皐月 木漏れ日
文字数 825文字
「舞も一緒に免許取ってバイク乗ろうよ」
二人して
廊下を行き交う先生や生徒を目で追う
「私、バイトしてないもん」
「一緒に探してあげようか?」
「どうしようかな……」
と言いつつ
内心は物凄く興味があった
次に口を開きかけた時
例によって歩くナンパ男『根津』が現れた
「栗澤、栗澤、俺ね、俺ね……」
「何よ、騒がしい男ねぇ」
私はため息をつき
窓枠に頬杖をついて外を眺めた
深呼吸したくなるような青空に
綿雲がいくつか浮かぶ
眩しい太陽の光が
向かい校舎の三階窓に反射していた
二階から覗く中庭は
手前に並ぶ庭木の枝葉で
視野を遮られ
鮮やかな黄緑で染まる人工芝と
花壇の一部しか把握できなかった
それでも黄色と橙のマリーゴールドが咲き乱れる周囲のレンガ道で
噂の男女が肩を並べながら歩く姿は
窓から見る誰の目からも目立っていた
私は上の階まであるだろう落葉樹の枝に
手を伸ばした
育ち盛りの木の葉は生き生きとし
そよ風に揺れると
木の葉どうしが触れ合い
さえずりを奏で始めた
枝葉の隙間から
直接日光の当たる部分と
影が覆う部分が入り雑じり
陰と陽のコントラストを描く
太い幹から枝先の細部まで
養分が脈動していくのを感じられる
生い茂る葉のひとつひとつが生命力を
みなぎらせ
その輝きに思わず目が眩んだ
閉じた瞼の中にまだ光が残っている
穏やかで心が安らぎ
暖かく
どこか懐かしい
遠い昔の幼児時代
どこかの公園で
陽射しを浴びながら遊んでいた日々を連想する
廊下の雑音は消え
波のような
木の葉のさえずりだけが
繰り返し心に響いてくる
いつまでも耳にしていたい音色だったが
風は不意にやみ
瞳を開ければ
現実感が蘇ってきた
廊下を走る上履きが擦れる音と
それを注意する教師の大きな声
根津の漫画っぽい馬鹿笑い
「幼稚すぎて笑えないんだけど」
麻都佳の呆れた声
私はまだ夢の続きを見ているのだろうか
中庭に見覚えのある男子が歩いているではないか
背が高く
髪がやや長い
片手にバスケットボールを手放さない姿……
遠くからでもよくわかる
「あいつ!」
考える間もなく
私は走り出していた
二人して
廊下を行き交う先生や生徒を目で追う
「私、バイトしてないもん」
「一緒に探してあげようか?」
「どうしようかな……」
と言いつつ
内心は物凄く興味があった
次に口を開きかけた時
例によって歩くナンパ男『根津』が現れた
「栗澤、栗澤、俺ね、俺ね……」
「何よ、騒がしい男ねぇ」
私はため息をつき
窓枠に頬杖をついて外を眺めた
深呼吸したくなるような青空に
綿雲がいくつか浮かぶ
眩しい太陽の光が
向かい校舎の三階窓に反射していた
二階から覗く中庭は
手前に並ぶ庭木の枝葉で
視野を遮られ
鮮やかな黄緑で染まる人工芝と
花壇の一部しか把握できなかった
それでも黄色と橙のマリーゴールドが咲き乱れる周囲のレンガ道で
噂の男女が肩を並べながら歩く姿は
窓から見る誰の目からも目立っていた
私は上の階まであるだろう落葉樹の枝に
手を伸ばした
育ち盛りの木の葉は生き生きとし
そよ風に揺れると
木の葉どうしが触れ合い
さえずりを奏で始めた
枝葉の隙間から
直接日光の当たる部分と
影が覆う部分が入り雑じり
陰と陽のコントラストを描く
太い幹から枝先の細部まで
養分が脈動していくのを感じられる
生い茂る葉のひとつひとつが生命力を
みなぎらせ
その輝きに思わず目が眩んだ
閉じた瞼の中にまだ光が残っている
穏やかで心が安らぎ
暖かく
どこか懐かしい
遠い昔の幼児時代
どこかの公園で
陽射しを浴びながら遊んでいた日々を連想する
廊下の雑音は消え
波のような
木の葉のさえずりだけが
繰り返し心に響いてくる
いつまでも耳にしていたい音色だったが
風は不意にやみ
瞳を開ければ
現実感が蘇ってきた
廊下を走る上履きが擦れる音と
それを注意する教師の大きな声
根津の漫画っぽい馬鹿笑い
「幼稚すぎて笑えないんだけど」
麻都佳の呆れた声
私はまだ夢の続きを見ているのだろうか
中庭に見覚えのある男子が歩いているではないか
背が高く
髪がやや長い
片手にバスケットボールを手放さない姿……
遠くからでもよくわかる
「あいつ!」
考える間もなく
私は走り出していた