皐月   黄昏

文字数 817文字

彼が同じ高校なのは

半袖Yシャツのネクタイの柄からわかった

年は推察できないが

例え先輩だったとしても

この態度は許せない



平均的な男子に比べ

黒髪は長い方で

特に前髪が

眉を隠すほどだった

そのため

夕刻の陰りが

すっとした切れ目を覆い

どこか暗い印象を醸し出していた

逆三角の顔に

スマートな鼻

引き結ばれた繊細な唇……



迂闊にも

一瞬うっとりなりかけた私は

舌を打ち鳴らした



「まったくよ、もう!」

「そうヒスを起こすな」

私の悲嘆と怒りがこもった声に対し

彼のきりっとした表情は

厳しいままで

まったく動じてない

それが一層腹立たしい

「まぁ、この場合、半分俺も悪いが、もう半分はそっちが悪いぜ」

「はっ? 何それ」

驚いた私の口は

ぽかんと開いたままだった

彼がボールを地面に打ちつける音が

鬱陶しい



「車が少ない生活道路とはいえ、シュート練習してたのは悪いと認めるよ」

彼は一度言葉を切った

先程

私が追い抜いた親子連れが

手を繋いで

夕焼けカラスの歌を口ずさみながら

通り過ぎていったからだ

実に間が悪いと

彼は

ばつの悪い表情を浮かべた

「でも、いくらなんでもシュートをほおってる最中に横を素通る事ないだろ。止まる事だってできたはずだ」

「ずいぶん弁が立つじゃないハンサム君。下手なバスケの練習より、弁護士でも目指して、部屋で六法辞書読んでれば?」

私の

小馬鹿にした薄ら笑いに

彼はため息をつき

かぶりを振った



「せっかく同情して、家にある牛乳分けてやろうと思ってたのに、やめたわ」

彼は私に背を向けゴールを見上げた

「その刺がある皮肉……かなり毒だぜ。あんた、相当嫌われてるだろ?」

言い終えると同時にシュートを放つ

ボールは滑らかな弧を描き

ネットにすっぽり入った



私が嫌われている?

この

無垢で感受性豊かで大人しい

この私が刺々しい?



「無礼で癇癪持ちでおこがましいとか言われない?」

「怒ってるから、こんな口調なのよ!」

「怒るとそうなるんだ?」

彼が転がったボールを手にし

再びシュート体勢に入る

しかし

次の瞬間

彼はひどく驚いた 

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登場人物紹介

北里 舞 


本作の主人公  

地方住宅街に越してきた 

普通の高校一年だが 

自分の感受性を大事にしている


新田 俊 


舞が買い物帰りに旧住宅街で遭遇する  

バスケをこよなく愛する同級生  

クラスの女子にそれなりにモテる

栗澤   麻都佳 


学校近くのコンビニでバイトする 

舞の同級生にして親友


月成 


麻都佳経由で知り合う事になる

舞の宿敵の同級生 

可愛らしい外見の男子で 

女装してもバレない

織原   香月 


秋冬編から登場 

舞の中学時代の親友だった 

同じ高校に通うも...... 


常磐     景織子 


秋冬編から登場 

香月の親友の美人 

人とあまり関わりたがらない

柏木 

 

どうも景織子が好きらしい別クラス男子


基宏 


舞の中学生時代の思い出に 

出てくる男子

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