第18話 タイムマシーンがあったなら

文字数 525文字

 つい先日、某所に行く用事があった。そこに行くと決まってから、私には一つ気になることがあった。近くに思い出の場所があったからだ。目的地のほんの目と鼻の先くらいの距離のところで、大人になって初めて好きになった人と二人で蛍を観たのだった。もう何十年も昔のことなのに、そのときのことは今でも鮮明に覚えている。初夏の夜、纏わりつくような独特の空気の中で観た蛍はとても儚くて美しかった。話した内容もはっきり覚えている。
 その人とは苦い結末を迎えてしまった。私が出した結論は間違いではなかったと思っているが、その後私は何年も苦しむことになった。あまりに後遺症がきつかった。勿論とっくに克服したと思っているけれど、その場所に行くとどうなるんだろうと好奇心がわいてきた。
 実際に同じ場所(多分そうだろう)に立ってみて思ったことは、あまりに時間が経ってしまったということだ。本当にそれだけ。あの直後だったら、暗黒時代(今思うとまさに)に来ていたら、確実に泣いていただろうに。今は何も思わない。時間の流れの速さに、ただただびっくりするだけ。
 
 タイムマシーンがあったなら、あの頃に戻り、当時の自分に言ってやりたい。
 「時間が勿体ない。そんな男のためにメソメソするな」 
 
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