第29話 始終の魔女

文字数 8,500文字

 薄暗い空間で目を覚ましたアデリーナ。
 その異空間を呆然と見渡してから先ほどまで見ていた記憶を思い出す。氷の刃に貫かれ、そして食われた。氷の魔女に私は殺された。
 今のこの体は元通りだったが、感覚も魔力も何も感じない。
 アデリーナは胸の内に感じた答えを声に出す。
「そう……ですか。私は死んだのですか」
 アデリーナは意味もなくあの時失った左手を見つめる。ブルーとの約束を守れなかった。皆の願いをかなえることができなかった。
「いいえ、違う。あなたはまだ死んでない」
 突然聞こえた声に振り向くとそこにいたのは、白い長い髪の女性だったその見た目は、あの女神を思い起こす。像が白いため、その綺麗な白髪と白い肌が重なって同一人物のように見えた。
「あなたは?」
 警戒するアデリーナだったが、すぐに今の自分には戦う力がないことを思い出す。
「私は氷の魔女であり、炎の魔女であり、あなた自身。過去であり、未来である。私はこの世界をつかさどるもの。その名前を『始終の魔女』」
 目の前にいる彼女の言葉が直接頭に響く。しかし、目の前の彼女は一切口や瞼を動かしてはいなかった。
 まるであの石像のように体を動かさない彼女が『始終の魔女』であるのも腑に落ちる。まるで人間味が彼女からは一切感じ取れなかった。
「では、ここはどこですか?どうして私の前に」
「それに答えるには、まず過去を見たほうが早い。ここは『神域』。生と死の間に存在するもう一つの世界の欠片。時の概念も意識の概念も影響しない。貴女には知らなければいけないことがたくさんある。だからこそ、何度でも繰り返しじっくり感じて考えて。これは始終の魔女が『シルビア』という名前を手に入れる前のお話」

 始終の魔女は1人だった。生きる意味も目的もない。ただの石ころのように時が過ぎるのを見守った。
 虫が生まれ動物が生まれた。それは次第に大きくなり、食物連鎖が起こる。しかし、始終の魔女はいつも蚊帳のそとだった。そんなどうしようもないさみしさの前で、食物連鎖から抜け出した生き物がいた。
 それは人間だった。私は自然と人間を追いかけるようになった。しかし、人間は不思議な生き物だった。自分の考えで自分を傷つけ、意味もなく殺しをする。
 そんな不思議な生き物にどんどん興味を持った私は人間の生活を模倣し、そしてだんだんと感情を理解していった。しかし、共感するまでには至らなかった。
 結局、自分とは違うと孤独を感じ始めた。その一番の要因は同じ種族がいなかったからだった。
 そんなある日、一人の少女が私の家を訪ねた。黄金色で綺麗なショートヘアの彼女はブルーと名乗った。同種族の中で固体を識別するためのもの。いつも一人でいた私には関係のないものだった。しかし、ブルーはその日から毎日かかわってくるようになった。
 ブルーは始終の魔女を恐れず、いつも明るく笑っていた。そんな彼女に引っ張られるように孤独を忘れることができた。
 そして、ブルーが私に『シルビア』という名前をくれた。
 初めてできた友達、初めてもらったプレゼント、初めて知った楽しむという感情。ブルーがシルビアにこの世界に生きる意味、この世界での生き方を教えてくれた。
 だが、そんな楽しい時間はひと時だった。流れが違う彼女はすぐに年老いて死んだ。初めて大切という存在を知り、初めて悲しみを知った。
 悲しみに支配された私はまた孤独に戻った。
 何百年が過ぎ、やっと心が落ち着いたとき、人々は私を頼るようになっていた。
 周りに人々がいるのに、孤独が消えない。ブルーと比べてしまっていた。
 だから私は神域魔法で友達、家族、仲間、恋人、同族。自分の半身を生み出した。
 私はその半身にアリーチェという名前を渡した。アリーチェはの性格は、私が忘れていた明るさ、好奇心を強く含んで生まれた。感情が大きく偏ってしまったがもともとは同じ体で同じ意識を宿していたおかげで馬はあった。
 そして、2人は同時に神域魔法を発動し、同時に運命は別れ始めた。

 始めは一緒に暮らしていたが誓約の縛りで互いの協力が一切できない。
 平等のために作った、世界をよりよくするために作った誓約は、平等ではなかった。
 私とアリーチェの力には決定的な差があった。完全に別たれたのではなく、分身として生み出されたアリーチェは私よりも弱かった。そのために、私が行動を移せば、誓約がアリーチェの行動や意思を歪ませた。
 私はアリーチェのそんな姿を見ていられなかった。だから、家を出て城を築いた。アリーチェが言った『エデンの楽園』を作るために。

 それから数百年がたった。
 2人の魔女は始終の魔女同様に孤独には耐えられなかった。だから、眷属が生まれた。以前の始終の魔女のような強大な力を持っていなかった、2人の魔女は騎士しか作ることができなかった。そして、性格も別たれた2人の魔女に寄って生み出さた。
 また、私の無意識が眷属の容姿を彼女に似させてしまった。しかし、その性格は自分の照らし合わせ。それを知っていても私はその眷属に『ブルー』という名前を付けた。
 それからは増え続ける人間に平穏生活を送らせながら、幾度となく誓約を破る手段を探し続けた。
 人間には扱いきれない自由を縛り、新たな幸せを提供するために私は女王となった。それは人々に強制を強いるなら、その責任はまず私が背負わなければならないという自分の意志からだった。
 いずれ少数派の私を離れ、人々がアリーチェのもとに傾くことになる。だから宗教という形で人々を縛っていたが、人々が増えていくにつれ特質個体が増え始めた。宗教に縛られないもの、さらにアリーチェが人々を誘導し始めた。
 また敵が増えるのを抑えるために、塔を建て炎の魔女の魔力の影響を受けた一切のものを通さないようにした。さらに、監視機を町に設置し不穏な動きに目を光らせた。
 それに伴い足りなくなった魔力を城の下に最下邸を築き魔力を補った。生まれた子供は城に数年通わせ、そこで宗教を擦りこませ、同時に特質個体を見定めた。
 しかしどれも完璧とは言えなかった。どんなに対策しても私には魔力も力も時間も足りなかった。
 この根本的な原因を解決するために私は約束の日に過去に戻り、あの時の神域魔法を止めることを計画した。だいぶ力が弱まってしまっていたがブルーの命を合わせれば、過去へ飛ぶ神域魔法が発動できる。
 しかし、長い間ともに時間を過ごした私にとってブルーは一人の大切な家族になっていた。彼女はその計画を喜んで引き受けようとしていたが私にはその決心が付かなかった。
 そんな私の背中を押したのはいつだってブルーだった。約束の日、アリーチェの強襲を受けた私はブルーを失った。それでも彼女の意志を無駄にしないために私は神域魔法を発動する。結果は、魔力の不足により失敗だった。
 そんな私に対抗するように炎の魔女は神域魔法で眷属を過去に飛ばした。失敗したシルビアと対比するようにアリーチェは成功し、眷属、そして自分を犠牲にしようとしたシルビアに対し、アリーチェは眷属と協力した。



 夜空に浮かぶ星を見つめながらアリーチェは隣にいるシルビアに声をかける。
「ねー」
「どうしたの?」
 そう優しく尋ねるシルビアの腕にアリーチェは抱きつき届きをこたえる。
「何で人間て私たちみたいに意見が違っても仲直りしないのかな?」
「不思議よね。真実にかかわらずどちらかに分かれ、対立する」
「そして毎回私たちが間に入るのー。ほんと不思議。でも、だちらか一方に必ず代弁役がいるのいいよね」
「ってそれ、いつも私たちがやっていることじゃない」
「そう!そこでさ!代弁役は公正じゃなきゃダメでしょ?お互いに意見を合わせちゃダメ。だから、それをしっかり守るために神域魔法で約束するのはどうかな?」
「まあ、いいけど。そんなことに使うの?」
 その問いにアリーチェが口を膨らませる。
「だってどうせ、使う目的ないじゃん!それにいくら私たちにも絶対なんてできないからさ。どうせするなら神域魔法使って確実なものにするの!」
「まあ、アリーチェがそう思うならいいんじゃないかしら。で、どうしてあなたが私の腕に抱きついているの?」
「えー。人間は大切な人にこうやって愛情表現をするんだよ~知らないの?」
「——そういえば、以前もそんな話を聞いたことあるわ。まあ悪い気はしないわね」
「でしょ~でもこれじゃ片方しかできないじゃん」
 シルビアの腕に抱きつきながら困った顔を浮かべるアリーチェ。シルビアはそんなアリーチェの頭をやさしくなでた。
「あー、それ知ってる!これならお互いにできるね!」
 アリーチェは嬉しそうにシルビアの腕から手を放し、代わりに頭をなでる。互いに頭をなでる中、アリーチェが一つの疑問を口にする。
「これって、いつまで撫でてたらいいんだろう。最初はいい感じしたんだけど、だんだんとね」
「そうね。人間たちも一瞬しかしてなかったわ。あ、そういえば今のよりもっといい愛情表現があるのよ」
「なになに!?」
 わくわくした様子で腕を引込めるアリーチェはシルビアの行動を待った。
 顔を近づけてくるシルビアは眼をつぶる。アリーチェも同様に目をつむった。すると、シルビアの唇がアリーチェの唇に数秒間触れる。
「どう?いいでしょ?キスっていうらしいのよ」
「初めての感覚!すごいよかったよー!キスか~」
 目を輝かせるアリーチェは今度は自分からシルビアにキスをした。
「そんなに簡単にするものじゃないのよ」
 少し照れくさそうに言うシルビアにアリーチェは嬉しそうに喜んだ。
「そーなの?でも嬉しそうだよ!私もうれしいよー!」



「どうしてこんなことになったのよ!あなたのせいで!」
 シルビアに怒鳴るアリーチェはそこで我に返り、口を両手で抑える。
「……そんなつもりじゃ。……わたし、思ってない。そんなこと、一切思ってない!感じてない!」
 アリーチェが部屋は部屋を飛び出し、自分の部屋に戻った。
 ここ最近、頭の中に途方もない力が流れ込み意識を無理矢理に動かされている感覚に襲われる。そして、気が付けばシルビアに何度も怒鳴りつけ対立していた。
「どうして私は……なんてことを。……自分で求められない。こんなことになるなら、あんな魔法使わなければよかった。ごめんなさい、シルビア」
 不安定な関係の中、二人はなんとか誓約に対抗しようと一緒に方法を探りながら生活をしていた。
 しかし、次第に一つのことに気づく。誓約に振り回されているのはあくまでアリーチェだった。その事実に気が付いた二人は、最後の手段を講じる。
「ごめんアリーチェ、もう少し我慢して」
「あああああああああああああああああああ」
 痛みに絶叫するアリーチェにシルビアはなおも魔力を流す。誓約が意識に関するものだと考えていたが結果は違った。以前ならお互いに魔力に触れることができたが今は拒絶反応が起こり、互いの魔力を疎外している。
 シルビアの記憶を消す魔法が阻害されうまく記憶を消すことができない。長い時間がたっても生まれたばかりの少しの間の記憶しか、まだ消すことができなかった。
 そんなアリーチェが叫ぶのをやめ、涙を流しながらシルビアに訴えかける。
「……やだ。やめて……貴女との思い出を消したく、ない」
 シルビアの消す意識に反応したのか、本心なのかあわからない。でも、その姿を見たシルビアは最後まで魔法を貫くことはできなかった。
 それから数百年が過ぎ、回ってきた約束の日。シルビアとアリーチェは久しぶりに再会した。
「寂しかったよー。はい……これ、プレゼント」
 アリーチェは必死に誓約を耐えているのを隠すように無理矢理に笑って一つの花をプレゼントする。シルビアが花を受け取るとアリーチェはまた口を開く。
 誓約の束縛を生み出さないようにシルビアは必死にしゃべらないように、意識させないようにしていたが何がアリーチェに誓約を強制させているのかわからない以上何もできなかった。
「もし、この神域魔法で私たちの生活が取り戻せたら、ここに私たち家ぞ、くの……『永遠の楽園』を作りましょう」
 汗をかき必死に誓約の束縛を耐えているアリーチェは何とか最後まで言葉を言い切った。シルビアはそれが彼女の夢、なんとしてでも最後に伝えたかった。『期待』を込めて発した言葉だった。
 そして、二人で神域魔法を放とうとしたがアリーチェが気絶し結果は失敗に終わった。シルビアも意識を失いかけるほど、強力なもう一つの意識が呼び起され、その誓約の強さを改めて実感させられた。
 アリーチェを抱き、アリーチェのいる人々のもとに戻ると人々はシルビアに剣を向けた。勘違いしたのか誓約の影響を受けたアリーチェが人々を誘導してしまったのわからなかったが、シルビアはその場を離れ数少ない人々を連れ、アリーチェとであった全ての始まりのちに戻る。その中央にラベンダーの花を植え、その花を中心に城を作った。
 その城の名前はアリーチェから貰った花の名前をとり『ラベンダーノヨテ聖域国』と名付けた。




 途方もない時間をシルビアに成り代わって見てきたアデリーナは気が付けばまた何もない薄暗い空間にいた。永遠の時を感じていたはずなのに今は一瞬の出来事のように感じる。
「これがシルビア様の過去……」
 シルビア様の103回分の異なる記憶を見て、考えを見てブルーが彼女を救ってほしいと言っていた気持ちがよく分かった。シルビア様は、自分の人生を代償に本気で世界を変えようとしていた。
 シルビア様を止めるために発動していた炎の魔女の神域魔法とは違い、シルビア様は世界のために神域魔法を発動していた。
 シルビア様の妨害を続けるアリーや私たちにシルビア様は決して憎悪や怒りの感情を抱いてはいなかった。誓約によて縛られている。本当の自由を生きられるように私が解放させてあげなければいけない。そんな純正で優しい気持ちだけだった。
 まだ考えを巡らせているアデリーナに始終の魔女が語り掛ける。
「まだ全てを見ていない。過去と未来を見るの。そして……その結果をあなた自身が決める」
 直接響く声と同時にまた意識が持っていかれる。
 アリーチェ様、ブルー、ヴィットリア先生、自分自身。全員の記憶をみて、全員分の生涯を生きたアデリーナ。
 また虚無の空間に戻ってきたアデリーナは目の前にいる始終の魔女に深い間を開けて、言葉を漏らす。
「シルビア様が……正しい……」
「あなたの選択で未来も過去も変わる。それは正解もまた変わるという意味。私がなぜ現れ、なぜこれを見せたのか。これもあなた自身の選択」
 始終の魔女の前で沈黙するアデリーナ。時が流れないこの空間でアデリーナはただ考えた。考えた末に答えは出ない。それがわかっていても考えをともることができない。もし止めたら、それは選択を意味するからだ。
「時間がきたみたい。あなたに会いたがっている人がいる。この空間とあちら側は裏と表。時間の流れが違う、だからあちらは待つことができない。全てが見えているわけではないけど、相手はこちらのことは何となく見えている。だからすべてを説明する必要はない。私はここまで、伝えることはすべて伝えた。いきなさい」
 始終の魔女の言葉が頭を揺らす。強烈なめまいに襲わていった目を閉じ、そして開くとあたりは先ほどよりほんの少し明るくなった。その空間に先ほどと同じように背後に人の気配を感じた。
 振り返ると目の前にいたのはアリーだった。
「アリー!」
「やっほー!驚いた?」
「え……ええ。……なぜここに?」
「何でって、死んだからよ!」
「え?でも私は……?」
「そう!あなたはまだ死んでない!だから、あなたはこっちにちちゃだーめ!ねえ、やりたいこと、まだあるでしょ?やり残したことあるんでしょ?」
「そんなことは……私にはまだわかりません。どうすればいいか……このまま戻ってしまえば、皆さんが今まで培ってきたものを壊してしまうかもしれない」
「いいの!そんなことは!せっかくまだ生きてるんだから存分に謳歌しちゃいなよ!たくさん悩んでいいの。私だってたくさん後悔をしてきた。元凶だものね。償っても償いきれない。どうすればいいかもわからない。今のあなたの気持ちはよーくわかる。でもさ、だからこそ、その結果は誰も咎めないの。私たちが願った自由ってそういうものでしょ?それに、その結果貴女が生まれたんだから。ほら、私の気持ちと記憶見たんでしょ?」
「……」
 アデリーナは俯いたまま声を口に出すことができなかった。
「ほら、私たちを見て」
 アデリーナは顔を上げる。
 するとアリーの後ろにたくさんの炎の魔女が立っていた。
「なんで……皆がここに……」
 その言葉にサラが笑って答える。
「わかるでしょ」
「サラ……」
 彼女たちはみんな死んだ。その事実に震える声を抑えることができない。
「どうして……私はシルビア様を倒すことが正解だとは思えない。本心でシルビア様を倒そうなんて思えないのです!」
「ええ、貴女の話を夜によく聞かせて貰っていたからその気持ちはよくわかります。これはアデリーナ先輩の自由ですよ、私たちのことは気にしなくていいんです」
 2人の時にしか呼ばなかった先輩呼びがサラの口からでる。もう恥じらいもないのだと、皆に認められたんだと実感する。
「ですが……それではあんまりじゃないですか!」
「それは違うわよ、アデリーナ」
 その声に涙がこぼれる。何度も思い返し、アデリーナに力をくれたヴィットリア先生だった。
「……ヴィットリア先生」
「私たちは、するべきことだと信じたことを、その信念を曲げずに突き進んだだけ。その結果、誰かの行動を変えさせたとしても、それは決して強要させたわけではなく、本人の意思の結果なのよ。私は一時期目的を失って生きる意味を失ったこともあった。けれど、そんな時イヴァンに出会ったの。人々は自由に踊らされ、苦しむことがあるかもしれない。でも、そんな時は必ず誰かが支えてくれる。自由だからこそ、苦しみを超える幸せにも出会えるの。アデリーナ、心の中に氷の魔女を倒そうと思う意志もあるのでしょ?」
「それは……」
 涙を流すアデリーナはその言葉を否定しようとするも声には出なかった。
「大丈夫よアデリーナ。貴女は強い。強くなったわ。貴女なら、世界をより良い方向へと持っていける。そう信じているの。どちら側にも立つことができる貴女こそできること。そして、現に今までできていた。私はずっと見ていたのよ」
「ヴィットリア先生……それでも、それでも」
「いいのよ。皆に助けられた分、責任を感じるでしょ。皆に期待されている分、その期待が重みに代わってしまっているんでしょ。でも大丈夫、私たちの灯をしっかりあなたは受け継いでいる。そして、覚えておいて——貴女は一人じゃない。夜空にきらめく星となって皆があなたを照らす。私たちだけじゃない、ジュリオやイヴァンも、『炎の暁』の皆が貴女の中で生き続ける。勇気が出ないのなら私たちが貴女の背中をおしてあげるわ」
 アデリーナは隠すことなく嗚咽をこぼしながら心の中に秘めた本音と、弱音をこぼす。
「わかってる……ヴィットリア先生……わかってるの……」
「……」
 アデリーナは唇を強く噛み、必死にその言葉の続きを続ける。
「すみません……こいうときに笑って、皆と別れを告げなければいけない……皆と別れることを恐れてはいけない。……でも考えてしまうんです。……皆と別れれば一人になってしまう……その孤独に耐えられないかもしれない……同じようにまた繰り返してしまうかもしれないと。嫌なんです……もうこれ以上誰も失いたくはない……でも、皆のことを忘れたくもない……まだ話したい事、したいことがたくさんあった……別れを告げることさえできなかったのに……」
「言ったでしょ、貴女なら大丈夫。アデリーナが望めば、心の中で私たちは生き続ける。だから、恐れず前に突き進みなさい」
「……わかりました。ありがとうございます、覚悟ができました」
 するとミヤが震える声をごまかす様に強がって叫ぶ。
「おいおい。なんだよ、あたしのでばんなしかよ!……っても、全部先生に言われちまって、もう言うことねーんだけどな」
「ほんとよ、親としての立場がないよ~」
 アリーチェさんがミヤに同調してヴィットリア先生を攻める。戸惑うヴィットリア先生を始めてみたアデリーナは思わずその光景に笑ってしまう。
「なに、泣きながら笑ってんだよ、お前はまだ生きてんだからよー好きなようにすれやいーんだよ!」
 強がって叫ぶサラも涙を流しながら笑っていた。アデリーナはいつものように返す。
「あんたもね!」
 アデリーナはそういって今一度104人の皆の顔に目を向ける。
 アデリーナは振り返った。皆の力を背中に感じながら体の中心から湧き出す炎がこの空間を燃やし尽くす。
 その時。
 アデリーナの背中に最後のアリーの声が届いた。
「アデリーナ。貴女は私の、いいえ、私たちの誇りよ!」
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登場人物紹介

アデリーナ (主人公)

魔女の眷属として召喚された騎士 誇り高く凛々しく正義感が強い

ブル―のことが好き

ブルー・デ・メルロ

魔女の眷属といて召喚された騎士 感情の起伏が薄く口数が少ない

アデリーナを気にかけている

シルビア・デ・メルロ

氷の魔女 ラベンダーノヨテ聖域国の女王

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