水無月    雨宿り

文字数 779文字

灰色のどんより雲が空一面を覆う

新興住宅地の

中心に伸びる二車線道路には

滅多に自動車が通る事はない





自転車で中央線を

突っ走るのは

実に爽快で

こんな経験は

引っ越す前の都市生活では

あり得なかった


これまでといえば

青空を隠すビルとマンション

歩道には

誰かしら歩いているわずらわしさ

車道から絶えず聞こえてくる

車のエンジン音


そんな光景はもう彼方の世界

約束されたのは自由と開放感

私を包み込む向かい風が

排気ガスを含まない雨の匂いを運んでくれる


両歩道に列を作る

グリーンコーンの木が

緑をふんだんに描き

庭の芝生を囲う手入れされた木々は

生き生きと生い茂っていた


五月の新緑は鮮やかな活力と

爽やかな風を連想させたが

同じ緑でも

六月は成熟し落ち着いたイメージを

木立から感じ取れた

空気が湿気を含み

海底にいるような淀みは梅雨入りのせいだろうか

青、白、紫の

紫陽花がレンガ壁の前で咲き乱れる


小学校から子供達の下校の放送が

町じゅうに響きわたると

新築住居のドアから

若い主婦達が姿を現し

郵便受けの前で

世間話をし始める


前方から

ワゴン車タイプの無料送迎バスと

同じ大きさの幼稚園バスが

続いて走ってきた

私は歩道側に寄り

すれ違いざまに立ちこぎして

中を覗いてみた

予想通り空席が目立つ

だが

それがいいのだろう


ふいに見上げた雲からは

今にも雨が降ってきそうだ

前籠に丁度入った包み箱が心配になり

私はペダルに力を込めた

「まさか、牛乳がこんな高くつくとはね」


私の住む

街路樹豊富な

新興住宅地区を出ると

景色は一転し

閑散とした田んぼが広がる

国道に変わった


規則正しく並ぶ苗が

そよ風になびく

合間の水田が煌めいていた






通学時や

最近始めたバイトの行き帰りに

何度も見る光景だが

不思議と飽きる事がない


新田の奴は

生まれ育ったこの町の景色から

カタルシスを得たりするのだろうか?


たぶん質問の意味が

理解できないだろう

まあ

それは後で聞けばいい

もし家にいればの話だが



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

北里 舞 


本作の主人公  

地方住宅街に越してきた 

普通の高校一年だが 

自分の感受性を大事にしている


新田 俊 


舞が買い物帰りに旧住宅街で遭遇する  

バスケをこよなく愛する同級生  

クラスの女子にそれなりにモテる

栗澤   麻都佳 


学校近くのコンビニでバイトする 

舞の同級生にして親友


月成 


麻都佳経由で知り合う事になる

舞の宿敵の同級生 

可愛らしい外見の男子で 

女装してもバレない

織原   香月 


秋冬編から登場 

舞の中学時代の親友だった 

同じ高校に通うも...... 


常磐     景織子 


秋冬編から登場 

香月の親友の美人 

人とあまり関わりたがらない

柏木 

 

どうも景織子が好きらしい別クラス男子


基宏 


舞の中学生時代の思い出に 

出てくる男子

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み