なら三つ全部コンプリートするのを待つべきなのだろうが、二つ観た時点でエッセイを書いてしまっている。
 まず最初に観たのが龍光院所蔵のもの。茶碗の中に綺麗な星空があると思った。他の二つと比べるとちょっと地味で渋い。でも結論からいうとこれが一番好き。(あと一つ残っているから暫定的ではあるけれども)
 次に観たのは大阪の藤田美術館のもの。これはオーロラが茶碗の中にあった。
 あとは東京の静嘉堂文庫美術館所蔵分が残っている。これが一番有名で稲葉天目と呼ばれているもの。写真でしか見たことがないが、茶碗の中に星団があると思った。
 今のこの時代でこそインパクトが薄れるかも知れないが、当時の他の茶碗や焼き物と比べたら見た人は度肝抜かれただろうなと思う。まさに掌で宇宙を掴むようなことができる。
 所有者はどんな人だろうか?権力者?権勢を誇るため、珍しいもの、美しいものを求めるのが権力者の常。彼らは侵略した国の美術品を略奪し、ヒトラーだってフェルメールに執着した。この美しい茶碗を巡り、陰謀や殺人や数々の汚ないことが行われていたのではないか?これを所有するためには手段を選ばない。それこそ指輪物語みたいなことが……。
 そんなことを考えていると、この曜変天目茶碗が美術品以上のものに思えてくる。魔力のように、観るものを虜にし、人生を狂わせる傾国の美女に匹敵する存在。
 あと一つの美姫に逢うのを楽しみに待つことにしよう。
 

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