皐月 黄昏
文字数 762文字
払った小銭を素早く受け取るその指先は
細くも柔らかみがなく
関節が際立っていた
間をおかずおつりが返ってくる
「じゃあ、また学校でね」
小鳥がさえずるような美しい声は
仕事中だからか
口調には緊張感が入り混じっていた
手を振る彼女の背丈、体格とも
私と同じ、もしくはやや小さめといったところか
つられて私も手を振る
内巻き毛先のワンレンボブは
狭い額を全部見せ
丸顔をより強調させていた
小さい目の割りに黒目が大きく
力強い視線を感じさせる
薄く小さな唇がわずかに微笑み
えくぼを作る
すぐに次のお客が品物を出し
つまみたくなるようなぺしゃんこの鼻先が
前に向き直った
並ぶお客の列に西島もいて
ソーセージパンとおにぎりを握っていた
私には気付かないのか
視線はじっと栗澤 麻都佳に注がれている
「じゃあね、北里」
声をかけてくれたのは
他女子と話す根津の方だった
それも陳列棚で隠れてしまっているというのに
「目先がきくというか、欲望に全力というか……」
私は鼻で笑って
自動ドアから外に出た
空は全体が真っ赤に染まり
濁る積雲をカラスが通りぬけていく
前の道路はやや渋滞ぎみになっていた
自転車に鍵をかける時
ちょうどガラス窓越しに
クラスメイトの立ち読み少年と
目が合ってしまった
彼は何事もなく読書に没頭し
私も特に興味なかったので
前かごに牛乳を置き
コンビニを後にした
またあのでこぼこ道を通って帰るのかと思うと憂鬱になる
滅多に閉まらない踏切の前で止まり
四両編成の電車が加速していく様子を目で追いながら思う
明るい車内には
高校生達の姿が多く見受けられた
開いた踏切を渡ると
私は通常とは違う
小さな脇道に曲がった
こうして常に
少しでも家に近い帰宅ルートを
探しているのだが
かえって遠回りになり
毎回
『人生に近道はない』というと教訓を
身をもって味わうはめになる
そして今日もまた
懲りずに同じ過ちを繰り返そうとしていた
細くも柔らかみがなく
関節が際立っていた
間をおかずおつりが返ってくる
「じゃあ、また学校でね」
小鳥がさえずるような美しい声は
仕事中だからか
口調には緊張感が入り混じっていた
手を振る彼女の背丈、体格とも
私と同じ、もしくはやや小さめといったところか
つられて私も手を振る
内巻き毛先のワンレンボブは
狭い額を全部見せ
丸顔をより強調させていた
小さい目の割りに黒目が大きく
力強い視線を感じさせる
薄く小さな唇がわずかに微笑み
えくぼを作る
すぐに次のお客が品物を出し
つまみたくなるようなぺしゃんこの鼻先が
前に向き直った
並ぶお客の列に西島もいて
ソーセージパンとおにぎりを握っていた
私には気付かないのか
視線はじっと栗澤 麻都佳に注がれている
「じゃあね、北里」
声をかけてくれたのは
他女子と話す根津の方だった
それも陳列棚で隠れてしまっているというのに
「目先がきくというか、欲望に全力というか……」
私は鼻で笑って
自動ドアから外に出た
空は全体が真っ赤に染まり
濁る積雲をカラスが通りぬけていく
前の道路はやや渋滞ぎみになっていた
自転車に鍵をかける時
ちょうどガラス窓越しに
クラスメイトの立ち読み少年と
目が合ってしまった
彼は何事もなく読書に没頭し
私も特に興味なかったので
前かごに牛乳を置き
コンビニを後にした
またあのでこぼこ道を通って帰るのかと思うと憂鬱になる
滅多に閉まらない踏切の前で止まり
四両編成の電車が加速していく様子を目で追いながら思う
明るい車内には
高校生達の姿が多く見受けられた
開いた踏切を渡ると
私は通常とは違う
小さな脇道に曲がった
こうして常に
少しでも家に近い帰宅ルートを
探しているのだが
かえって遠回りになり
毎回
『人生に近道はない』というと教訓を
身をもって味わうはめになる
そして今日もまた
懲りずに同じ過ちを繰り返そうとしていた