第16話 炎の魔女

文字数 7,639文字


 アデリーナの視界の先映る苦しむ先生の姿とその前に立つシルビア様、そしてブルー。すべてを察したアデリーナは覚悟を決め飛び出した。
「先生を離して!」
 氷の魔女の元に突進するアデリーナ。その前に立ちはだかったブルーがアデリーナの言葉もろとも剣で切り伏せる。力の差は歴然で相手にすらならない。何もできず吹き飛ばされたアデリーナはそのまま地面にたたきつけられた。這いつくばる地面の上で自分の弱さを自覚する。
視界の先に映る鋼のかけら。それは粉々になった先生の剣の一部だった。剣が砕けようとも先生の心は鋼の様に固く、何度でも立ち上がった。立ち止まってはいけない、進まないといけない。
 アデリーナは立ち上がもう一度ブルーに挑む。何度も何度も、ボロボロになりながらも挑み続けた。
 ブルーと剣を打ち付けるたびに、その先で必死になって氷の魔女の魔法にあらがっている先生の姿が見える。
 アデリーナは失いたくない、この思い出を消したくはないといつも読んでいる名前を叫んだ。
「先生!」
 その言葉に反応した先生は苦痛に顔をゆがませながら、アデリーナに目線を向け言葉を返す。
「逃げなさい!私が意識のある間に、あとは大丈夫だから」
 ブルーの剣がアデリーナを剣もろとも吹き飛ばす。地面に倒れたアデリーナはまた立ち上がり叫んだ。
「嫌です!」
 先生の言葉を否定するようにもう一度ブルーに立ち向かう。簡単にアデリーナの剣を受け止めるブルーは柔らかい声で助言した。
「先生の言う事。素直に聞くべき」
 その言葉と同時にブルーの斬撃がアデリーナの鎧を砕き皮膚を切り裂く。更に地面から伸びる氷の棘がアデリーナの足を貫き、続けてブルーの回し蹴り兜を打ち破り体もろとも吹き飛ばす。
 深く斬られ体と頭から血を流し、両足の脛の上に氷の棘が突き刺ささっている。立ち上がろうとすると足に走る激痛に、うまく立ち上がることもできない。
 朦朧とし始める意識の中、アデリーナはもう一度立ち上がろうと剣で体を支える。
 顔を上げるとブルーの追撃の氷の棘が迫っているのが見えた。しかし、今のアデリーナにその技を防ぐ手段はない。
「アデリーナ!」
 先生の叫び声に答えるように痛みに耐えながらアデリーナは手を伸ばす。
「まだ」
 朦朧となる視界の先に映る必死に耐える先生にアデリーナは言葉を返すが、その先が続かない。
 20十本にも及ぶ氷の刃がアデリーナを襲う手前で聞き覚えのある2人女性の声が重なって聞こえた。
「「迅風」」
氷が砕け散ると2人の赤騎士がアデリーナの前に着地する。
「今は体の修復を優先して、ヴィットリア先生は私達に」
「ここは任せな、先生を助けたいのはあんただけじゃねえよ」
 それは赤騎士のサラとミヤだった。
 アデリーナはその2人の言葉に素直に返事を返す。
「はい」
 サラとミヤはアイコンタクトを取ると同時に駆けだした。
 ミヤが剣を後ろに引き、その後ろにサラが付く。
「火焔龍破!」
ミヤは掛け声と同時に地面を引きずるように大きく前に剣を振りかざし、自分の体を包めるほど大きな炎の竜巻を作り出す。それは赤騎士達の得意とする技。
 続けて、サラはミヤと立ち代わり炎の竜巻に剣を差し込み叫んだ。
「エデンの光!」
 サラの剣先から光り輝く星ができた。それは炎の竜巻と重なり流星となってブルーを襲う。しかし、ブルーは2人の合わせ技に一切臆する様子はない。ただ剣をまっすぐ伸ばすと片足を大きく地面に踏み込んだ。
 ブルーの足元から勢いよく氷が伸びて行く。それは、サラとミヤを囲うように地面から伸びていき大きな柵を作り出す。更に、ブルーの剣先が青く光り中世的な声が囁かれた。
「アークレイン」
 ブルーの剣先から伸びた一つの水流が流星を受け止めた。
「いって!」
「いけぇえええ!」
 サラとミヤ二人の掛け声に答えるかのように流星は更に輝きを増し、ブルーの水をじりじりと押していく。ブルーまで3メートル、2メートル、1メートル。
 当たると思われたその時、ブルーが言葉を口にする。
「私は。負けない」
 その言葉と同時にさらにブルーの体から魔力が膨れ上がる。水流は流星を貫き、ミヤの横腹を鎧もろとも貫いた。
「ミヤ!」
 流星の爆発と同時によろめくミヤ。サラは咄嗟に手を伸ばすがミヤに怒鳴り返される。
「大丈夫だ!それよりも今は戦闘に!」
 痛みに必死に耐え叫ぶミヤのおかげで冷静さを取り戻したサラは爆発した砂煙の先に目を凝らすと、中から青く光る輝きが見えた。
「来るぞ!」
「ええ!」
 ミヤの怒鳴り声にサラは頷き剣を真っ赤に光らせた。煙の中から飛び出してくるブルーの斬撃を両手で受け止めるが、少しずつ後ろへと押されていく。
「なめんな!」
 体勢を立て直したミヤがサラとブルーの鍔迫り合いに加勢する。二人の赤く輝く剣がブルーの青く光る剣を押し返していく。
 対するブルーは冷静な顔で押し返してくる2人の赤騎士を見つめていた。
「そう」
 静かに声の後に、ブルーは片手で握っていた剣に両手を添え勢いよく力を籠める。突如かけられた途方もない圧力に2人は吹き飛ばれ氷の柵に背中を打ち付ける。
「グラスメリジューヌ」
 氷の壁から伸びる蛇が2人の体を拘束する。さらにブルーは片手をサラに向けて魔法を唱えた。
「ライア」
 鋭利な氷の槍が出来上がり、ゆっくりとサラにむけられる。
「小癪な魔法を!騎士なら剣だけで戦え!」
 拘束されたミヤがサラをかばうように自分の方へと注意を向かせる。ブルーはミヤの方にその槍を向けると静かにいった。
「そんなに死にたい。先に殺してあげる」
「へ、そんなんでしッ……グハッ」
 言い終える前に氷の槍がサラの体に突き刺さり氷をゆっくりと赤く染めて行く。
「ミヤ!」
 その叫び声はもうミヤには届かない。続けて、出来上がる氷の槍がサラに向けられた時、2人を拘束していた氷の壁が打ち砕かれた。
 それと同時に後ろから声が聞こえる。
「烈火!」
 アデリーナの奇襲は決まりブルーに直撃する。爆発で吹き飛ばされたブルー地面を転がり氷の魔女の前で止まった。
 追撃したいアデリーナだったが両足の傷はいえていない。激痛に耐えられず技を打った後、そのまま地面に倒れこみ気絶した。
 この中で唯一動ける赤騎士はもうサラしかいない。サラは急いでミヤに駆け寄り魔力を流し、何とか一命をとりとめる。しかし、この絶望的な状況が変わることはなかった。
 そんな中、虚ろな目でこちらを見ている先生の姿が見える。
「サラ。最後の、お願い。……皆を、連れて……に、……逃げ、な。……さい。記憶……が、なくなる」
 その言葉を最後にヴィットリアは力なくうなだれた。
「ママ――――‼」
 城のどこからか聞こえるリノの叫び声につられてサラも涙声で名前を叫んだ。
「ヴィットリア先生!」
 しかし、それでヴィットリア先生が目覚める事はない。すぐ近くにいたブルーはすでに立ち上がり鎧の傷も完全に修復していた。
「ごめんなさい」
 サラが唇を強く噛み必死に涙を堪えながら言い捨て、2人を担ぎその場から逃げ去った。


「ごめんなさい、負けちゃった」
 大きな木の陰にもたれかかるアリーチェはボロボロで、下半身がなくなっていた。
「いいえ、これは私の失態です。騎士としての責務を全うすることができまでした」
 両手を失った騎士が跪きただ頭を下げていた。感情らしいものが無いその騎士はまるで人形の様に表情一つ変える事はない。
 その騎士にアリーチェは優しく声をかける。
「ううん、充分責務は果たしてくれてたよー。ありがとう!」
 アリーチェは騎士に微笑みかけると魔法を使い失った腕を元に戻してから、大きなため息を吐いた。
「あなたの腕を直すのが精いっぱいだった見たい。私はしばらくこのままだー」
 そう言って笑うアリーチェを騎士は無言で聞いていた。

 草原の広がる広い空間にいる1人の魔女と1人の騎士。
「んーっとね、ここに私達の拠点を作ろう!」
 無言でうなずく騎士にアリーチェは無邪気に草原を走り回りながら大きな声で叫ぶ。
「ここすごーく広い草原がひろがってるから『永遠の大地』って言うのはどうかな!」

「こんなに広い土地があるんだよ、こんなにも世界は広いんだよ。もっと自由に生きるべきだと私は思うの。だから、私はあの国の在り方を許せない。全てが決まっていて、自由がない世界なんて、そんなの生きているなんて言えない。選択肢はあげたからあとはあなた達にゆだねるわ。私は強要なってしないから」
「アリーチェ様」「着いて行きます、アリーチェ様」「自由に万歳!」「未来に希望を!」
 小さな町の路地裏で市民に熱弁する彼女に住民たちは賛同し思い思いの声を上げる。彼女の隣に立つ騎士は無言でその光景を見つめていた。
 市民はアリーチェ様の魔法を見て偉大な人だと歓声を上げ、揃って儀式に参加した。市民たちに恐れはあったがアリーチェの奇跡の力が簡単に恐怖を払拭させた。
 しかし、中には一回で儀式を成功させられない者もいた。
 アリーチェは儀式を達成できなかったもののために何度でもその場に赴いて儀式を最後まで見届けた。あくまで自分の意志で会うことを尊重するために。
 そして気が付けば約束の大地にいた人数は100人にまで増えた。この祝いを込めて行われた夜の祭り『円花祭』では炎の魔女であるアリーチェを中心に飲んで騒いだ。アリーチェの魔法による芸がより一層賑やかせた。
 そんな中一人だけ輪の中に入れない者がいた。その騎士は人混みから離れた海岸沿いで真っ暗に染まった海平線を見つめる。
「ここにいたんだ」
 そう声をかけるアリーチェは騎士の隣に座る。
「だいぶここもにぎやかになったねー。あなたもここに来るまでの間に変わるかなーって思ったんだけど全然変わらなかったね!」
 アリーチェは笑って言うが対する騎士は深々と謝罪する。
「期待に沿えず申し訳ありません」
「いいのいいの。それとね、私からあなたに命令があるの!とっても難しいよ」
「私は騎士です。貴女使えるために生まれてきました、何なりとご命令を」
「うん、知ってる。そのうえでの命令。自分自身でしたいこと、やりたいこと好きなものをたくさん見つけて、自由に人生を謳歌しなさい」
 その言葉に騎士は沈黙する。
「あなたは私が召喚した騎士。3回目の『約束の日』に氷の魔女と戦うために生まれた。私の眷属であるあなたは基本的に私の意志には背かないし、私の意志でしか行動しない。まあ、そもそも『誓約』がかけられてるんだけどね。だからと言って、いいなりになるのはつまらないじゃない、私は貴女を道具としてみたくない。1人の家族としてみたいの。だから、これまであなたに命令らしき命令をしてこなかった。それにもしも私が負けてしまって、死んだらね。貴女が次の炎の魔女になってここにいる皆を導いていかなきゃいけないんだよ」
「私は騎士です。炎の魔女になど慣れません」
「いいえ、魔女になるためには2つの条件があるの。1つは魔法を使えるかどうか、私達のようにね、そしてもう1つは私が死ぬこと。私が死ぬことで炎の魔女になる権限があなたに譲渡されるの、もしそうなってしまった時のためにもあなたにはもっと強くなってて貰わないと、特に心をね。『誓約』って言うのはこの世界にあるルールみたいなもので、私達魔女と騎士にかけられてる絶対に破ることができない決まり事みたいなこと。例えばあなたはわたしを殺すことができないとかね。騎士についてる『誓約』はあくまで召喚した魔女からついてきた付属品みたいなもので、弱いものだけど、騎士よりも強力な力を持つ魔女にはもっと強い『誓約』がかかってるの。まーその話話また今度ね、ほら!日が明けそうだし」
 アリーチェが指を指すと空が赤くなり海平線から日が昇り始めた。
 すると、アリーチェは何かを思いついたように大きな声を上げて立ち上がる。
「そうだ!私たちの皆の名前を決めよう!『炎の暁』なんてどうかな?私たちは一度負けて、ここに来たけど。地についても、真っ暗な世界で赤い炎を燃やし続ける。そして暁の様にいずれのぼり、この世界を導くの!」
「はい。仰せのままに」

 何もない暗闇の中で、ヴィットリアの記憶が無理やりに蘇り、そして消えて行く。
 忘れてはいけない、忘れたくない記憶がどんどん引き抜かれていくのが分かったが、抵抗する気力がわかない。何度も繰り返し何度も味わった長い人生で、その消失感が繰り返し襲いヴィットリアの感覚を酔わしていく。
「もうどうでもいい。頑張った。何をした?やり切った。まだ何もできていない。絶対に成功させるんだ。負けない。もう無理です。許さない、お前だけは殺す。ありがとう。何言ってるの?」
 心の声なのか実際に言った言葉なのかもわからない。頭がぐちゃぐちゃになっていきまるで飽和していくようだった。眠りに落ちる瞬間に似ている。抵抗しなければ心地よい感覚だ。私はいったい何をしていたのだろう。何に抗っていたのだろう。そもそも抵抗する意味が?
 あれ?わたしはなにを?いや、いいや。もう寝よう。

「あっあ……あぅー。んま……んま」「うん、そうよ!ママよ、ママ」「んーま……まんま」
「そう!そうよ!ママよ、ママ」「まんま……まんま」

 リノ!心の叫び声と一緒に記憶から抜け落ちて行くのを感じる。やだ、やだ、やだ。私は忘れない!忘れない!忘れたくない!リノ!リノ!リノ!リノ。……私は何をしているの?眠ろうとしていたのに、また変な事でも考えていたのかしら。

「言った言葉は帰ってくる、だから俺は意識したくねー。言葉にもしないで考える事から逃げるんだ。」
「でも言いたくなることもあるでしょ?その時は入っていいの、私が受け止めてあげるから」
「……」

「いいじゃねーの。努力って結局は自己満だろ。自分が満足したらそれでいい、満足できなかったら続ければいい、それだけだろ、まあぶっちゃけおれはヴィットリアが少し羨ましいけどな」
 何のへってつもない家の中でテーブルに座るヴィットリア。その目の前にいるイヴァンがヴィットリアに言うと言葉を返す。
「そんなこと考えたこともなかったわ。ありがとう、もし良かったらあなたの話も聞かせて、イヴァン」
「あー……ま、いっか。俺って問題大ありのガキで、ルールとかそう言うの嫌いで、女王陛下とかマジどうでも良くて、いろいろ城の地下にある物とか見ちゃったんだよ。そしたらもう全てがどうでも良くなって、変わろう変わろうと思っても変われねーって事にも気づてさ。この世界みたいに、だから、まーなんなら最後までこの人生謳歌してやろーってさ」
「そういえばあの人もいってなわ。いいじゃない、それが一番いいわ。努力とか頑張りとかって人が判断するものじゃないものね、人によってはそう考える、その行動を押し通すのも努力になりえるから、結局は見栄っ張りによってできた言葉なんだと思うわ」
「見栄っ張りか、いいーなそれ」
「あら!イヴァンが笑ってる!」
「なんだよ、誰だって笑うだろ!」
「いえ今までそんな自然な笑い見たことないわ」
「おい、ヴィットリア!お前楽しんでんだろ!」
「あら、今度は呼び捨て!今までなかったわね!」
「お前からかってるだろ!」
 勢い良く立ち上がり威嚇するイヴァンの顔は赤くなっていた。ヴィットリアは初めて見るイヴァンのその姿に面白くなりついエスカレートしてしまう。
「顔も赤くなってるわよ」
「うっせぇーな!俺はもう喋んないぞ!」
「ずぼ……えっとごめんなさい。ついエスカレートしてしまって、あの人に似たんだと思うわ」

 イヴァン。ごめんなさい、隠していて。私が騎士であることを知ったらきっとあなたは自分を責めると思った。愛しているの、わしが初めて愛した人だから苦しんで欲しくないの。それが私のせいだとしたら私が耐えられなくなってしまうから。
 また一部の記憶が抜けていく。大切な思い出から順に抜き取られていく。

突如、体に電撃が走るように聞き覚えのある声が鼓膜を揺らす。ハッとなり目を覚ましたヴィットリアは、その声の方を見た。
「ヴィットリア!」
 ヴィットリアの視界の先に映るイヴァン。その姿にとめどなく涙が溢れ出した。忘れたくない。失いたくない。愛していた夫の姿。
 それと同時に激痛が体に走り頭が真っ白になりそうになるが、ヴィットリアは必死に痛みに耐えた。なぜなら、ここで意識をなくせば、また記憶を失ってしまうからだ。
 ——消したくない。失いたくはない。
「うあああああああああああああ」
 痛みに絶叫しながら、白目をむきながら。それでもヴィットリアは意識を保ち氷の魔女に抵抗する。
「なんで……ここ、に。あああああああああああああ」
「ヴィットリア!」
 イヴァンはためらいながらも必死に言葉に変え、ヴィットリアに伝えるために心の声を叫んだ。
「俺はまだ、お前を愛してる!それと、リノの事は俺に任せろ!俺はヴィットリアに会いたくてここまで来た。誰かに言った言葉は帰ってくるっていったよな、それでも、俺は言うよ。ヴィットリア!お前なら絶対に負けない!がんばれ!負けんな!」
 その言葉の後に次々と誰かの言葉が頭に蘇ってくる。心の中にいる自分が、自分を奮い立たせるように、体力の記憶の中で、もう名前も忘れてしまった誰かの声が次々と聞こえてくる。
「がんばれ。いけるよ、いってやれ。負けんな。大丈夫だ。信じてます。やれますよ。行けるに決まってるだろ。絶対に大丈夫。負けねーよ。信じてるぜ。ママー!負けないでぇー!」
 ヴィットリアの心の中に眠る理由のない感情が烈火の如く爆発し咆哮となって空間に響き渡る。
「はあああああああああああ」
 体から溢れる魔力を外側へと吐き出し全力で氷の魔女の魔法を阻害する。氷の魔女の魔力とヴィットリアの魔力が拒絶反応を起こし体全身に激痛が走るが、ヴィットリアは止まらない。
「な、なんで⁉」
「女王陛下!」
 戸惑う女王陛下。その普段見せない態度にブルーが思わず声をかける。
 しかし、ヴィットリアは止まらない。
「はぁああああああああああああ!」
「これ以上抵抗すれば体がもたないはずなのにどうやってここまでの力を!」
 魔力の拒絶反応によってヴィットリアの体を囲う様に薄い膜が浮き上がる。目に見えるほど浮き上がる拒否反応に耐えられなくなったヴィットリアの鎧が砕け散り、同時に拘束していた氷も砕け散る。
「そんな」
 氷の魔女はヴィットリアの頭にかざしていた両手を離し身を引いた。
 薄い膜はヴィットリアを空中に浮かせ物凄い轟音と衝撃派を響かせる砕けた鎧からあらわになった布が炎のように燃え伸びて行く。それはまるでアリーチェの着ているドレスの様に長い炎のスカートが、ほどけた真っ赤な長い髪と一緒に空中でたなびいた。
 ヴィットリアの体から溢れ出る赤い光の魔力が、空高く一直線に伸びていく。
 それは、この世界に炎の魔女の誕生を宣言した。
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登場人物紹介

アデリーナ (主人公)

魔女の眷属として召喚された騎士 誇り高く凛々しく正義感が強い

ブル―のことが好き

ブルー・デ・メルロ

魔女の眷属といて召喚された騎士 感情の起伏が薄く口数が少ない

アデリーナを気にかけている

シルビア・デ・メルロ

氷の魔女 ラベンダーノヨテ聖域国の女王

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