皐月   黄昏

文字数 785文字

ちぎれちぎれの

綿雲が浮かぶグンジョ色の空に

絶え間なく

バスケットボールが舞い上がる
 



隣り屋根のシルエットを描く壁に

ボールが弾いては

落ちる方角を予測して走る彼と私

フェイントをかけ

ボールを奪い合う表情は

互いに真剣そのものだった

時折

素通る帰宅者や近所の人達からは

微笑ましい視線を

投げ掛けられた



こっちは

牛乳と沽券がかかってるというのに……



アスファルトを駆け巡るシューズと

ボールを弾く音は

空に星が輝くまで

止む事はなかった

玄関照明が二人の足元に

薄い影を作る



「ハンデあげようか?」

軽い身のこなしで

レイアップシュートを決めた私は言い返してやった

「彼氏がいるなら、そいつ同情するぜ」

彼もまたレイアップで返すと一言添える

「レギュラーって、へっぽこバスケ部のレギュラーなの?」

「お前、バスケのセンスもいいが、昼ドラの悪役女優にもなれるぜ」

シュートを決めた爽快感と

その時放つ決め台詞の皮肉が

たまらなく気持ちよく

もはや止められなくなっていた



点の差は縮まらず接戦だった

やがて互いの皮肉に

毒はあるものの

自然と腹が立たなくなっていった

言葉は冗談めいて

気持ちが緩くなっていく

そのうち

相手の力量とセンスを

素直に認め賞賛すら

抱くようになっていた
 





それからどのくらい動き回っただろうか

気がついたら

二人とも地面にしゃがみこんでいた

前の畑は真っ暗で

向こうの民家の窓明かりが

一際目立っていた

外灯の投げかける通りは静かで

本道の車が走る音が

ここまで届いてきた



うつむく頭を上げる気力も出尽くし

しばらくは

互いの息遣いだけが耳に入ってきた

額から大量の汗が吹き出し

前髪が貼りつく

Yシャツの背中部分が濡れて

気持ち悪かった

「俺が二点リードしてんだっけ?」

「何いってんの、私よ」

地面のひび割れを見つめたまま言葉を交わす

彼も私も喉が渇いていて声が小さい

お腹も空いてきたと

自覚したのは

家から漂ってくるカレーの匂いが

嗅覚を刺激したからだった 

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登場人物紹介

北里 舞 


本作の主人公  

地方住宅街に越してきた 

普通の高校一年だが 

自分の感受性を大事にしている


新田 俊 


舞が買い物帰りに旧住宅街で遭遇する  

バスケをこよなく愛する同級生  

クラスの女子にそれなりにモテる

栗澤   麻都佳 


学校近くのコンビニでバイトする 

舞の同級生にして親友


月成 


麻都佳経由で知り合う事になる

舞の宿敵の同級生 

可愛らしい外見の男子で 

女装してもバレない

織原   香月 


秋冬編から登場 

舞の中学時代の親友だった 

同じ高校に通うも...... 


常磐     景織子 


秋冬編から登場 

香月の親友の美人 

人とあまり関わりたがらない

柏木 

 

どうも景織子が好きらしい別クラス男子


基宏 


舞の中学生時代の思い出に 

出てくる男子

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