皐月 木漏れ日
文字数 755文字
「えっ、ちょっと急にどこ行く気?」
「すぐ戻る」
私は肩越しに振り返って叫んだ
「今の時間、トイレ混んでるぞ」
根津め……
すれ違う生徒達を華麗なフェイントで交わし
階段を勢いよく駆け降りる
あいつが同じ学校だとは
知っていたが
学年も
名前すら聞いてなかった
この前の
バスケでの一件以来
何か大きな『借り』ができたようで
消化できずにいた
靴置き場でローファーに履き変え
玄関から飛び出る
右視界には
校門に寄りかかる先程の男女が
昼間っから抱き合っていた
念のため
あいつではない事だけ確認すると
右側の中庭に続く広い道を走った
新校舎と旧校舎を繋ぐ
二階渡り廊下の下をくぐり
陽射しに反射する新緑が眩しい中庭に到着する
校舎壁に沿って背の高く太い樹木が並ぶ
中央一帯には
四角く区切られたレンガ造りの花壇が
設けられていた
白や紫、黄色のチューリップ
淡いブルーのスミレ
ピンク色のデージー
窓から眺めたマリーゴールド等が
溢れんばかりに植わっていた
まるで
高貴な屋敷の庭園だ
前方向の体育館には
小さな池が備わっていた
鯉やら亀を飼育しているらしいが
噂では
幻の生物が住み着いているらしい
いわゆる
学校の七つの怪談のひとつだ
吹奏楽部の
トランペット演奏が
旧校舎から聞こえてくる
私は無意識に音色を口ずさみながら
花壇とレンガ道を大きく囲う
人工芝の上を一周し
樹林の間の死角を探した
結局いたのは
ベンチに座って会話してる四人の女子生徒と
池の前で座り込んで
亀とはしゃぐ
三人の男子生徒だけで
あいつの姿は
どこにもなかった
それでも私は
首をしきりに巡らせ
隅々まで注意を払った
新校舎二階の廊下窓に
男子と話す麻都佳の背中が見えた
まさか
私が中庭から彼女を見ているとは
気付きもしないだろう
思わず口元が綻ぶ
「あいつ、どこ行ったんだ?」
別に何か話したい事があるわけでは
ないのだが
せめて名前だけでも
知っておきたかった
「すぐ戻る」
私は肩越しに振り返って叫んだ
「今の時間、トイレ混んでるぞ」
根津め……
すれ違う生徒達を華麗なフェイントで交わし
階段を勢いよく駆け降りる
あいつが同じ学校だとは
知っていたが
学年も
名前すら聞いてなかった
この前の
バスケでの一件以来
何か大きな『借り』ができたようで
消化できずにいた
靴置き場でローファーに履き変え
玄関から飛び出る
右視界には
校門に寄りかかる先程の男女が
昼間っから抱き合っていた
念のため
あいつではない事だけ確認すると
右側の中庭に続く広い道を走った
新校舎と旧校舎を繋ぐ
二階渡り廊下の下をくぐり
陽射しに反射する新緑が眩しい中庭に到着する
校舎壁に沿って背の高く太い樹木が並ぶ
中央一帯には
四角く区切られたレンガ造りの花壇が
設けられていた
白や紫、黄色のチューリップ
淡いブルーのスミレ
ピンク色のデージー
窓から眺めたマリーゴールド等が
溢れんばかりに植わっていた
まるで
高貴な屋敷の庭園だ
前方向の体育館には
小さな池が備わっていた
鯉やら亀を飼育しているらしいが
噂では
幻の生物が住み着いているらしい
いわゆる
学校の七つの怪談のひとつだ
吹奏楽部の
トランペット演奏が
旧校舎から聞こえてくる
私は無意識に音色を口ずさみながら
花壇とレンガ道を大きく囲う
人工芝の上を一周し
樹林の間の死角を探した
結局いたのは
ベンチに座って会話してる四人の女子生徒と
池の前で座り込んで
亀とはしゃぐ
三人の男子生徒だけで
あいつの姿は
どこにもなかった
それでも私は
首をしきりに巡らせ
隅々まで注意を払った
新校舎二階の廊下窓に
男子と話す麻都佳の背中が見えた
まさか
私が中庭から彼女を見ているとは
気付きもしないだろう
思わず口元が綻ぶ
「あいつ、どこ行ったんだ?」
別に何か話したい事があるわけでは
ないのだが
せめて名前だけでも
知っておきたかった