第19話 執念

文字数 8,880文字

 ラベンダーノヨテ聖域国
 東北南、第二区修練場。
 一般兵と志願した私は今ここにいた。『炎の魔女』の襲撃を受け、少しでも女王陛下の役に立ちたいと志願したのだ。
 周りの一般兵もほとんど動機は同じだった。30年前のあの地獄を見てきたものは多い。
 突如として炎の魔女がこの国に現れ、町中が壊され混沌と化した。そんな中、我々を守るため、女王陛下自ら炎の魔女と戦い無事勝利を収めてくれた。炎の魔女亡き今も残党による脅威が消えたわけではない。
 その脅威に立ち向かうため、私は数少ない女だったが、信念を胸にこの修練場へときた。
 見たところ、100人ちかくの一般兵の私たちは中央広場に集められ修練をするようだ。端には50人ほどの衛兵が鍛錬を行っている。
 ここで洗練された者たちが衛兵へと昇格できる。
 誰が私たちの指南役に当たるのか、周りを見渡していると正面の高台に一人の重騎士が現れる。
 青色の厚い鎧。
 それは見間違えるはずもなく『蒼軍』だ。女王陛下直属の部隊。選ばれたものしかその鎧を着ることの許されない、皆のあこがれ。
 私は無意識に鼻の穴を広げていた。
 周りの同期も高揚しているようだった。
「落ち着き給え。今回は女王陛下の命令により我々が指南役と任された」
 その言葉に歓声が上がる。
「厳しい鍛錬になると思うが、ともに乗り越えよう。そして、邪しき悪魔の眷属『炎の暁』を我々で打ち倒そう。女王陛下の導きがあらんことを!」
 高揚が最高点まで達した所で、それは唐突にやってきた。
 高台の重騎士の胸を剣が貫いた。
 高台に倒れ込む重騎士の上に赤いローブを着た誰かが降り立ち剣を引き抜く。
 ここまで来れば、想像に固くない。
 目の前にいる奴こそ、我々の宿敵『炎の暁』。
 皆の高揚は一瞬にして怒りへと塗り替えられた。
 炎の魔女が死んだ今、奴らを1人残らず殺せば世界に平和が訪れる。
 中央に降り立った深くフードを被った騎士にいっせいに皆が襲いかかる。
 軽やかに斬撃を交わし、次々に同期たちが斬られていく。
 あっという間に15人もやられた。
 そんな中、2人の重騎士がローブの騎士に向かい合った。
 「やってやれ!」「倒せ!」「反逆者を許すな!」「悪を許してはならない!」思い思いの重騎士への歓声と赤騎士への罵倒が飛び交う。
 その間にも残り2人の赤騎士が背後から囲い込み、4人で完全に包囲した。
 奇襲という『炎の暁』らしい小癪な技で一人の蒼軍がやられてしまったが、今回はそう簡単にはいかなかった。残党の攻撃をきれいに大盾で受け止め、反撃する。連携のとれた4人の蒼軍の動きに翻弄され、見る見るうちに中央に追い込まれていく。
 衛兵の投げた横やりが敵のローブを引きはがしたことにより、一気に歓声が沸き上がる。
 誰しもが『炎の暁』の処刑に目を輝かせた。
 しかし、私だけは目の前の赤騎士の表情を見逃さなかった。
 兜を付けていない赤騎士がただ下を向いている。この状況に絶望し、ただうなだれてるように見えているのかもしれない。だだ、頬に力を入れているのがわかる。私が笑うのをこらえる時と同じ。
「烈火」
 唐突につぶやかれた赤騎士の言葉。気が付けば兜を身に着けている赤騎士。
 次の瞬間、時が止まったかのような静寂の中、大きな光が視界を奪う。そして、遅れてやってくる衝撃と爆音がすべての歓声をもみ消した。
 たったの一撃で、4人の重騎士がやられた。そんな状況を理解する前に赤騎士は動いている。次々に切り倒されていく衛兵たち。真っ赤に輝く剣から炎が溢れ出し、空気が斬れていく。
 それは戦いではなく一方的な虐殺だった。肉が抉れ、皮膚が飛び散り、生焼けのにおいが鼻を衝く。返り血で真っ赤に染まる赤騎士は、死体の上で目を輝かせ笑っていた。兜越しでもわかるほどこの状況を楽しんでいる。
 同時に武具倉庫の方から爆発音が響き渡る。
 赤騎士が握る白銀の剣は人の血を吸うように赤黒く染まっていく。彼女からあふれ出す熱風はいつのまにかどす黒い邪悪な炎に変わっていた。
 気づけな戦意をなくし、剣を地面に落としていた私の前に赤騎士は近づいてくる。
 いつの間にか私以外に生きている人間はいなかった。
 赤騎士は兜を外すと無表情で私の顔をのぞき込む。
 さっきまでの凶器じみた笑顔は消えているが、そこに眠る怒りがひしひしと肌に伝わってくる。
 私は失禁していることにも気づかず、気絶した。




 アデリーナ計画が失敗し、もう一人の自分が生まれなかったこの世界。ある意味一つの目的を達成したこととなったがその代償はあまりにも大きかった。
 アデリーナの記憶の中とのずれが、必ずしも望んだ未来を引き寄せてくれるとは限らない。いずれ来る『約束の日』で有意だった炎の暁をより確実なものとするためにも妥協は許されない。
 まずは戦力を集める事。個人の意志を尊重した、今の炎の暁のやり方では手間が多い。だからと言って見境もなく住民を殺しても、青の騎士団によってすぐに殺されてしまう。短剣の数は有限で、炎の魔女が作ったものであるために量産も難しい。儀式では初め意識が錯乱しだろゴンとして暴れてしまう以上、どこに隠れ儀式を行おうとしても魔法障壁で封印された結界の中でない限りすぐに見つかってしまう。
 拠点をすべて破壊されてしまった今、魔法障壁を発動させるのは手間がかかりすぎる。だからと言って市民たちを一度『永遠の大地』に呼んでから儀式を行うのは不可能。それは氷の魔女が建てた八の塔が炎の魔力を一切受け付けない魔法障壁としてこの国を覆っているためだ。この塔がある限り氷の魔女の魔力が邪魔をし、市民は一切この国の外に一切出ることができない。その為に炎の暁にはいる儀式として一度死ななければならなかった。短剣に込められた魔力は死んだ体をドラゴンとして蘇生するもの。こういったことからアリーは個人の意思を一番に重んじている。しかし、世界を変えるならばそんな甘い考えなど捨てるべきだ。
 アデリーナはこの数十年、この短剣について調べて来た。この魔力をどのようにしてたくさんの人間に流し込むかを。
 短剣に込められている魔力は強力で、とてもアデリーナが真似して作れる代物ではない。なにしろ、一瞬で体をドラゴンへと作り変える魔力を、血管を通して体内に流し込んでいるのだから。
 しかし、それを少しずつ体に流し込む場合、話は別だ。
 アデリーナは既に算段が付いていた。
 アデリーナが自らの手で作り出した白銀の剣。未完成で単調な剣だか東北南、第二区修練場で大量の血を吸わせることで赤黒い魔力のこもった剣が完成した。何度も市民を実験に使い作り出したアデリーナの剣に間違いはなかった。その後完成した剣の質を上げるため、圧縮した血肉でできた赤黒い短剣を生成することができた。
 もちろん、その短剣の効力は第二区修練場で誘拐した兵士で実証済み。
 その短剣で刺された彼女はドラゴンへと姿を変えた。
 この短剣の魔力をこの国の民全員に定期的に支給されるパンに流し込む。アデリーナが作りだした偽造の魔剣を最下邸の底で作られるパンを作り機械に刺しめば、魔剣からパンへと肉体を変形させる魔力を流し込める。魔力は少ないが、何年も食べ続ければ体は浸食され儀式に必要な充分な魔力が蓄えられる。そのおかげで探知される恐れも少なくすみ、じわじわと国民たちを汚染させていくことができる。
 ラベンダーノヨテ聖域国、南南東、第4区大通り。
 大きな店の屋根に赤いフードを被った三人の赤騎士が立っている。その中央に立つアデリーナは例の魔剣を丁寧にしまう。
「そろそろね」
 後ろで周囲を警戒していたサラが何かを待っているかのように小さな声を漏らす。

 ——ドォーンッ‼ 
 突如、後方から大きな爆発音と共に黒い煙が上っていく。それは『黒煙の蛇』の合図だった。
「来たか」
 興奮しているのかミヤの声が普段より少し高い。
 しかし、それとは対照的にアデリーナの低い声が空気を捻じ曲げる。
「行く」
 言い終える前に飛び出すアデリーナの後ろに二人が続く。目指すは最下邸の最深部。
 先生が死んだあの日、ラベンダーノヨテ聖域国はたった一人の彼女によって甚大な被害を受けた。
 一時的に統制力が弱まった影響で、国に不満を持つものが次第に集まり組織ができ上った。その組織の名前が『黒煙の蛇』。蛇の組織がどこにあり、誰が仕切っているのかは誰も知らない。『炎の暁』とも関係を築いていない第三の勢力の目的は塔と壁の破壊。全てが管理されたこの国の檻から抜け出す事。
 勿論この国の先に広がるのは大きな海、島国であるのだがこの国で育った一般市民は何も知らない。だから壁の外には自由があるとそう信じているのだ。
 今回の『黒煙の蛇』の目的こそがこの国を囲う障壁魔法を作り出している塔の破壊。当時のアデリーナとブルーは塔を守るために『黒煙の蛇』と戦った。
 戦闘を始めてからしばらく経過した後、城を攻めるための陽動だと気が付いたアデリーナはブルーと二手に分かれた。ブルーは塔を目指し、アデリーナは城に引き返した。
 城は複数の赤騎士に攻め込まれアデリーナの劣勢だったがブルーの助けにより無事勝利した。
 そして『黒煙の蛇』の計画もまた失敗に終わるのだが、アデリーナにとっては『黒煙の蛇』の計画の失敗の有無は関係ない。囮になってくれているだけで十分だ。そもそも魔力も何も扱えない人間が氷の魔女が作った塔を破壊するなど不可能なのだ。
「騎士団長の奴、塔の方へ向かってるらしいぜ、計画通りだな」
 ミヤの報告がアデリーナの計画の第一段階の成功を告げる。
返事の代わりにアデリーナはかける足をさらに早めた。後ろに続くサラとミヤも同時に加速する。
城の正面広場に着いたアデリーナは止まることなく駆け抜ける。
広々とした空間に人は誰もいない。静まり返っていた。
「まさかこんなに陽動がうまくいくとはな」
「浮かれないで」
 浮かれたミヤをサラが一喝する。
 しかし、あまりにも守りが薄い城にアデリーナは違和感を感じる。
「どうする?アデリーナ。見た所守りは薄いようだけど、裏口に回って静かに潜入する?」
「敵をすべて倒せば援軍を呼ばれる心配もいねーだろ」
「いくら囮になっているとはいえ、『黒煙の蛇』は人間で相手はあの王国最強の騎士。たいした時間稼ぎにはならないはず。だから私たちは最短ルートで行く」
 城の門を守る衛兵がアデリーナ達に気付くと三人の兵士が槍を構え一人の兵士が増援を呼びに行った。
 しかし、三人の赤騎士にただの人間が勝てるはずがない。
 アデリーナの剣技が二人の衛兵を屠り、ミヤの斬撃が一人の衛兵を斬殺する。増援を呼びに城の大きな廊下を走る衛兵がサラの魔法によって燃やし尽くされた。
 アデリーナは微かに感じ取れる氷の魔力の痕跡をたどり大きな廊下を走る。見覚えのある消しに、何年も過ごしたあの城と何も変わっていない。
 ——今は作戦に集中しなければ。
 懐かしむ思いを無理やりにしまい走った。
 中庭に着いたアデリーナは、中央にある祭壇に手をかける氷の魔力の痕跡を確かめる。
「で、どーだったんだよ。何か分かるんだろ。魔法は苦手だ」
「ここが一番近い、間違いなくこの真下の最下邸に魔力変換装置が眠っている」
「ミヤ。貴女はもう少し魔法も練習した方がいいですよ」
「サラ、またそれか。いいよ、魔法は。あたしにはこの剣があるんだから。魔法は得意なサラに任せるよ」
「サラ。感じ取れる?」
 アデリーナの問いかけにうなずくサラは前に出て同様に祭壇に振れる。サラは瞳を閉じた。まるで海の中のように激しくうねる魔力。魔女にしか扱えない自然界を漂う膨大な魔力のなかに微かな乱流をサラは見つけた。
 サラは目を開けると隣にいたアデリーナは優しく微笑む。
「そう、その感覚を忘れないで。雲を掴むようなものだけど、知ってるか知らないかでは雲泥の差がある」
「はい」
「なあ、さっさと行くぞ。時間がねーんだろ」
「苦手だからって人任せにしないでちゃんと魔力の操作を意識しなさい」
 ミヤの隣に並んだサラが怒った顔で注意をする。サラの言葉にうんざりした顔で聞き流すミヤ、その姿はまるで先生と生徒の様だった。
 大切な任務をこなしているのにもかかわらず変に心が澄んでいて場が和んでいる。城の守りは手薄でほとんどが衛兵ばかりで身の危険が少ないという原因も大きいのかも知れない。
「おい。アデリーナ何してるんだよ」
「行きましょう」
 気が付けばアデリーナは正面にいる二人の姿に先生との思い出を照らし合わせていた。二人の声掛けで我に返ったアデリーナは静かにうなずいた。
 移動を始めようと一歩足を前に出した時、正面にいる二人がアデリーナに向かい殺気を放ち鞘に手をかけた。
 一瞬戸惑ったアデリーナだったがすぐにその理由を察し、剣を抜きながら振り返る。
 兜の目の前で聞き覚えのある中世的な声で鼓膜を揺らす。
「——烈氷」
「アデリーナ!」「おい!」
 ——ドォォォン‼
 後ろから聞こえるサラとミヤの声を一瞬で爆音が消し去った。物凄い衝撃が体全身を打ちぬき、音が突然途切れぼやける視界が白く染まる。
アデリーナの体は場内の壁を突き破り一筋の線を引くように城門を通り抜け、城の広場の地面にたたきつけられる。砂煙がその場を支配した。
 風がゆっくりと砂を運ぶと、現れたのは大きなクレーター。
 タイル型の地面がアデリーナの体を中心に大きく凹んでいる。出来上がったクレーターからどれほどの衝撃だったのかがうかがえた。
 アデリーナはもう戦える状況ではなくなっていた。全身の鎧は完全に砕け散り、体中の皮膚が裂け血だらけ。兜ははずれ額から血が滴り落ちる。
 朦朧とする意識の中、アデリーナが震える手をゆっくりと腰に伸ばすと剣は音もなく消滅した。瀕死のアデリーナにはもう剣を維持するだけの力も残ってはいない。
 城内から聞こえる数回の爆発音と同時に砂煙を裂く一筋の蒼閃光が城門から飛び出した。それは倒れたアデリーナに向かって一直線に飛んで行く。それ剣を鋭く光らせるブルーだった。
 攻撃を止めようといていたサラとミヤが城門の内側を覆う砂煙の中から飛び出してきたが、神速の如く空間を駆け抜けていくブルーにはとても追いつけない。
「起きて!」「目を覚ませ馬鹿!」
 代わりに放たれたサラとミヤの叫び声がアデリーナに届くと同時にブルーの重い斬撃がアデリーナに直撃した。
 ——ドォォォン‼
 再び襲われる轟音と衝撃が地面を削り大きな砂煙を引き起こす。
 爆発と同時に地面が崩落し広い地下室へと落とされた。アデリーナの上に乗る青騎士は深々と突き刺している剣を横に捻る。
 意識が飛びそうになるほどの激痛が体に走り同時に抗えない吐き気が体を襲う。思わず吐き出した液体は真っ赤血に染まり口の中を鉄の味に染め上げる。
「何のためにここに来た……アデリーナ」
 音が遠のき感覚が掴みずらい、気を失う直前の感覚に近いが意識はあった。
 上から落ちてくる天井のかけらが音もなく地面に落ちる。アデリーナはこの開けた地下室が以前来たことがある最下邸である事と耳がほとんど聞こえなくなっていることに気が付いた。
 そして視界の先に、あの短剣が落ちているのが見える。鎧は粉々に砕け散っていたが幸い、あの短剣は壊れていないようだった。まだ目標の継続は出来る。
 なぜここにブルーがいるのか、はじめから計画がばれていたのか?アデリーナの頭の中に渦巻いていたそんな疑問が、血が流れて行くように引いていく。
——『今すべきことをするのよ。常に冷静に、よく考えて』
ヴィットリア先生の声が頭の中で響く。アデリーナは目線を青騎士に戻すと青騎士は地面に落ちるアデリーナの短剣へと目線を向けていた。
——まずい。ばれた?どうすれば……いや、違う!
アデリーナが手を動かすと同時にブルーの目線が戻る。お腹に刺された剣を両手で握りアデリーナは不敵に笑って見せた。
ブルーが剣を引き抜こうと力が入るのを感じるのと同時に更に力を込めて握った。両手から滲み出る血など気にも留めず逃がさない事だけを考えて。例え指が全て切れようとヴィットリア先生が死後まで戦い抜いたように、今すべきことをするんだ!
「ああああああああああ‼」
 自分に襲い掛かる理不尽、この世の不合理、それらに対する怒りの全てを力に変え叫んだ。
「「はああああああああああああああああ‼」」
 アデリーナの声に合わせるように天井に空いた穴からサラとミヤが飛び出した。迸る気持ちが咆哮となり空間感を震わせ二人の剣が共鳴するように赤い火花を散らす。
 ブルーは剣から手を離すとそのまま大きく後ろに飛んだ。しかし、二人がブルーを逃がすはずがなかった。
 アデリーナの拘束でワンテンポ遅れたブルーは回避も間に合わず、攻撃から身を守る剣もない。
 無防備のブルーを二人の赤騎士の剣技が襲う。
「グラスメリジューヌ」
 迫りくる二人の赤騎士をブルーの両手から放たれた氷の蛇が襲う。
 ——この状況でまだ魔法を扱う余裕があるの!?……違う、ブルーならそれくらいやってのける。避けられないなら攻撃するだけ、ただ一方的にやられはしない。これがその執念の表れ。その執念の積み重ねが最強の名をもたらした。
ミヤとサラ目線を合わせる。片方が先に技を放てば、相手の攻撃を相殺しながら、もう一人が確実に一撃を入れることができる。しかしその攻撃は鎧を砕くだけで終わってしまうかもしれない。ならば答えは初めから一つだ!
目線を合わせ一瞬で意気投合した2人は頷くと、迫りくる氷の蛇に剣を構えたまま突っ込んだ。そう、ブルーの攻撃を回避するでも相殺するでもなく受けきること。
ブルーが意地を見せたなら今度は私達が見せるんだ!そう言わんばかりに二人の赤騎士は烈火の如く咆哮を迸る。
「「はああああああああああああああああああああああああああ‼」」
無数の氷野蛇が二人の鎧に嚙みつき絡まりつく。動きを止めようと体に巻きつく蛇を無理やり体をはがし目の前のブルーに向かって猛進した。
鎧が氷の蛇の牙により冷気に浸食され簡単に砕け散る。氷の蛇に触れた皮膚が簡単に剥がれ落ちる。
2人の鎧は次々に崩れ綺麗な肌が剥がれ落ち、真っ赤な鮮血が体を伝う。
先生が教えてくれた剣技を2人は同時に叫ぶ。
「火焔!」
「龍破!」
 ブルーとの距離は一メートル。
 二人の放つ剣撃が巨大な竜巻となりブルーの体を包む。ブルーの何倍もの大きさのある炎の激流が容赦なく冷気を灼熱の蒸気へと変えていく。
「なぜ……」
「クソ!」
 炎の竜巻がブルーの体を包み込んだと思っていたが、両掌でその攻撃を受け止めていた。
 だが、同時にブルーの両手の鎧が砕け散るのが見える。流石のブルーでもこの攻撃をただ受け止めることは出来ないようだった。
 しかし、ブルーは一歩、また一歩と押し返している。
 体の修復に専念しているサラがブルーの手のひらに作られている魔法障壁の存在に気付く。
「何で、魔法障壁を……、それは魔女にしか使えない高等魔法のはずなのに」
 魔女になった?そんな疑問が浮かぶがサラはその考えをすぐに否定した。もし魔女になったのであればその圧倒的な魔力量ですぐに気づく。それに、こんな攻撃は簡単にはじくはずだ。何よりも、ヴィットリアが魔女になれた理由は……。
 サラの思考が思わぬ存在によって静止させられる。
 後ろからブルーとは違うとんでもない魔力を感じ取ったのだ。
 同時に、今まで感じたことないような狂気の熱風がサラとミヤの背中を襲う。それにつられ、振り返ると立つのもやっとなボロボロのアデリーナが右手を力なくブルーに向けている。抉られた腹に左手を添え、右手の指先は力が入らないのか下に垂れている。体中から血がひたたり落ち、鎧は見るも無残な形になっている。体の修復に魔力を回すのが精いっぱいで鎧の修復に魔力を回す余裕などない。しかし、確かにアデリーナから強大な魔力を感じた。
 ゆっくりと右手の指を上に上げるアデリーナは、一切体の修復に魔力を回さずこの攻撃に力を注いでいることは明らかだった。
 剣もまともに握れなさそうなその指先ですることはただ一つ、魔法だ。魔法にしてはあまりにも膨大な魔力に何を発動するのかサラは直ぐに察することができた。
 以前、『永遠の大地』で炎の魔女から魔法を教えて貰おうとした時に見せてくれた技。訓練の最後に「アデリーナに教わるといいと思うよ!彼女も教わりに来たから。私よりも違う目線から教えてくれるかもしれないからねー。それと無理しないでね、魔女と騎士では根本的に力に差があるから無理したら命を落とすよ~」そう言っていたことを今思い出す。
 彼女の魔力は明らかに体の限界を超えている。もし暴発すればその魔力で体が消し飛んでもおかしくない。しかも、今のアデリーナはボロボロで立っているのもやっと、こんな状況で魔法を発動するなんて無謀にも程がある。
「死ぬ気ですか!」
 サラの叫び声を否定するように隣に立つミヤが叫ぶ。
「行け!アデリーナ、あいつにその力を噛ましてやれ!」
 アデリーナの指先が完全にブルーを捉えた。そして、穏やかな声でこの勝負の決着を宣言する。
「エデンの雫」
 指先が黄色く輝き、一直線にブルーに向かって伸びて行く。腕の太さ程の光線が全てを焼き尽くすが如く、ブルーの魔法障壁に衝突する。
 キィィィィィィン‼
 地下で甲高い高音が物凄い衝撃波を生み出していた。 
 アデリーナの髪は大きくたなびき、必死に体を踏ん張っている。これが魔女の使っている魔法。
 どちらの魔法が優れているかの力比べ。
 エデンの雫を受け止めているブルーを見れば、いつのまにか鎧が砕け散り擦り傷だらけの体があらわになっている。
 そして、次の瞬間。アデリーナの光が魔法障壁を打ち破りブルーの鎧を襲った。
 光に突き飛ばされたブルーの体を灼熱の炎の竜巻が襲う。業火と轟音が響き渡り空間を砂煙が支配する。
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登場人物紹介

アデリーナ (主人公)

魔女の眷属として召喚された騎士 誇り高く凛々しく正義感が強い

ブル―のことが好き

ブルー・デ・メルロ

魔女の眷属といて召喚された騎士 感情の起伏が薄く口数が少ない

アデリーナを気にかけている

シルビア・デ・メルロ

氷の魔女 ラベンダーノヨテ聖域国の女王

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