皐月   黄昏

文字数 708文字

山の向こうの空に赤みがさす



私は母の自転車をこぎ

まだ見馴れない田舎の国道を

新鮮な気持ちで急ぐ
 



広大な畑と田んぼに挟まれた

車の少ないこの二車線道路は

駅や高校の密集する町の中心部へ向かうには

必ず通らなければならず

つい先程

高校から帰ってきたばかりなのに

もう一度

母に頼まれた

たった一本の牛乳を買う為

でこぼこが続く

アスファルトの上

ペダルをこがなければならない



緩やかだけど

傾斜が頻繁に繰り返され

進むのに苦労させられる



僅かな下り坂の勢いで

ワイシャツの半袖口から

向かい風を入れ

火照った身体を冷まそうとするが

たいして効果もなかった

肩までかかる黒髪が

紺と水色のリボンでとめた襟首にまとわりついて

余計暑苦しい



それでも私は

上ボタンを緩めるのに抵抗を感じていた

グレーのスカートも

学校の一応規定通りの

膝が見え隠れする長さだ

靴下は自由だが

あえて

多数を占めている丈の長い黒靴下は避けて

脛までの短い白を着用していた



平均的な背丈と体格

やや目は大きいが

それ以外は

可もなく不可もなく

顔の輪郭も一般的

いわゆる平凡な女子

それが私だ



きっとこれからの高校三年間も

これまでと同じく

普通の日常を送る事だろう



それが私のライフスタイルであり

牛乳一リットルを買いに

スーパーまで行くのが

私の人生の象徴なのだろう



引っ越す前は近所にコンビニがあったから

徒歩で用事を済ませられたが

今年からは

新しい町に慣れなければならず

出かけるにも

思ったより長い距離を

自転車で移動しなければならない



とはいえ

高校が自転車通学なのは

嬉しい限りだ

わざわざ私の高校が近い物件を

選んでくれた父に感謝しなければ。



それと

ささやかながら喜びを感じられる事もある

都会暮らしでは味わえなかった

遠くまで見渡せる自然の景色だ 

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登場人物紹介

北里 舞 


本作の主人公  

地方住宅街に越してきた 

普通の高校一年だが 

自分の感受性を大事にしている


新田 俊 


舞が買い物帰りに旧住宅街で遭遇する  

バスケをこよなく愛する同級生  

クラスの女子にそれなりにモテる

栗澤   麻都佳 


学校近くのコンビニでバイトする 

舞の同級生にして親友


月成 


麻都佳経由で知り合う事になる

舞の宿敵の同級生 

可愛らしい外見の男子で 

女装してもバレない

織原   香月 


秋冬編から登場 

舞の中学時代の親友だった 

同じ高校に通うも...... 


常磐     景織子 


秋冬編から登場 

香月の親友の美人 

人とあまり関わりたがらない

柏木 

 

どうも景織子が好きらしい別クラス男子


基宏 


舞の中学生時代の思い出に 

出てくる男子

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