第20話 My dog Hana 

文字数 912文字

 家族に「犬しか愛せない女」という有り難くない渾名?をつけられている。キャラクターものでは猫とかウサギとか可愛いと思うけれど、実際飼うのは犬がいい。もう十年以上前になるが、ティーカップマルチーズを飼っていたし、家族で溺愛していた。
 名前は華ちゃん。散歩嫌いで、旨いもの食いの犬だった。市販のドッグフードは成犬になる前に食べなくなり、仕方なく手作りの餌をやっていた。基本は肉と人参とパセリで、その都度薩摩芋や南瓜とかプラスで入れてやると喜んで食べていた。作りたての金糸卵も好きだった。本当は果物とかやってはいけないのだが、佐藤錦など御贈答用の美味しいさくらんぼが大のお気に入りで、そうでなかったらペッと吐き出して食べなかった。
 またとても賢くて、布団におしっこして私が怒ると、二度と同じ失敗はしなかった。
 だが彼女の特筆すべき点は根性が据わっていたことだ。父が大病から回復し、次にもう一度倒れる前に、彼女は体調を崩した。人間でいうともう八十は過ぎているので、長くはないと思ってくださいと獣医師に言われた。今思えば、華はまた父が倒れることがわかっていて、家族の足手まといにならないために先に逝ったのではないか?それとも父が死なないよう身代わりをしてくれたのか?
 最後の日、具合が悪くなった彼女を父が病院へ連れていこうとすると、弱りきった様子だったはずなのに、彼女は全力でそれを止めさせた。少なくとも父はそう感じたという。家で死ぬと決めていたのだろう。最後は自分のベットで眠るように息絶えていた。私と二人きりのときだった。私はお風呂に入っていたので、華の死に目にあえていない。これも私が取り乱して何もできないことをわかっていて、彼女は一人で逝ったのではないかと思う。お風呂に入っているとき、ドアの向こう側に彼女の影がうつったような気がした。別れを告げに来てくれていたのか……。

 自分で死に時を選ぶなどまるで武士のような犬だった。

 十年以上経ったが、私たち家族は今でもあの子を愛しているし、ほぼ毎日生前の彼女のことを思い出している。これからも決して忘れることはない。
 白い犬は人間に近いという。今度は人間に生まれ変わっておいで。華。
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