皐月   木漏れ日

文字数 726文字

そのうち歩き疲れた私は

校舎側のベンチに座り込んだ


ここで待っていれば

あいつに会えるかもしれない


そよ風が私の前髪をなびかせる

伸ばした足の先には

校舎の影が水平に続いていた

日向に比べ気温が極度に下がり

背もたれがひんやりしていた

そんなベンチの下の

硬い土の表面にも

わずかながら小さな雑草が生えていた

突出した木立の影が優しく揺れる

見上げれば

無数の枝に生い茂る一群の葉が

さざ波のように上下に動いては

擦れ合い

心地よい音をゆっくり奏でていた


薄い葉一枚一枚が

太陽の光に透過され

緑をより発色させる

葉脈は浮き彫りになり

幾重に密着する葉と葉の隙間からは

日光が眩く輝いていた


木立の根元から眺めているせいか

まるで自分が

樹木と一体になり

光合成をしてるかのような

錯覚に陥る


ふと気が付くと

自分の腕も光と影に染まっていた

Yシャツやスカート

たぶん顔も含めた全身が

木漏れ日に包まれているのだろう




校舎の建物に阻まれ

全体は見渡せないが

空は

どこまでも水色で深く透き通っている


日射しを受ける花達の蜜の香りに誘われ

紋白蝶が戯れる

穏やかな風に

茎から花弁がいっせいに揺れ

私のベンチにまで

そのうっとりさせる匂いを運んできた


体育館の壁には

池にできた波紋が水影となって反射されていた

絶え間なく変化する

網模様のシルエットに

自然の神秘を感じてしまう


日常の慌ただしい毎日が

嘘のような一時と光景だ

ふだん

こうしてゆっくり

自然を眺めている機会なんて

自らは決して作らないだろう

文明が提供する娯楽のほうに

意識がいってしまう


どうして今まで

こんな素晴らしいものを

目に止めなかったのだろう


瞳を閉じれば

春の暖かさと

生まれたばかりの緑が吐き出す

新鮮な酸素に

素肌が反応していく


ただ思う事は

夢のような一時が

いつまでも続いて欲しいと

願うだけ……


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

北里 舞 


本作の主人公  

地方住宅街に越してきた 

普通の高校一年だが 

自分の感受性を大事にしている


新田 俊 


舞が買い物帰りに旧住宅街で遭遇する  

バスケをこよなく愛する同級生  

クラスの女子にそれなりにモテる

栗澤   麻都佳 


学校近くのコンビニでバイトする 

舞の同級生にして親友


月成 


麻都佳経由で知り合う事になる

舞の宿敵の同級生 

可愛らしい外見の男子で 

女装してもバレない

織原   香月 


秋冬編から登場 

舞の中学時代の親友だった 

同じ高校に通うも...... 


常磐     景織子 


秋冬編から登場 

香月の親友の美人 

人とあまり関わりたがらない

柏木 

 

どうも景織子が好きらしい別クラス男子


基宏 


舞の中学生時代の思い出に 

出てくる男子

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み