第5話 恐怖新聞

文字数 1,031文字

 これは実際に私が経験したことで創作ではない。

 さっき調べてみると、1997年に起こったことだった。記憶がそうはっきりしているわけではないが、5月の初旬、もしくは、4月末のことだったと思う。ちょうど今ごろの時期だった。

 夕刊を何気なく見ていると、Kさんという女優さんのインタビュー記事が載っていた。その当時は名の売れた女優さんだったと記憶している。彼女に特別思い入れがあったわけではない。顔と名前が一致するかしないかくらいの女優さん。それくらいの認識だった。彼女の写真が載っていたので、Kさんのインタビューだと分かった。

 インタビュー記事をじっくり読む気もなく、ただざっと目でスキャンしただけだったが、すごく気になる文章があった。
『?を見ている?と飛び降りたくなります』

 『飛び降りたくなります』ははっきりおぼえている。なんか怖いことを言っているなと思ったが、彼女自身に興味がないものだから、それ以上記事を読んだりしなかった。

 1997年5月某日、彼女は以前交際していた男性のマンションから飛び降りて亡くなった。三十代の若さだった。私はそのニュースを見たとき、あまりのタイミングにびっくりした。まさか本当に飛び降りてしまうとは……。

 インタビューを受けたとき、彼女はどんな心理状態だったのだろうか。もうその頃から彼女は死ぬという考えにとりつかれていたのだろうか。だから、あんなことを言ってしまったのだろうか。あのあと、自宅であの記事の載った新聞を探してみたが見つけることが出来なかった。

 その出来事によって、彼女は私にとって忘れられない女優さんになってしまった。考えてみると、別に不思議でもなんでもないことなのかもしれない。自殺を考えている女優がそういうことをほのめかす。それが新聞の記事になる。たまたま一般人の私が目にしてしまって、そのあと自殺が実行された。それだけのこと……。

 そんなことを考えながら思い出すのは、つのだじろうの『恐怖新聞』のことだ。私は実際その漫画を読んだことはないが、だいたいの内容は知っている。

 午前零時、主人公のもとに届けられる新聞。それには不吉な未来を予言するかのような記事が載っている。そしてそれは翌日現実になるのだ。もっと怖いことにその新聞を読むと寿命が縮まるらしい。

 当時、私はこの経験をまるで恐怖新聞だなと思った。それくらいびっくりしたのだ。ふと思い出したので書いてみた。

 最後に、Kさん、あの世で心安らかに眠ってください。
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