第28話 落ちる花弁

文字数 8,315文字

「すげーぞ。これが炎の魔女の力か!」
 高揚したサラが両指から無数の『エデンの星』を放ち、魔亜人を屠っていく。
「油断しないの!相手は神話に出てくる『魔亜人』よ!死ぬ時に体を破裂させ、毒をまき散らしてくるわ!危険よ」
 サラは忠告と同時に数十匹の魔亜人を風で圧縮し、更に土を引き寄せすりつぶす。空中に出来上がる魔亜人と土で出来上がった泥団子。
 それを地面にたたきつけた。
「オッかねえな……。って、なんだこの蛇!」
「かわさないでできるだけ、消し飛ばして!」
 二人の炎の場所が同時に蛇の相手をしている時、氷の魔女に向かって突き進むアデリーナの姿が見えた。
「何やってんだあいつ!合流するまで戦いに行くべきじゃないだろ!」
「違う。恐らく氷の魔女にそうせざる負えなくされてる。あの足元にある巨大な魔法陣は見える?」
「何だ!あの意味わからない程細かい、それに気色悪いほどの膨大な魔力は!」
「あれはこの蛇を作り出している魔法……じゃないわ。……この感じ、おそらく時間に関係してる魔法。今の氷の魔女は未来が見えているのよ‼」
「くそ!なら蛇を作り出している魔法よりも先にあれを破壊しねーと‼」
「ええ、この際増え続ける蛇は一旦無視しましょ。その結果どうなってしまうかは分からないけど!」
 そして飛び出した二人が絶句したのは直ぐ後のことだった。
 無数の蛇がアデリーナに四方から噛みつき、何度も打ち付けられる氷の槍に魔法障壁が打ち砕かれる。
 そして、真上に飛び出す血まみれのアデリーナを氷の槍が貫き、蛇がアデリーナをすりつぶしていき、一つの巨大なラベンダーの氷の花を生み出した。
「——おい。うそだろ……死んでねーよな、死ぬわけねーよな!お前が、一番つえーお前が!誓約を敗れるお前が!」
「いやぁあぁぁぁあああああああああああああ!」
 ミヤ隣で絶叫したサラが流星となって飛び出した。
「おい!待て!」
 我を忘れるサラの姿を見るのが初めてだったミヤは一瞬戸惑うがすぐに後を追う。サラの気持ちが理解できないわけではなかった。姉のように慕っていたヴィットリア先生が死に、親であるアリーチェ様が死んだ。そして、姉代わりをしてくれ、面倒をよく見てくれていたアデリーナを一番愛着を抱いて尊敬していたのは、サラだった。イヴァンを見ていた時からアデリーナを心配しそして尊敬していた。自分が同じ立場なら、絶対彼女の様にはなれないといつも尊敬していた。
 そんなアデリーナのあられのない姿が、ほとんど体の原形を保ってない姿が、まるで見世物のように町の中央に飾られている。
 流星のように氷の魔女に一直線に飛んで行くサラに、ミヤはとても追いつけなかった。
 世界を煌めく流星が氷の魔女にぶつかると同時に、物凄い衝撃波が生まれる。氷の魔女が浮いていた真下にある祭壇。それが衝撃波によって城が建っていた丘ごと、大きな亀裂が入る。
 信じられない程のサラの攻撃の威力に息をのむが、それを無表情で受け止める氷の魔女は更に強さを表している。
 怒りに満ちたサラがすぐ目の前にいる氷の魔女に憎しみに満ちた顔を打ち付ける。魔法障壁を打ち砕こうと頭を更に強く押し付け絶叫する。
「よくも!よくもおおおお!ヴィットリアやアリーチェだけでなく、アデリーナ先輩までも‼」
 まるで興味なさそうに冷たく目線を浮かべていたシルビアがサラの言葉に眉をひそめる。
「黙れ!よくも……よくもブルーを!」
 魔法障壁が煌めくと世界を揺るがすほどの轟音が襲い、サラを吹き飛ばした。飛んでくるサラをミヤが何とか受け止めたが、2人に死の宣告が告げられた。
「死ね」
 シルビアの冷たい声が数百メートルも離れている2人の頭に直接語りかける。
 その瞬間、シルビアから放たれた氷の塊が空に一直の線を引く。雷光をまとった氷は一瞬のうちに500メートルを駆け抜け、サラとミヤを襲った。ぎりぎりで魔法障壁を展開し何とか受け止めることが出来たが、その衝撃はすさまじく魔法障壁が嫌な音を鳴らす。
 ——メシメシ——メシメシ。
 雷と同等の速度で押し寄せる氷はとどまる事をしらない。2人の魔法障壁度とめりめりと氷が飲み込んでいく。二人の展開していた魔法障壁がすぐに悲鳴を上げた。
 ——パリン!
 砕け散る魔法障壁の中もう一度瞬時に魔法障壁を展開させた。新たな魔法障壁をすぐに飲み込む氷はサラとミヤを襲う。2人の炎の魔女は必死に魔法障壁を展開し攻撃を絶えるが時間の問題だった。この状況を打開する方法はもう2人には残されていない。
 打ち砕かれるたびに展開する魔法障壁はだんだんと小さくなり2人を圧迫する。圧縮されるように圧力をかけられる二人はついに限界を迎えた。
「「エデンの流星群」」
 12人の声が同時に響く。それは業火の如く迫りくる黄色い灼熱の雨を降り注がせた。
 氷の魔女を囲うように約300メートル先から放たれる光の攻撃。その一粒一粒がエデンの雫。両手のひらから放たれる攻撃は冷気で立ち込めたこの国を一瞬で温める。
 氷の魔女は表情を一切変えることなく、四方八方から放たれる攻撃を受け止めた。
 サラとミヤを包む氷が突如、灼熱の炎に襲われる。氷から解放された2人は肩を寄せ合い何とか空中にとどまっている。その2人のもとに、1人の炎の魔女が近づいた。彼女が2人に灼熱の炎を浴びせた張本人だ。
「この野郎。あたしら事、攻撃しやがって」
 ミヤの悪態にサラがフォローを入れる。
「ありがとうレイン。おかげで助かったわ」
 氷の魔女の攻撃で死にかけていた2人の体を灼熱の炎が襲った。いくら炎の攻撃に耐性があるからと言って、ダメージをゼロにすることはできない。レインの瀕死の状態だった2人にとどめを刺していたかもしれない攻撃だったが、それ以外に選択肢はない。結果的にいま私たちは生きていた。ミヤが起こる気持ちはわかるがそのおかげで、サラは冷静さを取り戻すことができた。
「いえ、ごめんなさい。ここは私たちに任せて先に体の回復を」
 レインが目線を氷の魔女へと移った。
 サラとミヤの視界の先に移るのは、12人の炎の魔女が氷の魔女に一方的に攻撃を仕掛けている姿。氷の魔女に一切の攻撃の隙を与えない。
「これでもダメ、まずあの足元になる魔法陣を破壊しなくては!あれは、未来を見通す魔法、いくら隙をついたとしても防がれてしまう」
「守りに特化した魔法。さすが氷の魔女、あれが神域魔法で手に入れた新たな魔法とうことなのね」
 レインはそう言葉を言い残すと一直線に氷の魔女へ飛んでいく。氷の魔女は無数の攻撃の中、迫りくるレインの姿を見逃さない。一瞬の攻撃の間をかいくぐった氷の魔女の魔法が青白いエネルギー弾を放つ。その青白い輝きは吸い寄せられるようにレインを襲った。
「私たちを」
 レインは深い溜めをし、こぶしを引く。
 そして、青いエネルギー弾が目の前に迫った時、炎の魔女らしからぬ言動でこぶしを勢いよく突き出した。
「舐めるな!」
 こぶしを包む魔法障壁が赤い輝きを放ちエネルギー弾を打った。大きな爆発が響き砂煙が飲み込んだ。
 その中で一つの赤い輝きが見える。左手で右手首をがっちりと固定したレインは叫ぶ。
「これが私たちの輝きだ!」
 レイン含む13人の炎の魔女が同時に光の光線を放つ。受け身を崩さなかった氷の魔女がその時初めて反撃をした。黄色い光線と同時に放たれた青い光線がぶつかり合う。13本の輝きが鍔ぜりあう。
 氷の魔女の一番近くにいたレインは攻撃をぶつけ合いながら向かい合った。
「決して私たちの炎は消せない。だから私たちは負けないんだ!」
 レインの言葉に氷の魔女は冷たい声をかける。
「あなたたちは勘違いをしているわ。そうね、炎の魔女といっても初戦はひな鳥だものね。いいこと教えてあげる。この世界に『誓約』がある限りこの戦争は終わらない。消して私たちの輪廻が終わることはない。『誓約』は世界に刻まれた絶対だから。しかし、その『誓約』を決めるのは私たちに過ぎないの。世界に刻まれた『誓約』を作ったのが、私たち魔女であるように『誓約』に縛られるのも私たち魔女とその眷属。その『誓約』の審判は私たちにあり、世界は選択する意思を持たない。そして、眷属は魔女の影響を直接をよく受け『誓約』も魔女による審判をより強固とするわ。ほんとに曖昧でおかしなこと」
 氷の魔女は過去の自分の行い、考えに呆れため息をついた。その真意を知ることのないレインに目線を戻し氷の魔女は続ける。
「要するに、絶対的な『誓約』を決めたのは私たちで魔女あり、それに反したかどうかを判断するのも自分たちであるということ。それでも少しでも意識すれば『誓約』は働き、私たちの行動意思を簡単に歪めてしまう」
「だからどうしたっていうの!」
「……炎の魔女が神域魔法で眷属を過去に送った。その結果はあなたたちが知るように世界が書き換わり、赤騎士だけがその記憶を持って世界を飛んだ。それを何度もあなたたちは繰り返してきた。しかし、103回目で赤騎士でそれは起こった。魔女でさえ数百年しか生きていないのに、眷属でしかないあなたたちに6万年近くの時を過ごすことなど耐えられるはずもない。その結果はあなた達がよく知っているヴィットリアだ。彼女は意識よりも先に体が限界を迎え、崩壊を始めた。しかし、そんな彼女の功績を途絶えさせてはいけない。だから私は彼女に救いの手を差し伸べた。過去の私は彼女の記憶を奪い、配下として彼女を救った。そして今のアデリーナが生まれた。アデリーナの存在は奇跡そのもの。この世界の『誓約』を敗れたのも彼女だけだからだ。彼女は私、いいえあなたたちの希望でもあるの」
 氷の魔女はラベンダー聖域国の中央に咲くラベンダーを愛おしそうに見つめる。
「何が言いたい!」
 アデリーナの血で染め上げられたラベンダーを見てから氷の魔女を憎悪の顔でにらみつける。
「世界は美しくない。とても残酷。それでもあの時の誓いを叶えるため、私はあきらめなかった。今までの行いが無駄ではなかったのだとアデリーナが教えてくれたから」
「その名を軽々しく呼ぶな!」
「何を言っているの。その名を与えたのは私。彼女を育てたのは私。それを知っているということはどういう意味か分からない?この104回神域魔法で炎の魔女は眷属を過去り世界が書き換わった。104回も神域魔法を発動した。それは私も同じ。そして、その104回分の神域魔法はこの日一つに集約される」
「……なにを。言っているの」
 信じたくない。そんな現実を受け止めたくないと、レインの思考が無意識にその答えを否定する。
「炎の魔女の神域魔法は発動した後、過去へと戻る。しかし、あなたたちは消えていない。それは神域魔法が無かったことにはなっていない。それは世界が記憶していることを裏付けている。だから、私が氷の魔女が発動した神域魔法も世界が記憶している。それは『約束の日』以降の出来事だったから今までの私には使えなかった。そもそも知りもしなかった。だが、今こうやって『約束の日』をこうして迎えている。今一度私の中で一つとなったのだ」
 その事実に唾をのむ。
 ——その通りだ。炎の魔女の神域魔法だけが発動し、氷の魔女の神域魔法だけが発動していない。そんな都合よく世界が回っているはずがない。
「104回分の神域魔法を発動した今の私に魔力の限界はない。それにもう一つあなたたちは忘れていることがある」
「何を……」
「気づいたようね。今日は『約束の日』。この世界で最も魔力が薄い日。炎の魔女になったからと言って、魔力が長時間続くわけではない。私には見えているの。この空間からすでに魔力が付き始めていることを」
 その宣言と同時に13人の炎の魔女が放つ光の輝きが細くなり始めた。鍔ぜりあっていた均衡が一気に傾き始める。
 高出力の青い光線が一瞬で炎の魔女の攻撃を飲み込み体を襲う。13個の魔法障壁を氷が包み込んだ時、炎の海が空間を飲み込んだ。
「まだ邪魔をするの」
 氷の魔女の問いかけにミヤが挑発する。
「誓約に動かされてちまうからな」
「ミヤ!どうしてここに!まずは体を休ませないと!……サラ」
 レインの言葉に続き、ミヤの後ろからやってきたサラが隣に並び申し訳ななそうに声をかける。
「ごめんなさい遅くなって!みんなを連れてきたわ!」
 その言葉と同時にサラの後ろから次々に炎の魔女となったみんなが飛んできて姿を現す。
「そうだ!私たちには皆がいる!」
 レインはクロスさせていた両腕を勢いよくわきに脇にしまい、氷の魔女に向かってこぶしを構える。
 それと同時に101人の炎の魔女が一斉に魔力を込め氷の魔女に構える。
「世界の理も誓約も、そんなもの知ったこっちゃない!そんなもの!私たちが全て燃やし尽くす‼」
 レインのその掛け声が戦闘の開始となった。
 無数の光線と星、空から降ってくる隕石が氷の魔女を襲った。氷の魔女の魔法障壁を休ませることなく灼熱の炎が襲う。反撃する隙も息つく暇もない。魔法障壁にあたり消失する黄色い残影が氷の魔女を覆っていく。
 凄まじい猛攻撃に炎の魔女の攻撃は衰えることを知らず、その勢いはさらに増していった。
 そして、氷の魔女を覆うような赤く黄色い輝きはまるで太陽がうまれたかのような強烈な残熱を放つ。
 もし仮に氷の魔女から反撃ができたとしてもそれは103人の炎の魔女の攻撃に一瞬で打ち消されるだけだ。
 キィ————ン
 甲高い音と同時に氷の魔女の足元にあった魔法陣が崩れ始めた。
「いける!」
 レインの声にサラとミヤが同時にうなづいた。
「いけぇぇ!」
「押し切れ!」
 みんなの攻撃により一層力がこもったとき、中心にある太陽が一瞬白い輝きを放った。
 その瞬間、大地を揺らすほどの大きな大爆発が起きる。衝撃波が一瞬で全ての事象を打ち消し、この大陸全土を襲う。
 上空に立っているのはサラ、ミヤ、レイン含めのこり8人の炎の魔女だけだった。残りの魔女は衝撃波に吹き飛ばされ地や壁にうずくまっている。そして、氷の魔女がいた場所には深い砂煙が黙々と立ち込めるだけだった。
「くそ!じれったい!」
 レインが勢いよく右腕を斜めに振り下ろす。同時に吹き荒れる風が砂煙を吹き飛ばした。
 中から現れる氷の魔女は一切構えを変えず、ただ右手を懐に置き何かを掴むように魔力を練っていた。
「まさか……そんな」
 サラの口からこぼれる。その声は微かに震えていた。
「なんだよ、サラ」
 サラの隣に立つミヤが問いかけ、その答えにレインも耳を澄ませた。
「氷の魔女のあの右手、足もとにひかれていた少し先の未来を見通すためにの魔法を発動するために使っていたと思っていたけれど、そうじゃないみたい」
「どういうことだよ!」
「ミヤわからないの?あんな複雑で膨大な魔力を使っていた魔法を手を使わづに発動していたのよ」
 その先の意味をレインはもう気づいていた。レインがつばを飲み込むと同時にサラが続きを口にする。
「あの右手から発動し続けている魔法は今までのよりももっと時間をかけて、膨大な魔力で発動しているってことなの」
「なんだよそれ、そんな魔法で何をしようって……」
 そこでミヤの言葉も詰まった。
 本当にこの世の出来事なのか。
 常人を超えた魔女の力を持つミヤでさえ、思わず口を閉じてしまう。その光景をただ茫然と見つめていた。
 ラベンダーノヨテ聖域国。その大地の先に広がる『果ての海域』そこから延びる16本の巨大な水の蛇がこちらに迫ってきていた。
 一頭の大きさだけで1000メートルを超えそうな巨大な蛇は瞬く間に大地を乗り越え、一瞬にして城壁からこちらへと顔をのぞかせる。
 私たちに何ができる。この数百回のタイムリープは結局無駄だったのか。
 誰しもがそんな思いに飲み込まれる。
 巨大な胴体がこの国に寄り集まり大きな影を落とす。
「それじゃあ」
 氷の魔女がいつの間にか上げていた右腕が振り下ろされる。審判を告げる。終焉を告げるそのサイン。
 その判断に一石を投じる声が上がった。
「はあああああああああああああああああああああああああ!」
 張り詰める冷気の中、瞳を、体を、より魂を燃やした一人の炎の魔女が町の中から咆哮を上げ飛び出した。その光景に皆の目を奪われる。
 ボロボロなドレスを身に纏う炎の魔女はジゼルだった。
「私は炎の魔女!ジゼル・ディ・レオーネ!」
 彼女の絶叫は世界に響きより赤い輝きを放つ。
 炎の魔女の中で一番若く、この繰り返されてきた輪廻の始まりの彼女。皆の中で一番経験が少ないはずなのにその心は死んではいなかった。
 巨大な海の塊に灼熱の炎をこれでもかとぶつけるジゼル。それに続くように次々に名乗りを上げる炎の魔女が光を輝かせ、真っ暗な大地から空へと飛び出した。
「おい、サラ!負けてられねーな!行くぜ!レインも休んでないで来いよ!」
「もうほんと、いつだってこんなんなんだから!ちょっと待ちなさい!今この中で一番の先輩は私なんだからね!」
 声に明るさを取り戻したサラもミヤと一緒に名乗りを上げ飛び出した。
 レインは氷の魔女に声をかける。
「確かにあなたは強い。その心も覚悟も。でも、あなたは一人。私たちには仲間がいる!どんな時にだって助けてくれる、何倍もの勇気と力を化してくれる。だから、私たちは負けないんだ」
 その言葉に氷の魔女の返事はない。レインはいったん仲間たちの方を向いてから、氷の魔女に最後の言葉を残す。
「借りたものを返しに行ってくるよ」
 レインは勢いよく飛び出し、名乗りとともに最後の魂を燃やす。
 102人の炎がこの国を囲うような巨大な魔法障壁を作り出す。氷の魔女、最大最強の魔物の一切の侵入を巨大な魔法障壁が拒んだ。
「押し返せぇええええええええ!」
「はああああああああああああ!」
 ミヤとサラの掛け声と共に炎の魔女の皆が声をあげる。
 少しずつ魔法障壁がかすかな輝きを放ち始める。点滅し、輝いた先にある魔法障壁の反転。そこまで持ち込むことができれば巨大なこの蛇を消し飛ばすことができるかもしれない。存在そのものが攻撃に当たる魔法の海だからこそ可能なことだ。
 そんな中ふと後方から嫌な魔力を感じた。
 氷の魔女が巨大なラベンダーに何かの魔力を流し込んでいる。それをサラは知っている。
 ヴィットリア先生にした時と同じ。いやその時よりももっと強力。
 今思い返せば、氷の魔女にとってアデリーナは最も貴重な存在。そんな彼女をやすやす殺すはずがない。それになぜ、あの花は凍ったままなのか。
 ラベンダーが色褪せはじめ、花弁が散り始めた。それが終われば今度こそ取り返しのつかない事態になることは容易に想像できた。炎の魔女と氷の魔女、両方の力を使えることになったとすればもうできないことは何もない。全ての灯が完全に途絶える。
「皆!アデリーナは死んでない!彼女を氷の魔女の手に渡してはダメ!」
 サラの絶叫に振り返る炎の魔女が状況を察する。
「ここですべてが決まる!」
 続けて叫ぶサラにうなずき、皆が片手を氷の魔女に向け黄色い光線を放つ。しかし、102本の光線は氷の魔女の魔法障壁に阻まれる。さらに、片手になったために魔法障壁の輝きが薄れ巨大な蛇の勢いが増した。
「花弁がすべて散る前に!」
 しかし、すでに半分の花びらが散っていた。
「もう手遅れよ」
 氷の魔女の冷たい声が皆の頭に直接届いた。しかし、ここであきらめるわけにはいかない!
 その間に花弁は残り2割となった。
「だめえぇぇぇぇぇぇえええええ!」
 サラが両手を氷の魔女に向ける。たとえこの命が尽きたとしてもアデリーナを氷の魔女の手に落としてはいけない!
 102人が一斉に両手を氷の魔女へと向ける。同時に魔法障壁が消え、巨大な蛇の進行が開始した。
「だから無駄だといった。私にはもう見えていた」
 直接脳内に届く氷の魔女の言葉が未来の事実を宣言する。
 もう炎の魔女の誰にも魔力は残っていない。この空間の魔力が完全に尽きたのだ。上空に立っていた炎の魔女が次々に落ち始める。まるで力尽きたように、瞳の輝きが薄れていく。死んだコバエのようにゆっくりと落ちていく。
 サラの隣にいるミヤも無言で落ち始めた。そして、サラも全て花弁が散ったラベンダーを見ながら落ちていった。
 もう声も出ない。
 残る蕾に意味もなく手を向け、思いを向けることしかできない。
 大蛇の近くにいた炎の魔女は宙を落ちていく中、その大蛇の体に飲み込まれていった。
 サラの後ろに、もう大蛇の体が迫ってる。
 サラはそのまま全てを大蛇に飲み込まれた。
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登場人物紹介

アデリーナ (主人公)

魔女の眷属として召喚された騎士 誇り高く凛々しく正義感が強い

ブル―のことが好き

ブルー・デ・メルロ

魔女の眷属といて召喚された騎士 感情の起伏が薄く口数が少ない

アデリーナを気にかけている

シルビア・デ・メルロ

氷の魔女 ラベンダーノヨテ聖域国の女王

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