第27.5話 (後半)

文字数 3,066文字

 シルビアとアデリーナが右手のひらを突き出したのは同時だった。
 2人の手のひらに集まる魔力が同時に氷と炎に変化し、勢い良く伸びていく。互いの魔力がぶつかり拒絶反応により大きな衝撃波を生み出した。
 アデリーナの炎がシルビアの氷をしばらく受け止めていたが、圧倒的な魔力量の前でそれは長続きしない。勢いよく押し返されたアデリーナを大量の氷が襲う。瞬時に魔法障壁を展開するが、その衝撃は凄まじく体ごと後ろへと飛ばされた。
 長い衝撃を何とか受け止めきったアデリーナは空中で静止し遠くにいる氷の魔女を見つめる。300メートル近く引き剝がされていた。
 アデリーナの攻撃が肩慣らしであったのは言うまでもない。表情を変えることなくシルビアにアデリーナはもう一度右手を伸ばした。
 ——氷の魔女が強いのは始めから分かってる。一人では勝てないからこそ、今は少しでも時間を稼ぐ!
 アデリーナの信念を乗せた魔力が黄色い輝きを放ち溢れ出す。
「エデンの雫!」
 掛け声と同時に飛び出した体全身を包めるほどの巨大な光線が氷の魔女へと飛んで行く。
 氷の魔女は左手を前に突き出し、アデリーナの攻撃を魔法障壁で受け止める。同時に右手を懐に置き何かを掴むように魔力を練っていた。
 すると瞬く間に氷の魔女の周りから10匹の蛇が生まれアデリーナに向かって伸びていく。
 アデリーナの渾身の一撃を防ぎながら同時に攻撃を仕掛けてくるシルビア。
 氷の蛇がアデリーナに牙を向けた。その氷の周りに走る膨大な電撃。プラズマが全身に走っているのが分かった。
 アデリーナ本能が逃げろと訴えてくる。それは『果ての海域』で見た大蛇を思い起こさせた。蛇との距離が1メートルを切った時、アデリーナは攻撃を辞め横へと勢いよく飛び出した。
 アデリーナの目の前を勢いよく通り過ぎていく10匹の蛇。そこまでは予想通りだったが、シルビアの攻撃は簡単に予想を超えてくる。アデリーナに一番近い胴体から新たな顔が生まれアデリーナに向かって牙をむく。さらに遅れて通り過ぎて行った蛇たちがアデリーナの方に向かって伸び始めた。
 魔法で戦く経験がなかったアデリーナ、更に初めて戦う相手にどうしても一歩遅れての対応しかできない。
 10匹から20匹に増えた蛇の追撃をアデリーナはただひたすら逃げてかわした。今は魔女の戦い方になれることが先決。そして、他の炎の魔女との合流が勝機への道だと考えたからだ。
 しかし、アデリーナの逃がすまいと伸びる蛇はさらに勢いを増して伸びてくる。その度に横に回避すれば更に蛇の数が増えていった。
 瞬く間に増えていき500を超えようとした時、氷の魔女から蛇の体が伸び続けているのが目に見えた。
 恐らく、体が繋がっている以上魔力は永遠に続き、永遠に体も伸び続け更に避け方を間違えれば数がさらに増えつつ蹴ることを察した。
 それは蛇の顔の数が増え続けているのも関わらずが、蛇一匹から感じ取れる魔力量が変わってないことからもうなずける。
 アデリーナは一旦、上空から一気に急降下し住宅街へと逃げ込んだ。それを追うように500匹はくだらない蛇がアデリーナの後を追うように急降下する。
 アデリーナは住宅街を四方に曲がりながら撹乱し進むが蛇も同様にアデリーナ追う。
 しかし少しずつアデリーナを見失い蛇の数が減っていった。アデリーナの計画通り見る見るうちに蛇の数が減り10匹を切った時、それは起きた。
 アデリーナの攻撃を受け止めるために使っていたシルビアの左手が今は開いている。氷の魔女の指先から放たれた5本の氷の槍がとてつもない速度で飛来する。ギリギリで何とかかわすことができたアデリーナだったが、その槍は建物を拭き取し近くにいた蛇の体から頭が伸びてくる。
 アデリーナは雨の様に飛来する氷の槍を交わしながら増え続ける水の蛇の攻撃を回避し続けた。
 初めに水の蛇を全て焼き払っていれば良かったが、後悔しても仕方がなかった。迫りくる水の蛇に攻撃を放っても、数は一向に減らずむしろ一瞬速度が送れることにより、蛇は増える一方だった。
 それに対しさらに拍車をかけたのが、氷の槍。
 蛇の攻撃を打ち破ろうと氷の魔女の根元から伸びる蛇の胴体に近づこうとしても無数に放たれ続ける氷の槍が進行を妨害する。
 その間にも蛇は増え続け、10万を超える。しかし、それでも収まる様子はない。
 しかし、現状を変えるには危険を冒すしか方法はほかになかった。魔力が尽きない氷の魔女の圧倒的な魔力の浪費。それによって生み出される無数の蛇。
 アデリーナは空へと飛び出し、氷の魔女に向かって飛び出した。あらわになるアデリーナに対し氷の魔女の左手から放たれる氷の槍はより熾烈を極めた。
 近づけば近づくほど回避がより短くなる。
 大地にはまるで縄が張られたように無数の蛇の胴体が見える。そしてそれは一斉にアデリーナに向かって飛び始めた。
 プラズマを身に纏う蛇に比べ氷の槍は速度こそ恐ろしいが威力はそんなに恐ろしくはない。
 だからこそアデリーナは氷の槍の周りに纏わりつくもう一つの魔力に気付いていなかった。
 無数の氷の槍の一本がアデリーナの右足に刺さった時、体に流れる拒絶反応を感じ取った。嫌な予感をしたアデリーナは急いで足を燃やし落した。
 しかし、それと同時に意識が遠のく感覚を覚える。やはりアデリーナの予想通り氷の槍には強力な幻惑魔法の毒が吹き込まれていた。
 勢いを落とすアデリーナに更に無数の氷の槍がアデリーナを襲う。地上からは大量の蛇が四方八方からアデリーナに向かって伸びてた。
 すぐに全身に魔法障壁を展開するが氷の槍と蛇の攻撃はとどまろことを知らない。一瞬で魔法障壁を全て包み込んだ蛇がプラズマを身に纏った牙で魔法障壁に噛みついた。
 何度も何度も圧縮するように全方向から噛みつかれる。更に、蛇もろとも巻き込んで放たれる氷の槍が、蛇の体を吹き飛ばし更に顔を増やしていった。少しずつ魔法障壁がきしみ始めるのを感じた。
 そして次に明らかに音が鳴る。それはガラスにヒビが入る音に似ていた。
 ——メシメシッ——メシメシッ‼
 更に2度響き、目に見えるように魔法障壁にひびが入る。さらに続けて氷の槍が勢いを増す。
 無数に伝わる衝撃がアデリーナの腕を襲った。次第に腕が痺れはじめ、更にアデリーナの体に入った毒が体を汚損していき、意識を侵食し始める。
 そして最後に響いた。
 ——パリンッ‼
 それが魔法障壁が砕け散ったことを伝える。アデリーナの意識も魔法障壁が砕け散る音と同時に途絶えた。
 アデリーナを無数のプラズマの牙が襲う。数万の牙がアデリーナの体を食い破り、体中で拒絶反応が起きる。
 絶叫したアデリーナはあまりの激痛に我を忘れ、体中から血をまき散らしながら空へ飛び出した。それを追いかけるように蛇は伸びていく。
 アデリーナにとどめを刺すように打ち出された氷の槍が両目に突き刺さり、更に首、胸、腕体と体中に突き刺さった。
 完全に動きが止まったアデリーナの体を地面から伸びた無数の蛇が噛みつき、無数の蛇が体全身を覆った。
 アデリーナの動きが途絶えると同時に、これでもかとシルビアの追撃がアデリーナを襲う。
 無数の蛇の体が氷の魔女の根元から一瞬にして凍り付き、ラベンダーノヨテ聖域国全土が冷気に浸食された。
 この国の中央に突如として出来上がった巨大な氷のラベンダー。その中心を深く色づけるようにアデリーナのすりつぶされた体と血が染めていた。
 それは世界に一人の炎の魔女の死を見せつける。
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登場人物紹介

アデリーナ (主人公)

魔女の眷属として召喚された騎士 誇り高く凛々しく正義感が強い

ブル―のことが好き

ブルー・デ・メルロ

魔女の眷属といて召喚された騎士 感情の起伏が薄く口数が少ない

アデリーナを気にかけている

シルビア・デ・メルロ

氷の魔女 ラベンダーノヨテ聖域国の女王

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