第27話

文字数 500文字

 アナタ、ちょっと……

 自室に戻り、リビングの椅子に腰かけた途端だった。アナタ、と呼ばれる時は良い話題ではない。姿勢を正し、妻を見た。

 薮内さんとこの奥さん、美人ね。

 この切り出し方。ちょっと出し惜しみ的な投げかけ。これは宜しくない流れだ。こういう時は、なるべく喋らないに限る。「なーに言ってんだ、うちの嫁さんに適う女性はいないよ」なんて笑って言えたのは、何年前までだったろう。とりあえず、適当に相槌を打っておく。

 アナタ、お知り合い?

 そうか、これはコンビニの件は言っておかねばなるまい。いや、それは知っているはずだが。

 角のキブンの、店員さんだよな? 

 次に妻がどう出るのか。手掌を開き、汗を乾かす。

 そうよね。あれだけ通っているから、ご存じよね。

 いや、娘が言っていただろう、と反論するのはおそらく逆効果だ。それにしても、「あれだけ通って」、「ご存じ」とは、何を言わんとしているのだろう。それ以上の何もないことは、自分が一番よく知っているのだ。

 その割にリアクションがない、っていうかね。

 一体どんな反応をしろと言うのだ。何をしても演技風になり、白々しいだろう。

 

 ええい、娘、早く帰ってこい!
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