第20話

文字数 495文字

 公認を得てキブンイーブンを訪れる。それでもマイバッグは持参した。先週のこの時間は働いていた。が、いない。休憩やバックでの作業中ではないか、と考え二十分ほど粘ったが姿は見えない。彼女が新婚であることを思い出し、納得する。もしかしたら明日が結婚式かもしれない。自分の娘はまだ高校生で、全く想像できないが、娘を嫁に出す寂しさとは、これに近いのだろうか。しかし、彼女は改姓後もこの街で働いていた。新居も近所ということなのだろうか。

 プリンの棚の前に長居するオヤジはかなり怪しい。ようやくそこに思い至り、生クリームがトッピングされたプリンを三つ、カゴに入れた。個人的にはグレゴの大きなプリンが好きなのだが、家族の和を乱す必要はないだろう。

 右のレジに立ち、「ちょう」という女性にカゴを差し出した。中国人だろうか。この街も国際的である。小柄な人だったので、イクセルシートがよく見えた。「矢口真紀子」の下は「薮内愛菜」。「あいな」は失礼ながらもっと若そうな名前だ。顔立ちも「まきこ」が似合う気がする。


 ミズキのお姉さんの新しい苗字は、「やのくち」さん?


 ああ! 娘に質問する度胸なんて、あるはずがない。
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