48.いきはよいよい

文字数 1,442文字

バス停にたどり着く。さて、ここからがまた大変だ。間違いなく、台北市に戻らなければならない。乗るバスを間違えて、見当違いの方向に行ってしまったらアウトだ。夜暗い時間で海外をうろつくのはできるだけ避けたい。

念入りにバスの番号を確認し、間違えないように気を付ける。来た経路と同様に、瑞芳行のバスに乗る必要がある。バス停は、九份から帰ろうとする人で列ができている。始発は別のバス停だったはずなので、もしかするといくつか待たないといけないかもしれない。

30分ぐらい待つ。なかなかバスが来ない。いや、バスは来るのだが、満員なのか、このバス停では止まらないバスなのか、止まらずに通り過ぎてしまう。あるいは、止まったものの、明らかに別路線のバスだったりする。諦めてタクシーにしようと列を離れる人が増えてきた。もうすっかり日は暮れて真っ暗だ。だんだんと不安がまさってくる。

そうしているうちに、一台のバスが止まった。ただ、これも調べた番号と異なり、行先が違うように見える。どこかの駐車場に行くようだった。ただ、バスのドアが開いた時に、運転手のおじさんが何事かをしゃべった。途端に、あっと思わず声が漏れた。今、確かに瑞芳(レイファン)と言った。言ったに違いない。バスの番号は違うのだが、もしかしたら臨時で出ているバスだったりするのではないか。しかし、間違えれば面倒なことになる。

一瞬迷った。近くの日本人と思しき観光客のグループも、これ台北市にいかないよ。などと話している。だが、ここは自分の耳を信じてみることにした。意を決して乗り込む。

バスの中は満員で、バスの入り口の付近まで立ちの客で埋め尽くされている。立ってはいけないエリアギリギリに立つ。もしかするとそれをとがめられたのかもしれない、何事かをおじさんが私に話しかけたような気がしたが、それ以上は何も言われなかった。ドアは閉まり、バスは出発した。

暗く狭い曲がりくねった山道を、バスはなかなかの速度で下っていく。結構荒っぽい運転だが、横で見るおっちゃんの熟練した手さばきに妙な安心を覚える。とはいえ、カーブを曲がる度に身体が右へ左へと大きく揺れる。手でつかめるところもなく、転ばないようにするのが大変だ。本当に瑞芳にたどり着けるのか、不安になりながら、いやきっと大丈夫。ダメだったら何とかリカバればよい、と自分を鼓舞する。

山道が終わり平地の道になったあたりで、有るバス停で大半の客がおり、席に座ることが出来た。少し安堵する。そして、バスが行く道も何となく行きで通った道に見えて、たぶん大丈夫だろうという気になる。それからほどなくして、無事瑞芳駅にたどり着くことが出来たのだった。

ここからさらに電車で戻ればホテルまでたどり着ける。だが、気を抜くのはまだ早い。乗る電車を間違えないようにしなければ。そう思って、駅の地図とホームの情報を確認していたところ、通りかかった痩せた少し厳ついおじちゃんが声を掛けてくる。「台北?」と強い口調で言う。台北に行きたいのか、ということだろう。はい、と答えると、乗るべきプラットフォームを指差して教えてくれた。ちょっとしたことだが、小さな親切がありがたい。謝謝とお礼を言って、台北市行のホームに移動した。

15分ほどホームで待つ。台北市行の電車が来て、乗り込んだ。あまり客はおらず、座ることが出来た。もうこれで安心。無事ホテルにたどり着けるだろう。疲れも相まって、帰りの電車ではうとうとぼんやりとしながら台北駅への到着を待った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み