皐月   黄昏

文字数 767文字

建ち並ぶ住居で目立たない路地はしばらく続き

やがて

だだっ広い畑に遮られた

もし直通できれば

距離を大幅に短縮できるのだが

やはり考えは甘いようだった

仕方なく

T字に別れた片側の道を進み

主要道路に合流する事を願う



その先では

道の真ん中で

買い物袋を下げた若い母親が

後ろでしゃがみながら

ミニカーを走らせる幼児を

待っていた

前方に並ぶ

今どきの二階建て住宅の屋根に

夕陽が隠れようとしている

列を成す住居の影に覆われた小道は

黄色を帯びた畑沿いに緩いカーブを描いていく

どこかの家から味噌汁の匂いが

風に乗って運ばれてきた



ボールがアスファルトを叩く音が

ブロック塀に反射している

三つ先の電柱のところで

制服姿の男子高生が

姿勢を低くし

バスケットボールをついていた



近付くにつれ

住居の黄色い壁前に

バスケのゴールが

立ってあるのが確認できた

続いていたブロック塀が途切れると

その住宅に敷かれている砂利が

目につき

サイクリング用の自転車が

壁に

もたれかかってあった

敷地は狭そうだが

なぜか絵になる家だ



彼のシュートが

ゴールリングで外れて

斜め下の郵便受けに落ちると

大きくバウンドした



背の高く細身の彼が

しなやかな身のこなしで

夕陽を背景にする姿が

映画のワンシーンのように

格好が良く

それだけにゴールが決まらなかったのが

私にはツボだった



自分でも失礼とは思いつつ

口に手を当てながらも笑いを漏らす

だが

その笑いはすぐに驚きの声に変わった



バスケットボールが見事に

私の前かごに入ったのだ

当然

牛乳パックは破損し

白い液体が

ビニール袋の中でこぼれていった



「ふざけっ……!」

慌てた私は自転車を止めて

ビニール袋に手を伸ばしたが

すでにこぼれたものは

どうなるものでもなく

しばらく途方に暮れていた



「災難だったな」

男子高生が近付く

彼はすっぽりはまったボールを

かごから引っこ抜き

汚れてないか確認していた

私は鋭い目つきで彼の顔を見つめた

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登場人物紹介

北里 舞 


本作の主人公  

地方住宅街に越してきた 

普通の高校一年だが 

自分の感受性を大事にしている


新田 俊 


舞が買い物帰りに旧住宅街で遭遇する  

バスケをこよなく愛する同級生  

クラスの女子にそれなりにモテる

栗澤   麻都佳 


学校近くのコンビニでバイトする 

舞の同級生にして親友


月成 


麻都佳経由で知り合う事になる

舞の宿敵の同級生 

可愛らしい外見の男子で 

女装してもバレない

織原   香月 


秋冬編から登場 

舞の中学時代の親友だった 

同じ高校に通うも...... 


常磐     景織子 


秋冬編から登場 

香月の親友の美人 

人とあまり関わりたがらない

柏木 

 

どうも景織子が好きらしい別クラス男子


基宏 


舞の中学生時代の思い出に 

出てくる男子

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