水無月    雨宿り

文字数 774文字

国道の脇道から

あいつの家がある

生活道路に入る



今どきの住居が並び

向かいには

耕されたばかりの畑



まだ見慣れてないからか

何気ない遠くの民家でさえ

凄く新鮮で

目に焼きついてしまう



きっと

今日の光景や些細な体験が

思い出として

いつまでも

残るだろうと予感していた



「やってる、やってる」

今日もあいつは

家の前のゴールネットに向かって

シュート練習していた

「あいつ、本当にバスケ好きねぇ」

半ば呆れた口振りの私だったが

また前回の続きがやりたいという

心の声を無視する事もできずにいた

片手は無意識に

Yシャツの襟首を緩めている

近付くに連れ

やけに緊張し身体が固くなるのを

意識した



向こうも今回は

私に気付き

身体が固くなったようだ

一度私の方に首を回した後

なに食わぬ顔でシュートを続けているのだが

全てゴールリングに弾かれていた



「何やってんだか……」

思わず笑みがこぼれてしまう



新田 俊は

私が自転車の速度を

三輪車並に落としているにも関わらず

振り返ろうともしなかった



私は彼めがけて前進し

轢くかどうかの寸前で

自転車を止めた



「おう、北里じゃん」

そこで初めて気付いたかのように

彼は振り向いた

見え透いた演技にもほどがある

私は真顔で彼をしばらく直視した

「何、とぼけてるの?」

次第に彼の口元が痙攣し始めた

笑みを我慢するのに

必死なのだろう

私は車の邪魔にならないか

周囲に気を配る振りをした

実は私も笑みを堪えていたからだ



「また牛乳でも買いに行くのか?」

彼は道路に転がったバスケボールを取りに

私から離れた

背中を丸めてボールを持ち上げると 足元に何回もバウンドさせた



「今日はこれを届けに来たの」

自転車を降りた私は

郵便受けの前に止めて

前籠から包み箱を取りだし彼に差し出した

「この前の牛乳のお礼……もちろん、新田くんのお母さんの分も込みよ」

少々面喰らっていた彼に付け加えるが

さぞ驚いたのだろう

目を見開いて私を見つめ返している



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登場人物紹介

北里 舞 


本作の主人公  

地方住宅街に越してきた 

普通の高校一年だが 

自分の感受性を大事にしている


新田 俊 


舞が買い物帰りに旧住宅街で遭遇する  

バスケをこよなく愛する同級生  

クラスの女子にそれなりにモテる

栗澤   麻都佳 


学校近くのコンビニでバイトする 

舞の同級生にして親友


月成 


麻都佳経由で知り合う事になる

舞の宿敵の同級生 

可愛らしい外見の男子で 

女装してもバレない

織原   香月 


秋冬編から登場 

舞の中学時代の親友だった 

同じ高校に通うも...... 


常磐     景織子 


秋冬編から登場 

香月の親友の美人 

人とあまり関わりたがらない

柏木 

 

どうも景織子が好きらしい別クラス男子


基宏 


舞の中学生時代の思い出に 

出てくる男子

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