第16話

文字数 499文字

 例の案件は順調だ。若手の成長が喜ばしい。しかし、出来る部下は出世も早い。定年まで自分の居場所を保てるだろうか。不安材料でもある。まあしかし、残業が減りこの時間の電車に乗れるのは有り難い。
 そしていつものコンビニに寄る。あの娘の「いらっしゃいませ!」は清々しい。いつもの平日がやってきたと実感する。特に買うべきものがないが、シェイバーでも買い置きしよう。三本入りのデレットセンサー。少し高いが、この四枚刃は使い心地が良い。
 当然右のレジだ。シェイバーだけでは勿体ない。鶏唐揚げを注文してしまった。わずかな会話から(にじ)む笑みを殺しつつ、その隙にネームプレートを確認する。「たかは○」。最後の一文字が見えないが、記憶に間違いはない。

 ありがとうございました~

 事務的な響きを受け、店を出た。しかし、収穫は十分だ。唐揚げを頬張りながらゆっくりとマンションに向かった。勤務表を覗くゆとりはなく、もちろん質問はできない。謎は謎のままだった。

 自宅の玄関を開け、おなか空いたなあ、と妻に聞こえるように呟く。なんだかスリリングだ。もちろん唐揚げのゴミは秘密裏に処理した。

 うーん、分からない。ええい、明日も観察だ!
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