第8話

文字数 499文字

 エントランスを飛び出したが、もちろん急ぐ用事ではない。彼女はまだ働いているのか? どうしても焦る。横断歩道の点滅信号は、「走れ」のサインだ。

 いつもの自動ドア、いつもの声。間に合った。もう走ってはいないが、脈拍が下がらない。毎日、同じシフトなのだろうか。夕方までなら、休憩を入れてフルタイム並みだ。中間管理職としては、俄然興味が湧いてくる。危険な兆候だと自覚するが、こんな気持ちは久しくなかったもので、意外に心地よい。

 冷凍コーナーには蓋や扉がなく、容易に商品を手にすることができる。好みは板チョコが挟まったモナカやラージコーン。昔からこれだ。娘のリクエストは氷菓系。貧血なのかもしれない。

 が、箱入りのダーゲンハッツ製品を三つ手にしていた。三種類別のもの。こうしないと我が家の女性陣は納得しない。三分の一ずつ味わうことになるが、本当は一人で一個丸々を食べたい。まあ、仕方が無い。並ぶレジはもちろんもちろん右だ。家族想いのリッチなお父さんを演じるが、彼女の目にはどう映っているのだろう。

 次の番まで来たその時、気付いた。マイバッグを忘れたことに。


 しまった! 最寄りのコンビニは別ブランドなのだ。
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