文月    蜃気楼

文字数 819文字

梅雨が明けると同時に

空には巨大な入道雲が姿を現した



みずみずしかった住宅街の庭木も

密林のように厚かましく成長し

歩道のコンクリート壁からは

根強い雑草が至る場所から生えていた



早朝からギラギラした日光が

家の屋根とポストを照らし

熊蝉の連続的な鳴き声が

けたたましく鳴り響く



私は買ったばかりの赤い原付スクーターで

白ヘルメットから

長い髪をなびかせ

近所の公園へ向かった



今までの

日曜フルタイムと週五日のバイト

更には夏休み連続フル出勤のおかげで

こんなにも早くバイクを手に入れる事ができた



免許の試験を一発で合格するため

先に取得した麻都佳から

コツを学んだのも功を奏したのだろう



二車線道路をアーチ状に囲う落葉高木が太陽を隠し

アスファルトに影が覆うと

半袖シフォンブラウスの胸元に入ってくる風が冷たくなった

このアイボリー色とバルーン肩が

物凄くお気に入りで

制服以外はほぼこれを着用している

はためくキュロットはベージュ色で

青に白玉ドットのリボンベルトでとめている

踝までの黒靴下に白のスニーカーなのは

動きやすくするためだ



ハンドル下のフックに吊るしてある丸みを帯びた朱色の2wayレザーバックは姉のお下がりで

今から彼女の家までひとっ走りする予定だった



横断歩道のない脇道に曲がり

幾何学模様のような石畳の小道を減速し公園に止まる



歩道に設置した自販機の前で

スクーターから降りる

再び照りつける陽射しに

私は手を団扇代わりに扇ぎ

もう一方でヘルメットを脱いだ



低木と雑草に囲まれた住宅四世帯分の土地には

すでに近所の小学生達が数グループ遊んでいた

四方の隅にベンチと外灯があるだけで

遊具らしいものは何もなく

草原と呼ぶ方がふさわしいかもしれない



麻都佳が公園に来ているのは

入口のガードパイプ奥に

白いスクーターが停まっているのでわかっていた

偶然にも同じ型の黒スクーターが隣りに寄り添っている



この時

私は妙な胸騒ぎがするのを抑えられずにいた



麻都佳を探して首を巡らすと

左隅のベンチで

彼女が大きく手を振っていた


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登場人物紹介

北里 舞 


本作の主人公  

地方住宅街に越してきた 

普通の高校一年だが 

自分の感受性を大事にしている


新田 俊 


舞が買い物帰りに旧住宅街で遭遇する  

バスケをこよなく愛する同級生  

クラスの女子にそれなりにモテる

栗澤   麻都佳 


学校近くのコンビニでバイトする 

舞の同級生にして親友


月成 


麻都佳経由で知り合う事になる

舞の宿敵の同級生 

可愛らしい外見の男子で 

女装してもバレない

織原   香月 


秋冬編から登場 

舞の中学時代の親友だった 

同じ高校に通うも...... 


常磐     景織子 


秋冬編から登場 

香月の親友の美人 

人とあまり関わりたがらない

柏木 

 

どうも景織子が好きらしい別クラス男子


基宏 


舞の中学生時代の思い出に 

出てくる男子

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