皐月 黄昏
文字数 667文字
「なに、なに、どうしたの?」
髪の長い小学生くらいの女の子も顔を出す
「もしかして、お兄ちゃんの彼女?」
「違うって!」
私より先に彼は大きな声で否定した
「喉が渇いただろ」
よほど慌てていたのか
彼はひも靴の踵を踏んだまま
急いで私に近付き
ビニール袋を差し出した
「えっ? 何?」
受けとる際
中を覗くと
千ミリリットルの牛乳パックと
缶ジュースが一本入っていた
「これって……」
見上げた私と彼が見つめ合い
慌てて目を逸らす
「約束だ、俺は今、うっかり水分補給しちまったから、反則負けでいいぜ」
「でも、何だか悪いわ」
「よく言うぜ、提案したのはそっちだろ」
「悛、女の子なんだから送ってってあげなさい」
「いえ、自転車なんで大丈夫です」
私は曖昧に手を振り
道の真ん中に停めていた自転車の籠に
ビニール袋を入れると
もう一度振り返り頭を下げた
「牛乳ありがとうございました」
「どういたしまして、また来てね」
彼の母親と妹は何だか嬉しそうだ
両ポケットに手を突っ込む彼の困った顔を見れば
後で二人から
散々
問い詰められるのだろうと
容易に想像できた
「同情するわ」
自転車に乗った私は
別れの挨拶代わりに
素直な気持ちを投げかけた
もっとも彼には
皮肉にしか聞こえないかもしれないが
ペダルをこぐと
ライトが先の電柱を照らす
しばらく進むと
行きに通った本道に抜けられた
私は袋から
ジュースを取りだし
蓋を開けた
シュッと音がし
一口あおると
喉の奥で炭酸が弾けるのを感じた
「レモンソーダ……」
私は冷たく濡れた缶のイラストを見て微笑した
頬に当てて身体の火照りを少しでもやわらげると
外灯の続く静かな
田舎の二車線道路を急いだ
髪の長い小学生くらいの女の子も顔を出す
「もしかして、お兄ちゃんの彼女?」
「違うって!」
私より先に彼は大きな声で否定した
「喉が渇いただろ」
よほど慌てていたのか
彼はひも靴の踵を踏んだまま
急いで私に近付き
ビニール袋を差し出した
「えっ? 何?」
受けとる際
中を覗くと
千ミリリットルの牛乳パックと
缶ジュースが一本入っていた
「これって……」
見上げた私と彼が見つめ合い
慌てて目を逸らす
「約束だ、俺は今、うっかり水分補給しちまったから、反則負けでいいぜ」
「でも、何だか悪いわ」
「よく言うぜ、提案したのはそっちだろ」
「悛、女の子なんだから送ってってあげなさい」
「いえ、自転車なんで大丈夫です」
私は曖昧に手を振り
道の真ん中に停めていた自転車の籠に
ビニール袋を入れると
もう一度振り返り頭を下げた
「牛乳ありがとうございました」
「どういたしまして、また来てね」
彼の母親と妹は何だか嬉しそうだ
両ポケットに手を突っ込む彼の困った顔を見れば
後で二人から
散々
問い詰められるのだろうと
容易に想像できた
「同情するわ」
自転車に乗った私は
別れの挨拶代わりに
素直な気持ちを投げかけた
もっとも彼には
皮肉にしか聞こえないかもしれないが
ペダルをこぐと
ライトが先の電柱を照らす
しばらく進むと
行きに通った本道に抜けられた
私は袋から
ジュースを取りだし
蓋を開けた
シュッと音がし
一口あおると
喉の奥で炭酸が弾けるのを感じた
「レモンソーダ……」
私は冷たく濡れた缶のイラストを見て微笑した
頬に当てて身体の火照りを少しでもやわらげると
外灯の続く静かな
田舎の二車線道路を急いだ