水無月 満月
文字数 763文字
「送っていってやるよ」
「そんな、いいって」
躊躇せず
私は彼の後ろに座って断った
「私、見た目より重いし」
二人の頭が濡れない
ちょうど中心に傘をさす
何か言いたげに彼が振り返り
訴えかける目で
私をしばらく見つめた
「こいでいいわよ、どうかした?」
彼が呆れたようにため息をつき
母の自転車をこぎ始めた
片手で傘を持つ私は
バランスを崩しそうになり
軽く悲鳴を上げる
「もう片方の腕、俺の背中に回せよ」
これこそ私は躊躇っていた
「今さら、何照れてんだよ」
「新田くんって、繊細そうなわりにデリカシー無さすぎ」
前腕を彼のお腹に持っていくと
自然と彼の背中に顔が埋もれる
Yシャツ通しに彼のやや高い体温が
頬に伝わってきた
再び胸の鼓動が高まり全身が固まる
頭の中が真っ白になり
言語を口に出す習慣すら忘れてしまった
空気を裂く雨音に混じり
濡れたアスファルトをタイヤが擦る滑らかな音が耳に入ってくる
時折
電線に溜まった雨雫が傘に落ちた
ブロック塀から顔を出す庭木の大きな葉には
カタツムリが気持ち良さそうに
散歩していた
どこかの家からピアノの練習音が聞こえ遠のいていく
紫陽花が輝きを増し
草木の青っぽい匂いが嗅覚を刺激する
国道に出ると自転車がいったん止まる
「どっち?」
彼の声の調子も固く不自然になっていた
「左にずっと進んで」
勿論
私も彼と同じた
喉がやたら渇く
無言が続いていた
定期的に自動車が私達を追い抜き
または前からすれ違う
傘を叩く雨音の間隔が広がり
灰色の空に明るみが増していく
一面黄緑広がる田んぼの先の雲の切れ目から
幾重もの薄明光線が
鉄塔下の苗木に射し込み
明るく照らすと
アスファルトに咲く水滴まみれの雑草すら
美しく思えてきた
雨が完全に止んだと確認すると
途中で私達は別れた
無意識に彼の後ろ姿に目をやると
向こうも振り返っていた
私はぎこちない笑顔で手を振る
彼も綴じた傘を握る手を上げていた
「そんな、いいって」
躊躇せず
私は彼の後ろに座って断った
「私、見た目より重いし」
二人の頭が濡れない
ちょうど中心に傘をさす
何か言いたげに彼が振り返り
訴えかける目で
私をしばらく見つめた
「こいでいいわよ、どうかした?」
彼が呆れたようにため息をつき
母の自転車をこぎ始めた
片手で傘を持つ私は
バランスを崩しそうになり
軽く悲鳴を上げる
「もう片方の腕、俺の背中に回せよ」
これこそ私は躊躇っていた
「今さら、何照れてんだよ」
「新田くんって、繊細そうなわりにデリカシー無さすぎ」
前腕を彼のお腹に持っていくと
自然と彼の背中に顔が埋もれる
Yシャツ通しに彼のやや高い体温が
頬に伝わってきた
再び胸の鼓動が高まり全身が固まる
頭の中が真っ白になり
言語を口に出す習慣すら忘れてしまった
空気を裂く雨音に混じり
濡れたアスファルトをタイヤが擦る滑らかな音が耳に入ってくる
時折
電線に溜まった雨雫が傘に落ちた
ブロック塀から顔を出す庭木の大きな葉には
カタツムリが気持ち良さそうに
散歩していた
どこかの家からピアノの練習音が聞こえ遠のいていく
紫陽花が輝きを増し
草木の青っぽい匂いが嗅覚を刺激する
国道に出ると自転車がいったん止まる
「どっち?」
彼の声の調子も固く不自然になっていた
「左にずっと進んで」
勿論
私も彼と同じた
喉がやたら渇く
無言が続いていた
定期的に自動車が私達を追い抜き
または前からすれ違う
傘を叩く雨音の間隔が広がり
灰色の空に明るみが増していく
一面黄緑広がる田んぼの先の雲の切れ目から
幾重もの薄明光線が
鉄塔下の苗木に射し込み
明るく照らすと
アスファルトに咲く水滴まみれの雑草すら
美しく思えてきた
雨が完全に止んだと確認すると
途中で私達は別れた
無意識に彼の後ろ姿に目をやると
向こうも振り返っていた
私はぎこちない笑顔で手を振る
彼も綴じた傘を握る手を上げていた