水無月 雨宿り
文字数 808文字
「えっ、何?」
私がたじろぎながら尋ねると
彼は穏やかに笑いながらうつむいて言った
「いや、北里って、思ったより律儀な奴だなと思って」
「思ったよりって……私の事何だと思ってるの?」
「そりゃあ、最初会った時が、アレだったから」
「あの、普段からあんな感じじゃないからね」
「わかってるって」
たぶん
わかってないだろう
にやけた口元を見ればわかる
「せっかくだから、いただくとするよ」
彼に包み箱を渡す瞬間
バレンタインデーを連想してしまった
もし
仮に、もし、
これがもっと可愛らしいラッピングをした
手のひらサイズのプレゼントだったら
渡すのにもっと緊張し
彼の顔もまともに見る事も
出来なかっただろう
……例えばの話だ
会話が途切れると
目が合った私達は同時にうつ向いた
私は両手の指先をもてあそんでいた
「じゃあ、行くね、お母さんと妹ちゃんによろしく」
沈黙が罪に感じ
私は自転車に向かおうとした
「北里」
「何!?」
彼の早口になった呼びかけに
私は期待と不安を抱き
振り返った
「ちょっとバスケやっていかないか?」
彼の表情は強張り
すっとした切れ目は
私の答えを心配そうに待ち構えていた
「やる、やる」
即答した私もまた
それ以外に付け足す言葉が
思い浮かばず
表情を和らげる余裕すらなかった
結局
私達は前回のような
切れのある動きは出来ず
筋肉は
緊張のあまり硬くなって
どこかぎこちない1or1になってしまった
何より遠慮してしまって
点を競うより
相手への気遣いが優先していた
私の得意な
華麗な頬り投げレイアップシュートも
ことごとくゴールリングに弾かれる
息が苦しく
心臓の鼓動が早いのは
どうもバスケのせいだけではなかった
私のディフェンスを避けるため
彼が
上体を反らしながら後ろに跳びボールを放つ
フェイドアウェイシュートも
見よう見真似の技で
ボールはゴールポストにすら
触れていない
大きくバウンドする様子を
目で追いかけると
転がったアスファルトに
ひとつ
またひとつと雨雫が弾け
数秒もせず
連続的な音に変わった
私がたじろぎながら尋ねると
彼は穏やかに笑いながらうつむいて言った
「いや、北里って、思ったより律儀な奴だなと思って」
「思ったよりって……私の事何だと思ってるの?」
「そりゃあ、最初会った時が、アレだったから」
「あの、普段からあんな感じじゃないからね」
「わかってるって」
たぶん
わかってないだろう
にやけた口元を見ればわかる
「せっかくだから、いただくとするよ」
彼に包み箱を渡す瞬間
バレンタインデーを連想してしまった
もし
仮に、もし、
これがもっと可愛らしいラッピングをした
手のひらサイズのプレゼントだったら
渡すのにもっと緊張し
彼の顔もまともに見る事も
出来なかっただろう
……例えばの話だ
会話が途切れると
目が合った私達は同時にうつ向いた
私は両手の指先をもてあそんでいた
「じゃあ、行くね、お母さんと妹ちゃんによろしく」
沈黙が罪に感じ
私は自転車に向かおうとした
「北里」
「何!?」
彼の早口になった呼びかけに
私は期待と不安を抱き
振り返った
「ちょっとバスケやっていかないか?」
彼の表情は強張り
すっとした切れ目は
私の答えを心配そうに待ち構えていた
「やる、やる」
即答した私もまた
それ以外に付け足す言葉が
思い浮かばず
表情を和らげる余裕すらなかった
結局
私達は前回のような
切れのある動きは出来ず
筋肉は
緊張のあまり硬くなって
どこかぎこちない1or1になってしまった
何より遠慮してしまって
点を競うより
相手への気遣いが優先していた
私の得意な
華麗な頬り投げレイアップシュートも
ことごとくゴールリングに弾かれる
息が苦しく
心臓の鼓動が早いのは
どうもバスケのせいだけではなかった
私のディフェンスを避けるため
彼が
上体を反らしながら後ろに跳びボールを放つ
フェイドアウェイシュートも
見よう見真似の技で
ボールはゴールポストにすら
触れていない
大きくバウンドする様子を
目で追いかけると
転がったアスファルトに
ひとつ
またひとつと雨雫が弾け
数秒もせず
連続的な音に変わった