第41話 You are so beautiful. 

文字数 432文字

  お前は何て美しいの……。

 思わずそう呟いてしまうほど圧倒された。西村総左衛門の『鹿に薄』。一見黒いキャンバスにしか見えないから、観客の何割かは見逃してしまっただろう。だがよく観ると朧気に金の鹿と薄が描かれている。いや、これは絵ではない。刺繍だ。明治期に海外向けに製作された刺繍絵画というジャンルだそうだ。

 漆黒の天鵞絨地に金一色。糸とは思えぬほど、まるで極細の絵筆で描いたかのように繊細なタッチ。秋の夜、三日月を見上げる男鹿、傍で揺れる薄。金の糸だけで幽玄な世界を創造している。

 刺繍で極上の絵画並みのクオリティを出せるなんて。私はこの作品に長谷川等伯の『松林図』に似通ったものを感じた。研ぎ澄まされた表現とはこういう作品にこそ使うべきだろう。

 ここ最近で一番心を持っていかれた作品だ。美術が好きで結構長い年月美術展に行ったりしているけれど、まだまだ知らない傑作や美しい世界があるのだなと思うとワクワクする。今こそアートが好きでしあわせと声を大にして言いたい。
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