第11話 あおいひと

文字数 660文字

 もう外の空気はすっかり春ですね。張り詰めていたものが緩んで、何かがもぞもぞ蠢いている感じがしませんか?
 啓蟄とは上手く言ったものですね。民族学では確か春って災厄が芽吹く季節じゃなかったかな?それを防ぐために、人形(ひとがた)に身代わりをさせたのが雛人形のそもそもの起源ではなかったかという説を聞いたことがあります。それに、春先になると、おかしくなる人がいるというのもその辺のことから来ているのかもしれませんね。

 で、今回は私が見た不思議な人の話をしようかと思います。毎日のように遭遇していたのは五、六年前。何故かこの季節。時間帯はいつも午前中。私が自宅から駅へ向かうとき、その人とよくすれ違いました。上着も、はいているズボンもスカートも青、青い帽子、青いかばん、青い靴下、青い靴、青いアクセサリー。色の濃淡はあっても、身につけるもの全て青でなければならない何かの理由があるとしか思えない徹底ぶりでした。目つきもいつもどこか一点を必死に見つめているようで異様でした。 
 私はひそかに彼女を「青い人」と呼んでいました。そのあと私は隣の市に引っ越したので、彼女を見ることはなくなりました。しかし……。

 この間、私は車で買い物に行きました。信号待ちで道路脇の木蓮に見とれていたとき、見つけてしまったのです。彼女です。忘れもしません。あの目つき。ただ一つだけ違っていたことは今度は彼女は白尽くめだったことです。

 実話なんだから怖いでしょ……。

追記 
これは十五年くらい前に書いたものです。この話しにも続きがあるので追々書きますね。
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