皐月 木漏れ日
文字数 800文字
「……里、おい北里……」
聞き覚えのある声に私の意識は蘇った
「あれ?」
一瞬どこにいるのか思い出せず
身をかたくする
音楽室から聞こえるトランペットの音色を耳にし
日射しを浴びる鮮やかな花壇を眺めて
次第に記憶が蘇ってきた
「お前、こんなところで寝てたら風邪ひくぞ」
顔を上げると
切れ目を長い前髪で覆った細身の男子が
バスケットボールを片手に
見下ろしていた
「あっ!」
私は口を開いたまま彼を指さした
「やっと見つけた!」
「ヨダレ……!」
彼は片目をひきつらせ
唸りながら
私の口元を顎で示した
顔が赤くなるのを感じた
私は恥ずかしさを紛らわすため
勢いよく立ち上がった
思いがけず顔が近付き
彼は怯みそうになったが
思い止まり微動だにしなかった
ならば私も退くわけにはいかない
結果
二人は密着したまま相対する
異様な光景となっていた
背丈もほぼ変わらないため
互いの顔が恐ろしく間近だった
たぶん
私があとわずか顎を上げるか
彼が顔を傾け頭を下げれば
唇と唇が重なりあってしまう
私は目を見張りながら
生唾を飲み込んだ
心臓の鼓動が高なり
身体中が火照ってくるのを感じた
髪に隠れた耳まで赤くなり
思考が錯乱し
次の行動が思いつかない
彼もまた同じだった
何食わぬ顔を装いつつも
頬が赤に染まり
目がしきりに泳いでいる
二人を見る角度が違えば
とても長い時間をかけて
キスしているようにしか見えない
「何密着してるの、いやらしい……ちょっと離れてよ」
「お前こそ一歩下がれよ、そっちが突然立ち上がってきたんだろ」
「ちょっと顔動かさないでよ! 口が当たってるじゃない! 」
たまらずいっせいに身をひき
互いはそっぽを向いて
唇を手でおさえた
話してる間に少なくとも
三回は唇が触れ合っている
「嗚呼……くっそっ……」
私は舌打ちしながら悪態をついた
「言っとくけど私、こんな軽い女じゃないんだけど」
「これじゃあ、海外ホームドラマで、やたら見せつけるカップルみたいじゃないか」
彼は膝に手を置いて
うなだれていた
聞き覚えのある声に私の意識は蘇った
「あれ?」
一瞬どこにいるのか思い出せず
身をかたくする
音楽室から聞こえるトランペットの音色を耳にし
日射しを浴びる鮮やかな花壇を眺めて
次第に記憶が蘇ってきた
「お前、こんなところで寝てたら風邪ひくぞ」
顔を上げると
切れ目を長い前髪で覆った細身の男子が
バスケットボールを片手に
見下ろしていた
「あっ!」
私は口を開いたまま彼を指さした
「やっと見つけた!」
「ヨダレ……!」
彼は片目をひきつらせ
唸りながら
私の口元を顎で示した
顔が赤くなるのを感じた
私は恥ずかしさを紛らわすため
勢いよく立ち上がった
思いがけず顔が近付き
彼は怯みそうになったが
思い止まり微動だにしなかった
ならば私も退くわけにはいかない
結果
二人は密着したまま相対する
異様な光景となっていた
背丈もほぼ変わらないため
互いの顔が恐ろしく間近だった
たぶん
私があとわずか顎を上げるか
彼が顔を傾け頭を下げれば
唇と唇が重なりあってしまう
私は目を見張りながら
生唾を飲み込んだ
心臓の鼓動が高なり
身体中が火照ってくるのを感じた
髪に隠れた耳まで赤くなり
思考が錯乱し
次の行動が思いつかない
彼もまた同じだった
何食わぬ顔を装いつつも
頬が赤に染まり
目がしきりに泳いでいる
二人を見る角度が違えば
とても長い時間をかけて
キスしているようにしか見えない
「何密着してるの、いやらしい……ちょっと離れてよ」
「お前こそ一歩下がれよ、そっちが突然立ち上がってきたんだろ」
「ちょっと顔動かさないでよ! 口が当たってるじゃない! 」
たまらずいっせいに身をひき
互いはそっぽを向いて
唇を手でおさえた
話してる間に少なくとも
三回は唇が触れ合っている
「嗚呼……くっそっ……」
私は舌打ちしながら悪態をついた
「言っとくけど私、こんな軽い女じゃないんだけど」
「これじゃあ、海外ホームドラマで、やたら見せつけるカップルみたいじゃないか」
彼は膝に手を置いて
うなだれていた