第4話

文字数 498文字

 朝食にはデザートがついていた。昨晩コンビニで買ったロールケーキだ。半分になっている。また太らせる気か、と手渡した時には冗談とも本気ともつかぬ表情だった妻。若い頃は、お土産に買ったドーナツなどはその晩のうちに平らげていたものだ。が、現在の状況はこうである。朝まで待ち、朝食の準備をしながら、彼女が半分食べた訳だ。何故半分なのだろう。お土産なのだから全部食べてくれていいのに。まあ、買ってきた夫にも分けようというのだから、優しさなのだと受け取ることにしよう。

 普段通り、熱さと戦いながらコーヒーを飲み込んで自室のドアを開ける。いってらっしゃいの言葉が温かい。お土産の効果は抜群である。例の交差点で信号が変わるのを待ちながら、自動ドアのガラスをちらりと伺った。あの娘はやはりいないようだ。寂しいような、ホッとしたような、不思議な気持ちになりながら、駅へと急いだ。
 
 電車の中で、若手に任せたプレゼン資料のことを考えた。そして、褒め方と怒り方をシミュレーションした。午後には、当然自分も顧客のところへ出向くだろう。うまくいけば、打ち上げがあるかもしれない。週末だから。

 うん? 今日は早く帰りたいなあ。
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