第8話  嬉しいアドバイス。

文字数 873文字

見かけによらない、とは、期待よりも現実が高い場合にも使えるだろうか。

東京、郊外の雑居ビル。(オーナーはこう呼ばれたくないだろう)
でも富士そばや、いきなりステーキや、猫カフェや、サカゼンもあるのだから
間違いではないだろう。
失礼を承知で表現すれば、あまり人気のないビルである。
リニューアル前は、街の名物ビルで、老舗かつ特徴的な店が多く入っていた。
それが(様々な理由はあっただろう)リニューアル後は、俗にいうチェーン店ばかり
になって、一言でいうと、面白くなくなった。

その中に、そこそこ名前の知れた靴屋さんがある。でもビル自体に人気がないから
お客さんが入っている場面もあまり見ないし、私もそこで買ったことはなかった。

しかし、時間もなく、探し物もあったので、ふらりと寄ってみた。
私の用件は、最近買ったスニーカーに「中敷き」を入れたい、ということだ。
ひとしきり迷っている私に、若い男性スタッフが声をかけてくれた。
私は持っているブランドの名前を告げ「これで大丈夫ですか?」と聞いた。

そうすると彼は、その明快な言葉と、丁寧な単語を選び、ここにある中敷きでは
スニーカーのシルエットが崩れる、と教えてくれた。
入らない、とは言っていない。入るけれども、木型の違いで、広がってしまう
部分が出るという。
そればかりか、その解決法と、そのブランドの生産国による違いを教えてくれた。
そして自身も、古着屋でスニーカーを購入した際には、中敷きを入れ換えるという
実体験に基づいた説明をしてくれた。
私の足は、万人とことなり、細くて薄い。なのでマッチするモデルが極端に少ない。
けれど、そのスニーカーは「見た目」で買った。40年ぶりに履く、スタンダードな
アメリカのブランドだ。
予想通り、歩いているうちに違和感を感じてきたので、これも予想通りに中敷きを
変えようと考えたのだ。

人気のないビルの中にある、変哲のない靴屋。けれども、そのに働くスタッフは
思いがけず、靴に大きな愛情を持ち、十分な知識で私を安心させてくれた。
次の休日には、そのスニーカーを履き、彼に中敷きを選んでもらおうとおもっている。







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