第19話 橋本関雪

文字数 922文字

 今年前半の展覧会のハイライトは、橋本関雪。何としても観に行かなくてはいけないと思っていた。だが、家庭の事情でなかなか行けず、ここ数ヵ月私は悶々としていた。しかも三館同時開催。会期終了間近にやっと観に行くことができた。それまでは橋本関雪のことはあまりよく知らなかった。だが、絶対に自分の好きなタイプの画家であり、観るべきであることだけは分かっていた。
 まず最初に気づいたことは、構図の見事さ。例えば、六曲一双屏風の「林和靖」は人物と鶴が相似をなしており、構図にリズムがあるように感じた。また人物の頭巾と衣服は同じ青系統で揃えてあり、しかも地面の緑?苔?も青を帯びていることから、非常にすっきりとして全体的に清々しい絵となっている。鶴の羽も繊細に描かれていて本当に美しい。この絵が私の今回の展覧会での一番のお気に入り。 
 また清らかさで言えば、小品であるが「看月図」も素晴らしいと思う。何とも言えぬ月夜の空気感までもが伝わってくるようだ。人物の描き方も見事。
 その他、大作が何点かあった。その中でも「後醍醐帝」を取り上げたいと思う。絵に描かれている人々の目線で、鑑賞者も後醍醐帝(帝なのに変装してて地味)に誘導されるのが面白い。馬の鼻部分のような細部まで繊細に表現されていて、それも見事。この絵は色使いもとても美しい。関雪は群青、オレンジ、ベージュ、緑、白、この組み合わせが好きなのだろうか?
 そして筆遣い、詳しい技法のことは知らないが、様々に使い分けられているように感じた。「鍾馗」は赤一色で描かれていたが、一気に描いたのだろうか、ものすごい力強さと繊細さを併せ持つ、目を惹く作品だ。
 関雪は動物も巧みに描く。目に知性を感じさせ愛らしい。観ているこちらも愛着を覚えるほどだ。また風景画の中に小さく描かれている人物の表情も、実に上手い。スッとその人物の心情に入り込んでしまう気がする。
 また複数の絵に描かれている雪の表現も印象に残った。

 この展覧会は、入神の技・非凡の画というタイトルがついていたが、この橋本関雪という人はバランスの良い画家で、非常に難しいことを涼しい顔でさりげなくやってのけたような気がする。思った通り、大満足。行って良かった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み