第38話 画聖より奇才

文字数 849文字

 雪舟って有名だし、美術愛好家でなくとも、大抵の人は彼が子供時代に涙で描いた鼠の絵が本物と見紛うばかりの出来映えだったという逸話(嘘)くらいは知っているだろう。
 今回、雪舟展ではないと銘打った『雪舟伝説』という展覧会に行ってきた。雪舟が何故画聖と呼ばれるのか?それを探る展覧会。後世の名だたる絵師たち、狩野派、若冲や等伯たちがこぞって研究し、影響を受けて描いた絵も展示し、雪舟が伝説となった過程を明らかにするらしい。
 私としては画聖雪舟の絵が集められるという稀有な機会を逃してはいけないと思い、いそいそと出掛けていった。
 まず人が多い。雪舟の絵の前は特に……。皆観たいから前に前に行く。だから人の頭で見えない。それでも頑張って見える場所を探す。
 雪舟の絵の全体的な私個人の感想は、ちょっと離れて観ると確かに、オッと声が出て、引き寄せられるような魅力を感じる。でも、すごく近くに寄って観ると、凄く緻密に描きこんでいるって感じでもないのが不思議。ときに漫画チックだったりする。巻物は特にそう感じた。でも描かれているもの一つ一つは瑞々しい。十五世紀の作品だなんて信じられない。
 達磨と弟子を描いた有名な『慧可断臂図』も良かった。
 一番自分が好きだと思ったのは『四季山水図』だった。掛け軸だが大きくて迫力もあった。山の断崖に存在感を持たせる見事な構図、年月を経ているせいなのか全体的にセピアに染まってスモーキーな感じ、渋くて好きだ。
 さて、雪舟に影響を受けた絵師のなかで、私は誰が一番好きだったか?

 やはり曾我蕭白が私の心を強く捉えた。
 『富士三保図屏風』は雪舟の『富士三保清見寺図』にインスパイアされたものらしいが、まさかの虹を描くという奇才っぷりを発揮している。見た瞬間、「え?虹?」と声が出てしまった。
 また『月夜山水図屏風』は、まさにゴージャス。金黒赤緑白の色使い、大好きだ。そしてスタイリッシュ。愛してる。蕭白……。

 そして、雪舟、やはり只者ではなかった。でもこの私にとっては画聖より奇才だった。
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